「妊娠」がどのカップルにとっても一大ニュースなのは言うまでもありません。生まれる子どもの祖父母や親戚、友人などにとっても心躍る、おめでたいことです。それだけに、ともすれば妊婦を「腫れ物に触る」ように扱ってしまいがち。

しかし、筆者の住むニュージーランドではちょっと様子が違います。女性がおなかに赤ちゃんを宿し、育むことは自然なこと。女性に備わる本能を信じ、周りの人々は見守ります。

妊娠期間中は「自然に従って」という考え方

妊娠していることがわかった筆者に、出産はごく自然なことなのだと教えてくれたのは主治医でした。妊娠の確認をしてもらった際、妊娠初期にやっていいこと、やってはいけないことをいくつか具体的に尋ねました。車の運転をしていいか、ラップトップや書類が入って、そこそこ重い仕事用鞄を持ち歩いていいかなどです。

先生は、「過度なことはいけないけれど」と前置きはしたものの、これはだめ、これはよしという答え方はしませんでした。「自分でできそうと思ったことはやってみなさい。できないと感じたら、すぐにやめてね」とアドバイスをくれたのです。

この時、筆者は感じ取りました。妊娠期間中、自分の体と相談しながらいけばいいんだ、ということを。体の声に耳を傾けながら体調管理をするのは、妊娠しているしていないに関わりなく、私たちが普段から行っていることではないでしょうか。

新しい命を体に宿すことは「特別」なことともいえますが、別の見方をすれば「自然の営み」の1つにほかならないというわけです。先生のこの姿勢のおかげで、筆者は気負わず、自然体で出産することができました。

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柔軟でオプションが豊富な妊娠・出産

ニュージーランドでは妊娠がわかるとまず、「リード・マタニティー・ケアラーLMC)」を選びます。

LMCは端的に言うと、「妊婦の面倒を見る専門家」です。お医者さんでもいいですし、助産師さんでも構いません。LMCは出産時の立ち会いだけでなく、妊娠期間中から赤ちゃんの生後4~6週間目まで、母子双方の健康管理も担当します。

そのため、妊婦は慎重に自分に合ったLMCを選びます。何人かと「お見合い」をし、相性やLMC自身の経験を確認した上で決めます。とはいうものの、途中で違うLMCに替えることもできなくはありません。

筆者は複数の助産師さんが集まったグループを見つけ、その中の1人にお願いしました。グループは一軒家を診療所にしており、助産師さんに会う部屋は診察室というより「居間」という雰囲気。居心地のよい部屋では気分もリラックスして、質問や相談をしやすかったのを覚えています。時にはおしゃべりも楽しみ、お互いを理解し合えるようになりました。

妊娠中に受ける健診の頻度は一般的に32週までは約1カ月に1度、36週までは2週間に1度、それ以降は生まれるまで毎週です。でも、これも四角四面に決まっているわけではなく、体調や都合などによって調整しても問題はありません。

エコー検査も母子ともに健康であれば、11~14週と18~20週の2回行われるのみです。これも希望しないのなら、受けなくても構いません。妊娠が順調なのであれば、何事も柔軟な対応が可能。また、LMCは必要なアドバイスや処置は行いますが、妊婦の感じ方を尊重しつつ、お産の裏方に徹します。

出産の場にも選択肢が用意されています。公立病院や、私立の病院や助産院、自宅などです。初産で順調な妊娠期間を経ている妊婦の多くは公立病院を選びます。

妊娠から出産まで、さまざまなオプションが与えられているのはとても幸運なことです。でも、これには責任が伴うことも事実。新たな命をベストな状況で迎えるために、妊婦もパートナーも自分の意見を持ち、正しい選択を行うために、共に学び、話し合います。努力は、赤ちゃんが生まれた瞬間に報われるものです。

妊娠・出産費は無料

妊婦が自らの意向を生かすことができる機会をふんだんに設けた妊娠・出産だけに、費用はいかばかりかと気になるところですが、実は無料です。

病気などで専門医の関与が必要になったり、出産に私立の施設を利用したりしない限り、LMCによる健診にも出産にもお金はかかりません。必要な健診などをしっかり受け、女性が安全に健康な赤ちゃんを出産できるよう、政府が負担しているのです。

いざ赤ちゃんが生まれれば、共働きから一時的にしろ、1人分の収入で家計をやりくりしていかなくてはならないのですから、カップルにとっては大助かり。これはニュージーランド政府からの「出産祝い」といえるのかもしれません。