小笠原理恵「自衛隊ができない100のこと 56」



海上自衛隊カレーはもともと金曜ではなかった



 災害派遣でふるまわれる自衛隊の作る食事は被災地の人の心のよりどころになります。自衛隊では献立を作り、調理指導を行う栄養士や実際の食事をつくる糧食勤務員(陸自)・給養員(海自)というような係がいます。自衛隊の料理は大鍋で大量につくるため男性が調理をすることが多いようです。陸自はどこにでも異動できるように大型の炊事車があります。野外水具と呼ばれる車ではかなり強い火力で調理ができます。長い訓練や演習、海外派遣でも温かくおいしい食事は人の心を和ませてくれるものです。



 毎年、横須賀で行われる海上自衛隊海軍カレーが同時に食べられる「よこすかカレーフェスティバル」は長蛇の列ができ大人気です。海上自衛隊は長い航海で曜日感覚がなくならないように、毎週金曜日の昼食にはカレーが出ます。「金曜日カレー」を海軍の伝統と誤解していましたが、「昔は土曜日の午後から休みだったために土曜日カレーを作っていたものが、土曜がまるまる休みとなったため金曜日に変わったのだ」と河野元統幕長がNHKの取材に答えていました。海軍カレーが土曜だったことはちょっとした「誤解」です。その程度の小さな「誤解」は気になりませんが、次の誤解はちょっと重要です。



◆大多数の国々では軍人の糧食費は国が賄うのが当然



 自衛隊は営内に居住していれば決まった時間に朝昼晩と食事が出ます。民間企業食堂の食事はその代金を目に見える形で支払っていますが、自衛隊員は無料で食事をしていると多くの人が考えています。しかし、以前この連載でレポートしたとおり、国会の記録を見ると、自衛隊員の給与体系を作る段階で、糧食費や隊舎の費用などを先に引かれていることがわかりました。遥か昔の給料を決める段階で、先取りされていたのです。だから、タダで3度のメシを食べられるお得な職業ではありませんでした。



 昭和45年の国会記録によると、自衛隊の給料体系は、自衛隊発足時に公安職の給料から3食の糧食費と隊舎等の経費相当額を差し引いたものに、残業手当や休日手当が全く支払われない分として、毎月21時間分の超過勤務手当分を加算して作られたものです。国家公務員特別職という残業手当も休日手当も出ない自衛隊の給与体系はこの時代の論理からほとんど変わらず運用されています。



 我が国は自衛隊員にタダで食事をさせるほど甘い国ではありません。大多数の国々ではそんなセコいことをせず、軍人の糧食費は国が賄うことが当然と考えているようです。しかし悲しいかな、自衛隊を「軍」と認めてはいけない現行憲法がある我が国では、自衛隊は国を護るためにしっかりと国防の任を担うというよりも、最低限の予算内でできる範囲内のことだけすればいいという感覚でずっと運用されてきました。だから何もかもが足らないままにされています。



 公安職としてもらえるはずだった金額から、食費を国に先取されていますので税金で食わせてもらっているなどと卑屈に考える必要はどこにもありません。自分の給料で払っていると考え、ガッツリしっかり食べていただきたいと思います。



自衛隊ではなぜ食事が出るのか?



 軍隊では軍人に食事を出すのが当たり前です。「腹が減っては戦ができぬ」からです。軍は栄養管理を徹底し、兵士の健康管理にも責任を持ちます。また、軍では軍人が食料を調達し自分たちで調理し兵士に提供します。自己完結した食料調達であれば、徹底管理ができ、食中毒や感染症に注意できます。



 自衛隊も長年、自衛隊員が調理してきました。たとえば陸自では栄養士が献立や調理計画をつくったものを、「糧食勤務員」が交代で調理していました。しかし近年、自衛隊員の募集は低調で、今後も自衛隊員は減る一方だと考えられています。仕事に見合った賃金を出さなきゃリクルートはできませんから、民間雇用が好調な今、自衛隊への入隊希望者は少なく、逆に自衛隊から民間企業への流出が止まりません。



 そうなると、年間の勤務時間は決まっているが、隊員の増員は不可能という前提で考えるしかありません。部外委託できる業務は委託する考えで自衛隊内改革を推進することになりました。隊員食堂の調理、食器の洗浄、食堂の清掃について、陸上自衛隊の基地内の食堂業務がほとんど民間業者への委託となりました。食品が安全かどうかは検食をしてチェックしていますが、外部委託では様々なリスクが増えるはずです。それでも、現員から食堂業務をなくし、重要な職務に専念させる対処に踏み切ったわけです。



 さて、ここで大誤算がありました。食堂業務委託後は、隊員が交代で調理員となり、調理訓練ができる流れが消えます。そこでわざわざ時間を割いて、調理実習訓練をしなければならなくなりました。本末転倒笑えない話です。



後方支援(ロジスティクス)を軽視しすぎていないか?



 自衛隊は我が国で唯一、外国の軍事組織から国民を護るための武力行使ができる組織です。「戦闘する」ためにはたくさんの「戦闘以外」のことが必要です。戦闘には準備が必要です。武器をそろえたり、基地を構築したり、負傷を治療したり、物資を輸送したり、糧食を作ったり、敵の情報をあつめたり、作戦を立てたりする必要があります。これを後方支援(ロジスティクス)といいます。最適なロジスティクスを選択することはとても重要です。



 たとえば、戦闘時に隊員の食料を確保するために、近隣から食料調達を考え、手際よく分業して調理する能力が必要不可欠です。戦闘時は既存の駐屯地にいるとは限りません。どこにいても必要な食料を調達し、輸送し、隊員たちの食事を賄わなくてはなりません。その調理の経験をコストダウンのために削っていいのでしょうか?



 たかだか「飯」の話ですが、旧日本軍ガダルカナルで大変なご苦労をしたのは、まさに「飯」や「医薬品」不足も大きな要因でした。あの厳しい敗戦から兵站をおろそかにすると勝てないことを学んでいないようです。将来のために常勤の新入隊員数を増やすべきです。コストダウン至上主義では国を護れません。近隣国の脅威が高まる中でも防衛予算を抑えることばかり考える我が国の姿勢はいかがなものなのかと思います。イザという時に本気で国民を守る準備をしようという気概は一切感じられません。国防予算は「安上がり第一」をモットーに考えるものじゃないはずなんですけどねー。



「腹が減っては戦ができぬ」って言葉を噛みしめてもらいたいものです。

小笠原理恵】
国防ジャーナリスト。「自衛官守る会」顧問。関西外語大学卒業後、報道機関などでライターとして活動。キラキラ星のブログ(【月夜のぴよこ】)を主宰





海上自衛隊Facebookより