てぃらいみ / PIXTA(ピクスタ)

 政界とパチンコ業界が急速にその距離を縮めている。

 通称パチンコ議連と呼ばれる自民党の「時代に適した風営法を求める議員連盟」(以下、風営法議連)が、4月25日、山本順三国家公安委員長宛に遊技機基準等に関する提言を行った。

 ギャンブル等依存症基本法及びギャンブル等依存症対策推進基本計画が定められ、公営ギャンブルのみならず、パチンコ業界も遊技機の射幸性の抑制のほか様々な対策を講じなくてはならない現状で、自民党は何を提言したのか。また与党の有力者らによる提言がなされた背景にはパチンコ業界のどのような現状があるのか。

◆業界側がパチンコ議連に訴えた現状
 ことの発端は昨年の11月

 風営法議連のメンバーが東京・永田町自民党本部において総会を開き、パチンコ業界の現状に対するヒアリングを行った。この総会には業界関係者らが多数オブザーブ参加をし、ギャンブル等依存症対策基本法の制定より困窮を極める業界の現状について声高に訴えた。

 パチンコ業界の声が最も大きかったのは、2018年2月に改正された遊技機等規則に沿った新基準機が市場にほとんど投入されていないこと。

 メーカーは、パチンコパチスロ遊技機が、法で定められた射幸性を維持しているのかどうかの試験を行う保安通信協会(以下、保通協)の試験方式が大幅に変更されたことにより、メーカー内に大きな混乱が生じている事や試験方式の不明瞭さについて訴えた。

 パチンコホール側も、メーカーから新規則遊技機が市場投入された現状で、旧基準機の撤去を促進しようにも代替機が大きく不足している事を説明した。

 遊技機の流通を担う販社側からは、中古遊技機の流通がストップしてしまっていることにより多くの中小販社が倒産の危機に瀕していると窮状を伝えた。

◆風営法議連の提言は何を語ったのか?
 これらの、パチンコ業界の要望をヒアリングした自民党・風営法議連は、早々に遊技機基準等PT(プロジェクトチーム)を発足。3月12日から4月25日までの2か月足らずの間に4回もの会合を開き、遂には提言を提出するまでにまとめあげた。

 保通協による遊技機試験の適合率が低い水準に留まっていることを指摘したうえで、その提言の内容は以下の5つ。

① 型式試験(=遊技機試験)の結果を開示する等、適合を容易にするための方策を取り、適合率を向上させること
② 遊技機のゲーム性、エンターテイメント性の向上にも配慮し、そうした遊技機が開発可能な環境整備に努めること
③ ①と②について、警察当局とパチンコ業界の協議の場を定期的に設けること
④ 射幸性の高さとギャンブル等依存との因果関係が科学的に立証されていないことを踏まえ、科学的な知見を蓄積しながら、制度や実務運用が客観的且つ合理的なものになるよう必要な見直しを検討すること
⑤ (「ATMの撤去等」が法令に基づき求められているものではないとした上で)パチンコパチスロ産業が、増加する訪日外国人観光客の娯楽の受け皿となりうるよう、警察当局はキャッシュレス社会に対応するイノベーショ促進を妨げないよう、最大限配慮すべき。

 提言の最後には、型式試験の適合率が改正前の水準に上昇し、新規則機が普及するまで、風営法議連が「警察当局の取り組みをフォローしていく」とまで記している。

 パチンコ業界に対するヒアリングから提言までのスピードもさることながら、内容的にもかなり踏み込んだ提言であることは、業界関係者のみならず、業界に一定の理解がある人であれば十分に読み取れる。

 パチンコ業界が窮状を訴えていた新規則機についてだけではなく、ATMの撤去不要論にまでも踏み込んでおり、また④に至っては、常々パチンコ業界が言い続けてきた、遊技機の射幸性とギャンブル依存症との因果関係は科学的に証明されていないという点についても与党がお墨付きを与えている。

◆風営法議連の提言で業界は何を得たのか?
 今回の自民党・風営法議連の提言により、法律が覆る訳ではない。法は法、提言は提言。長期的な視野でみれば、今後のパチンコ業界に関わる法整備にも一定の影響を及ぼすかも知れ合いが、即効性があるものではない。

 しかし今回の提言により、パチンコ業界が得たものは決して小さくはない

 まず問題の発端であった、規則改正による新規則機の市場投入が容易になるのかという問題については、5月以降の保通協適合率を見てみなければわからないが、少なくとも「なぜ不合格になったのか」という点がクリアにされれば自ずと適合率も向上するはずである。

 またギャンブル等依存症対策推進基本計画において、強く要請されていたパチンコホール内のATMの撤去についても、非撤去をも選択肢として業界が対策を講じる十分な時間的猶予も与えられた。

◆業界にとって好都合な政官民のじゃんけんの構図
 しかし何よりも今回の提言によりパチンコ業界が得たものは、政官民の三すくみの関係性を構築出来た事であろう。簡単に言えばじゃんけんの論理である。

 今までは、特にギャンブル等依存症対策が政府や国会で議論され始めてからは、パチンコ業界は所管する警察庁の指導を無条件で受け入れざると得なかった。時にそれが業界の現状にそぐわないものであっても、行政の指導であれば「NO」という判断を下すことは出来なかった。圧倒的な上下関係。元来、官と民の関係性とはそういうものではあるが。

 しかし、官は政に弱い。官僚とは、政治の決定を世の中に落とし込む事がすべてであり、政治が右と言えば右に忖度し、左と言えば左に舵を切るのが官僚の性でもあり矜持でもある。

 一方、政は民に甘い。官は産業を管理するが、政は産業を育成するという視点の差もあるが、生々しい話をすれば、民は政の票という命運を握っていることがその下地にある。選挙が近くなればなるほど、政は民に、よく言えば面倒見がよくなるし、悪く言えば甘言を弄す。

 政官民のじゃんけんの構図。

 今回の自民党・風営法議連の提言と、そこに至るプロセスパチンコ業界にもたらしたものは、その内容以上に大きいのだ。

 ただ、何かを新しく得るという事は相応の対価も求められる。まして政治の力をもって得たものである。その対価は決して安くはないはずだ。

<文・安達 夕 @yuu_adachi

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