4月28日・29日、国内最大のLGBTイベントである「東京レインボープライドパレード&フェスタ」が東京都渋谷区で行われ、参加者は20万人にのぼりました(注1)。また、会場となった代々木公園には出展ブースが並び、資生堂、電通、JAL、アクセンチュアなど企業によるブースが多数出展され、その数は、企業のLGBTへの関心や取り組みの高まりにあわせ、年々増えています。


しかし、なぜこのように企業によるLGBTへの関心や取り組みは増えているのでしょうか。

東京オリパラを前に進む、企業のLGBTへの取り組み

LGBTは、レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(生まれたときのからだの性をもとに割り当てられた性と、自認する性が異なる人)の頭文字からなる言葉です。さまざまな国内調査がありますが、LGBT等の性的マイノリティは約5〜8%(注2)とも考えられており、約13人〜20人に1人がLGBTであると考えられています。

2017年日本経済団体連合会が行なった調査では、42.1%の企業がLGBTに関して何らかの取り組みを実施し、34.3%が検討中であると回答をしました。(注3)

さらに、オリンピックパラリンピックに関わる全企業に遵守が求められる「持続可能性に配慮した調達コード」や、東京都の「オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例」に性的指向や性自認による差別の禁止が明記されました。

また、国連が定めた持続可能な開発目標(SDGs)の「3.すべての人に健康と福祉を」「5.ジェンダー平等を実現しよう」「8.働きがいも経済成長も」をはじめ、いくつもの項目にLGBTは当てはまり、これからも企業の取り組み増加が想定されます。

LGBT市場は約6兆円と予測 マーケティングにおいても注目

企業がLGBTに取り組む意義はさまざまありますが、大きく分けて二つあります。

一つ目が、職場環境の整備やコンプライアンスなどの社内施策、二つ目がお客様対応やマーケティング等社外施策です。

1)職場環境の整備

LGBTへの施策は、働きやすさや生産性、企業選択等に関わり、施策がないと安全に働けない職場である可能性もあります。昨今では、企業のポリシーや行動指針に好きになる人の性別(性的指向:Sexual Orientation)や、自分がどの性別かという認識(性自認:Gender Identity)により差別をしないことを明記する企業や、家族を対象とした人事制度を同性パートナーにも適用する企業、LGBTの理解を深めるために社内研修を実施する企業が増えてきました。

2)お客様への対応

LGBTへの施策は商品選択や購買意欲に関わり、施策がないと必要な商品・サービスを提供できない可能性もあります。

国内のLGBTの消費市場であるLGBT市場は約5.9兆円(注4)との調査もありマーケティングやお客様対応としても注目されています。生命保険会社が同性パートナーに保険金の受取人になれることを明言したり、携帯電話会社携帯電話の家族割プランに同性パートナーも加入できるようにしたりするなどその取り組みは増えています。

「でも、うちの職場には、関係ないのでは?」

「とはいえ、うちの部署にはLGBTの人はいません」と思う方もいらっしゃいます。

では、一つクイズを出させてください。以下のうち何人がLGBTの人だと思いますか?


答えは..全員がLGBTの人たちです。

その人のセクシュアリティ(性のあり方)は見た目だけでは、なかなかわかりません。また、職場で同僚にカミングアウトをしているLGBTは4.8%(注5)との調査もあり、カミングアウトしない・できないことが不可視の背景にあると考えられます。「カミングアウトしている人がいないから、いない」と決めつけることはできず、その人がLGBTであってもなくても安心して働ける職場づくりが求められています。

社内の合同合宿研修が困りごとにつながる可能性も

カミングアウトをしていても、していなくてもLGBTが職場で困ることを、大きく4つご紹介します。

1)人間関係・ハラスメント

職場でカミングアウトをしている場合、周囲の理解不足によりハラスメントを受けることも少なくありません。カミングアウトをしない場合も、LGBTが職場で想定されていないことでハラスメントにつながることがあります。

声:男性社員として働いていたが、「声高いな」「おまえオネエなのか?」など先輩社員に言われることは日常茶飯事だった。また、「トランスジェンダーに営業はやらせない」と人事に希望職種の変更を求められた。(トランスジェンダー男性)

2)福利厚生・制度

福利厚生の中に同性パートナーや、法律上家族ではない家族の想定がされていない場合、LGBTにとって働き続けることが困難となる場合があります。

また、性同一性障害の人で性別適合手術(注6)を希望する場合、手術に際し長期的な休暇が必要となる場合があります。この休暇が申請できなかったり、職場において性別移行のサポートがなかったりすると、性別移行のプロセスの中で退社せざるを得なくなることがあります。

声:社内に同性パートナーシップ制度があり、同性パートナーも家族として福利厚生上扱われることが嬉しいです。さまざまな手当ての申請や、不慮の事故等で介護が必要になったときの介護休暇等が対応されているため、安心して働くことができます。(20代・男性同性愛者)

3)設備や習慣等の男女わけ

特にトランスジェンダーの従業員にとっては、トイレ、更衣室、寮、宿泊研修等の部屋/風呂などのハード面や、服装、呼称、名前、役割などのソフト面におけるジェンダーの区分に困難を覚えることは少なくありません。これらは個別の対応が必要になるからこそ、相談しやすい環境づくりが重要です。

