「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という言葉がある。投資で必ず成功する秘訣を探っても、局面によって異なり、結局は「柔軟に対応する」以外に普遍的な法則を見出すことは難しい。ただ、失敗には必ず理由があり、こうすれば必ず失敗するという秘訣(?)は何となく示せるような気がする。この「失敗の法則」を反面教師とし、運用に生かせるのでは――ブラックロック・ジャパンの取締役パートナービジネス統括の浜田直之氏(写真)が、人生100年時代といわれるこれからの資産運用を考えるポイントを語る。

<総合的な運用力を評価>

 投資を始めるにあたって、過去の実績(パフォーマンス)を重視する方が多い。たとえば、個人投資家が投資信託を選択する際に、よく参考にするのがトラックレコードだ。トラックレコードは、たしかに過去のファンドの実績や特徴をとらえる上で重要だが、車の運転にたとえるとバックミラーから見える景色ともいえる。当然ながらバックミラーだけを見ながら運転するのは危険だ。フロントガラスの向こうにある光景を確認しながら運転する必要がある。運用においても同じことがいえる。世界の投資環境は刻々と変化している。たとえば債券は、特にITバブル以降、金融緩和を背景に長期間にわたり安定的なパフォーマンスを上げてきた。ただし、それが今後も続くことを前提にすべきではないだろう。重要なのは、今後の見通しを踏まえて運用することだ。

 トラックレコードを過信すべきではないとの考えは、世界のプロの投資家の間でも広く浸透しつつある。投資をする際に、過去のパフォーマンスだけではなく、それを将来も再現できる運用体制や運用手法かを確認する必要がある。世界最大級の政府系ファンドなどは、近年はこのような定性面の評価の比重を高めているようだ。また、モーニングスターなどのファンド評価会社も、運用チームの安定性やコスト面、運用哲学に基づいて運用しているか、総合的に判断することが主流となっている。

<運用(アドバイス)の起点はリスク管理>

 米国で成功しているファイナンシャル・アドバイザー(FA)に聞くと、同国では、何度かの大きな失敗から学び、投資家に対するアドバイスの中身・スタイルが大きく変わってきているようだ。米国では以前、個別ファンドの期待リターンに焦点を当てた説明が中心であった。しかし、ITバブル崩壊リーマンショックなど、市場が大きく変動した際には、当然ながら期待したようなパフォーマンスが得られず、投資家は不満を募らせた。そうした中で、アドバイスの起点として、ポートフォリオのリスクに着目することが重要であるとの認識が広まった。リスクとは、資産価格の振れ幅(ブレ)を示し、ある資産にどれくらいのリスクが内在しているかは過去のデータから推測できる。

 FAはまず、お客様がゴールを達成するために、どれくらいのリスクを許容できるのかという「リスクバンド」を確認する。そしてリスク許容度に応じて、あらかじめ一定のバンドを設定し、モニタリングする。市場が激しく動いた場合に、投資がその範囲におさまっているかを確認し、その上で変動の要因を説明する。そうすることで、投資家が短期的なパフォーマンスのブレに大きく動揺することはなくなり、同時にパフォーマンスに対して納得感が実感できるようになった。長期保有に対する自信にもつながっているようだ。

 投資する際には、トラックレコードに加え、今後の投資環境をふまえた上で、ファンドの運用体制、運用哲学、コスト管理などの総合的な点から投資判断を行うことが重要である。さらに、リスク管理を重視し、長期の視点でリターンをとらえることを検討すべきであろう。(情報提供:モーニングスター社)

「失敗の法則」から学ぶ資産運用法(3):トラックレコードを過信する=ブラックロック浜田氏に聞く