「九死に一生を得る」という言葉があるが、状況は違えど誰でも一度くらい「死ぬかと思った……」と感じた経験があるのではないだろうか。



「平成最後の思い出作りのつもりが、マジで死ぬかと思いましたわ」と、数週間前の出来事を振り返るのは、会社員の西田俊太さん(27歳・仮名)だ。



◆深みの無い人生に……



 新元号「令和」の幕開けが迫っていた4月某日。西田さんは日本最大級の繁華街、新宿・歌舞伎町にいた。



「その日は仕事で付き合いのある方と飲んでいました。仕事の話から始まり、時期的なこともあってか、徐々に平成を振り返る話題になって。一緒に飲んでいた人は30代半ばなのですが、20代の頃は本当に無茶なことをやっていたそうで。『令和になったらどんどん生き辛い世の中になるんだろうな~』みたいなことで盛り上がりました」



 その男性の武勇伝を聞いていた西田さんだったが、その内、思考が間違った方向に働いてしまう。



「昔は気絶するまで飲んでいたとか、キャバクラで揉めてヤクザと言い合いになったとかいう類の話を聞かされて。そんなの、シラフの状態だったら『こいつバカかよ』と心の中で思うんですけど、その日はかなり酒もまわっていたせいか、『この人に比べて俺は面白くないな、深みの無い人生だ』とネガティブな感情に陥ってしまったんです。新時代の幕開けという特別感も、どこかで影響してたのかな」



 24時近くになり、終電で帰るという男性と別れた。だが、西田さんはそのまま歌舞伎町に残り続けた。



「本当にアホでした。黙って帰れば良かったのに。でも、さっき言った『深みの無い人生』が頭の中でリフレインしていたんです。テキトーに街をぶらつき始めました」



◆黒人のキャッチに声を掛けられる



 絶好のタイミングとも言うべきか、「黒人男性が近寄ってきたんですよ」と彼は話す。



「『シャチョー、2000円でいいよ~』と言われ肩を組まれた気がします。当然『うわ、これはやべえ』と思いました。でも、こいつに付いていったらかなり面白いネタが出来るんじゃないかと血迷ってしまったんですよね」



 歌舞伎町といえば、よく話題の上るのがキャッチによるぼったくり被害だ。本来なら条例でキャッチ行為は禁止されているのだが、今でも街を歩けばかなりの人数に声を掛けられることから、まだまだ野放しとなっているのが分かる。



 それでも、百歩譲って日本人に付いていくのは分かるが、黒人男性の誘いに乗るのは明らかな自殺行為に思えてならない。



「本当に自殺行為ですよね。でも平成最後のイベントだ! と自分を奮い立たせて乗り込みました。幸い、自殺未遂で済みましたけど」



アジア人女性がいるキャバクラに入店



「最初に料金の2000円だけくれと言われたので支払い、連れて行かれたのは3~4階建ての雑居ビルでした。アジア人と思われる女性が数人いる、まあキャバクラでしたね。酒は鏡月が飲み放題と言われたので、ずっと水割りを飲んでました。女性から『私も飲みたい~』とビールをねだられましたけど、それは拒否しました。酔っ払っていたけど、酒を奢るのはまずいだろうとは思っていたんです」



 だがいくら警戒心があるからといっても、女性たちの巧みな接客に、時間を忘れて楽しんでしまったそうだ。



「最初に聞かされてなかったけど、どうやら自動延長の店だったみたいです。ふとスマホを見たら深夜の2時近くになっていたので、2時間もそこに居てしまったことになります。そこで初めて我に返り、『もう帰る』と言ったのですが……」



◆70万円を請求された西田が取った行動とは



 この後の結末は容易に想像できると思うが、盛大にぼったくられることとなる。



「慌てて帰ろうとしたのですが、僕を連れてきた黒人男性が伝票を持ってきて、請求は70万円でした。でもその時は意外にも冷静で。『あ、ぼったくりってあるんだ』と思いました(笑)。『70万円なんて払えるわけないんだから、せめて7万円とかにしとけよ』と心の中でツッコんだのも覚えてます」



 当然、払えない旨を伝え、「警察に行くぞ」とも言ったそうだが……



「片言の日本語で、『ミンジフカイニュウ』と言われましたね(苦笑)。だから警察に泣きついても無理だと諦め、『最初に言われた2000円を払ったんだから、1円も払いません』と言い続けました。そしたらいきなり胸倉をつかまれて、はがいじめにされたんです。で、『コンビニに行くぞ』と凄まれました。マジで力強すぎて、『これは死ぬわ』と。『母ちゃん、スマン』と謝りました」



 黒人男性に羽交い絞めにされるという、数時間前に憧れていた危険な状況に出くわしたわけだが、そんな余裕をかましている場合ではない。この窮地を、一体どのようにして乗り切ったのだろうか。



「幸い、入口の一番近くの席に座っていて、すぐそこに非常階段とおぼしき重厚そうな扉があったんです。もちろん、そこが開くかどうかは分からなかったけど、賭けるしかないと」



◆全力疾走した結果



 西田さんは黒人男性に対し「分かった、カードで払うから」と伝えると、羽交締め(はがいじめ)にされていた手が離れた。そのタイミングを見計らい、扉に向かって猛ダッシュをし……



「扉、開いたんです。そして非常階段でした! 後はやることはひとつ。とにかく前だけを向いて全力疾走。怖くて後ろは振り返らなかったですよ。酔っ払っていたのに足がもつれることも無く走れました。火事場の馬鹿力って本当にあるんだと思いましたね。あの時の僕、多分サニブラウンくんより足速かったんじゃないかな(笑)



 無事に脱出し、令和時代を迎えることができたのは、運が良いとしかいいようがないだろう。



「あんな思いをするなら、人生に深みなんぞいらないですね(笑)。後日、夜遊びに詳しい先輩に聞いたら『あそこ界隈は近寄っちゃだめだよ~。しかも逃げて、下手したら死んでたよ』と言われて、本当に危ない状況だったんだなと。これからは、身の丈にあった飲み方を心がけます」



 運が悪ければ最悪の事態になっていてもおかしくなかったケース。いくら酒を飲んでいたとしても、このような無謀な行動は控えよう。



-シリーズ「死ぬかと思った」-

<取材・文/取材・文/日刊SPA!取材班>





新宿・歌舞伎町