声:合同合宿研修の際、一部の人にはカミングアウトをして、一部の人にはカミングアウトしていなかったので、お風呂はどうしようとか困りました。(20代トランスジェンダー男性)

4)就職・転職

厚生労働省は『公正な採用選考の基本』にも、「LGBT等性的マイノリティの方など特定の人を排除しないことが必要です」と記載しています。求職者の約13-20人に1人もLGBTなので、人事担当者や面接官がLGBTについて知っていることが大切です。

声:面接の際にトランスジェンダーであることを伝えると「帰れ」と面接を打ち切られ帰らされたり、最終の役員面接で「体はどうなっているんだ?子どもは産めるのか?」とセクハラを受けることもありました。(20代トランスジェンダー男性)
LGBTであってもなくて被害につながる「SOGIハラ」

Aさん:Bくん、彼女できた?
Bさん:いや、できてないです。
Aさん:Bくんって、どんな人がタイプなの?
Bさん:いや、特には..
Aさん:Bくん、ずっと彼女いないからホモなんじゃないかって噂されてるぞ!
今度女の子、紹介してあげるって!
Bさん:はあ..そうですか..

このように、性的指向や性自認に関連して、差別的な言動や嘲笑は「SOGIハラ」とも呼ばれます。言われている相手がLGBTであってもなくても、このような言動はSOGIハラに当てはまるので、どのような場面や人であってもこのようにSOGI(性的指向・性自認)について笑いのネタにしないことはとても重要です。

SOGIハラの場面を見聞きしたら、周囲ができる役割はたくさんありますが、そのうちの4つを挙げます。

1)制止者:「それはハラスメントだから言わないように」など、ハラスメントを指摘し制止する役目になる
2)通報者:職場のハラスメント相談窓口に伝えるなど、対応や防止のためのアクションをとる役目になる
3)スイッチャー:「話は変わるんですけど..」などとその場で話題を変えたり、場の空気を変える役目になる
4)シェルター:一緒に笑ったりせず、事後に「さっきの嫌じゃなかった?」などと声をかけることで、相談できる環境があることを本人に伝え「シェルター(避難所)」の役目になる

上司・同僚として、今日からできること

上記のように、SOGIハラの場面に限らず、日常的に「アライ」であることもとても重要です。アライは「理解者・同盟」を指す英単語「Allianceアライアンス)」から来ている言葉で、LGBTの理解者を指します。

アライであることを伝えるために、以下のようなことができます。

・「男なら家庭を持って一人前」「もっと女らしくしないと」など、男性/女性を前提としない。
・「早く結婚しなよ」「そのうち親になるんだから」など、誰もが結婚や子育てをすることを前提としない。
・赤・橙・黄・緑・青・紫の6色の虹は、LGBTに理解があることの国際的な象徴とされている。6色のレインボーアイテムを身につけたり、置いたりする。
・日常的に、LGBTニュースや話題について職場で肯定的に話す。
・この記事をSNSなどで肯定的にシェアする。
LGBTの本などを読み、さらに理解を深める(無料の冊子をhttps://rebitlgbt.org/companyからお申し込みいただけます)。

アライの存在は職場の心理的安全性にも影響します。職場にアライがいないと回答した人のうち、職場の心理的安全性が高いと回答した人は23.4%であるのに対し、職場にアライがいると回答した人では61.6%でした。(注7)

また、LGBTに限らず、見た目だけではわからないさまざまな違いが想定され、誰にとっても心理的安全を持ち働ける職場が増えることを願っています。

脚注
1.「東京レインボープライドサイトhttps://tokyorainbowpride.com2. 国内の調査ではLGBTは8.9%(2019年 電通ダイバーシティラボ)や、8.0%(2016年 LGBT総合研究所)といった結果がある。
3. 2017 日本経済団体連合会ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて」
4.5. 電通ダイバーシティ・ラボ「LGBT調査2015」より引用
6. 性別違和を持つ人が、性自認 に身体の性を近づけるため、内外性器に対して行う手術。国内では戸籍上の性別変更の必要条件となっている。個人の状況や手術の段階によって、数週間から数ヶ月の休暇が必要になることもある。
7. 特定非営利活動法人 虹色ダイバーシティ、国際基督教大学ジェンダー研究センター 2018 調査より引用

プロフィール
藥師実芳(やくし・みか)
特定非営利活動法人ReBit代表理事、キャリアカウンセラー。
1989年京都生まれ。早稲田大学卒。在学中に特定非営利活動法人ReBitの前進となる学生団体を設立。ウェブ広告代理店での勤務を経て、現職。大手企業、行政、学校などで講演実績多数。2000名のLGBTの就活・就労を支援。新宿区自殺総合対策若者支援対策専門部会委員、世田谷区男女共同参画プラン策定検討委員、他。2015年、青年版国民栄誉賞と言われる「人間力大賞」受賞。2016年、ダボス会議で知られる世界経済フォーラムに任命された若者によるコミュニティ「グローバルシェイパーズコミュニティ」の一員となる。共著に『LGBTってなんだろう?』『トランスジェンダーと職場環境ハンドブック』他。

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