1位と2位の合計勝ち点「195」はプレミアリーグ史上で断トツのトップ

 今季のプレミアリーグは文字通り、未曾有の優勝争いだった。

 凄まじく強い2強が際立ち、歴史を作った。優勝したマンチェスター・シティの勝ち点が「98」、そして2位となったリバプールが「97」。筆者は1993年3月に英国に移住したため、1992-93シーズンに創設されたプレミアリーグの歴史を見続けてきたが、こんなハイレベルな優勝争いは本当に記憶がない。

 そこで、これまでのプレミアリーグ27シーズンの1位と2位の勝ち点記録を調べてみた。すると今季のシティ「98」、リバプール「97」の勝ち点合計「195」がぶっちぎりの記録であることが歴然とした。

 2位は昨季だった。優勝したシティが大記録となる勝ち点「100」を達成し、2位マンチェスター・ユナイテッドの「81」を合計すると「181」。「180」点を超えたのは昨季と今季だけだが、しかし昨季と今季の勝ち点差は「14」と大きく開いている。

 3位は一昨季の優勝チェルシー「93」と2位トットナム「86」の合計「179」。こうして見てみると、直近の3シーズン連続で1位と2位の勝ち点合計記録が更新され続けたことになる。4位は優勝ブラックバーン「89」、2位ユナイテッド「88」の合計「177」で1994-95シーズンまでさかのぼる。しかし、このシーズンまでプレミアリーグは22チーム42試合制だったため、同一条件での記録とは見なさず、あくまで参考までの数字とする。

 その他のシーズンで合計170点台を記録したのは10回。そのうち1回は前述した42試合制だった1993-94シーズンの記録。続いて160点台が7回、150点台が6回(1回は42試合制の1992-93シーズン)。最低点を記録したのは1996-97シーズンで、優勝ユナイテッド「75」、2位ニューカッスル「68」で唯一の合計140点台となる「143」だった。

 こうした数字を見ても、今季のシティとリバプールの優勝争いが、いかに突出したハイレベルなものだったかが分かるはずだ。

 結果的にリバプールはわずか1敗で、4敗のシティに優勝を明け渡した形になった。これまで38試合を1敗で乗り切ったのは2004-05シーズン優勝のチェルシーだけ。この時のチェルシーが記録した勝ち点「95」は、昨季シティが勝ち点「100」を樹立するまでのプレミア最高勝ち点記録だった。もちろん、2003-04シーズンにはアーセナルが“インビンシブル”(無敵艦隊)と異名を取った伝説の無敗優勝を達成しているが、成績は26勝12分で意外にも勝ち点は「90」までしか伸びていない。

1位と2位の両チームが年間30勝をマークしたのも史上初

 今季4敗したシティは第25節から破竹の14連勝を記録して、昨季に並ぶ32勝を記録。リバプールも負けじと9連勝で30勝まで勝ち星を伸ばし、最後の最後までシティを追い詰めたが、引き分け数「7」が響いた。

 ちなみに今季のシティ32勝、リバプール30勝で、2チームが同時に30勝以上を記録したシーズンは今回が初めて。しかもこれまでにプレミアで30勝以上をマークしたチームは2016-17シーズン優勝のチェルシー(30勝)、昨季優勝のシティ(32勝)だけで、今季の2チームを含めてわずか4チームしか存在していない。

 またホーム&アウェー2試合の直接対決をシティが1勝1分で制しており、この結果も「1」差の優勝争いの行方に影響した。

 ただし、1月3日に行われた今季2試合目の直接対決は、この時点でリバプールが勝ち点7差をつけて首位だったため、負ければ完全に自力優勝の望みが絶たれるシティのほうが開き直り、必勝態勢で試合に臨んでいた側面もあった。ホームで行われたこの天王山を2-1で制したシティが、リバプール優勝に傾いていた流れを一気に引き戻した。

 このように、シーズンを通して本当に異常なほどの高みで激烈な優勝争いが展開されたが、この激しいつばぜり合いの中心にジョゼップ・グアルディオラユルゲン・クロップの両監督がいたことは間違いない。

 最終節を目前に控えた5月上旬に、この両雄を連日間近で取材することができた。

 5月6日は元日本代表FW岡崎慎司の取材で、シティ対レスターを観戦。残念ながら岡崎はベンチ外で取材は空振りに終わったが、主将DFヴァンサン・コンパニの一撃でしびれるような1-0辛勝をもぎ取った直後、生身のペップを目撃することができた。

 極度のストレスを強いられた試合直後の監督会見。ペップは体の震えが収まらないのか、両腕で脇腹を抱え、自分で自分を抱きしめるようにしてマイクの前に座った。

 その存在感を一言で言い表せば“インテンス”となる。異常なほどの緊張感を漂わしていた。辺りを切り裂くカミソリのようなオーラ。神経が研ぎ澄まされ、それが鋭い光線のように周りに放射している。そんな存在感だった。

温和な表情の陰に隠れたペップの苛烈さと、クロップが放つ人間的な魅力

 そして印象に残っているのが、地元記者から「今日のパフォーマンスにはかなり固さが目立ったが?」と質問が飛んだ直後の対応。ペップは突如として目を見開き、鬼の形相になると「とんでもない! 今日のパフォーマンスこそ最高だった。申し訳ないがもう一度繰り返す、ベストパフォーマンスだ!」と言い放った。

 この時、普段のインタビュー等では“物静かな哲学者”とでもいった非常に温和な顔をしたペップの陰に隠れている、尋常ではない激しさに触れた思いがした。

 優勝のプレッシャーがかかった試合を1-0で勝ち切る難しさ。精神的にギリギリのところで1点差を守り抜く強靭さ。そうしたシティの計り知れない強さの根源には、このペップの苛烈さがあるのではないだろうか。研ぎ澄まされ、勝利への1点に注がれる精神力。この激しくて鋭い思いが選手に乗り移るのだ。

 一方、翌5月7日UEFAチャンピオンズリーグ(CL)準決勝で、バルセロナを相手に歴史的な大逆転勝利を達成したクロップを見た。こちらはペップと打って変わって穏やかで、爽やかな印象だった。

 長身のドイツ人は、何か素晴らしいことを全力で成し遂げた男の達成感と満足感を漂わせ、疲れ切っていることも隠さず、等身大の姿で試合後の会見場に現れた。

 90分間ずっとピッチ上で叫んでいたせいでもう声も出ないのか、奇跡を起こした試合についてボソボソと小声で話していた。しかし、時折ジョークを交え、報道陣を笑わせた。疲れていて小声でも、その存在感は陽気な自然体そのものだった。そしていつまでも一緒にいたくなるような、人間的魅力に溢れていた。

 確かにこうした両者の個性に触れると、わずか10年ほどの監督歴で26ものメジャートロフィーを勝ち取ったペップのすごさと、優勝トロフィーの数では全く及ばず、あと一歩のところで栄光を逃すことも多いが、ドルトムント、そしてリバプールで絶大なる支持を集めるクロップの人間力が際立った。

 それに加えて両者は、スペイン的なテクニカルフットボールをとことん極めたポゼッションサッカーと、ゲルマンの不撓不屈の精神性と運動能力を集約したプレスサッカーで一世を風靡する、現在のサッカー界で最もクリエイティブな指導者であると同時に、最もファッショナブルな監督である。

 すなわち、この2人の戦いは現在のサッカー界で文字通り世界最高峰だ。そして、その戦いの火蓋はまだ切られたばかりなのである。

過去の“2強”は、勝ち点「1」差の翌シーズンも熾烈な優勝争いを展開

 最後に、過去のプレミアリーグ優勝争いで勝ち点「1」差の勝負を演じたシーズンを振り返ってみたい。すると、初めてとなった1994-95シーズンのブラックバーン「89」とユナイテッド「88」を例外にして、その2チームが翌年も凄まじい優勝争いを展開していた。

 まずは1997-98シーズンで優勝したアーセナルと2位ユナイテッドの2強。この年「78」「77」と競り合った2強は、翌年の優勝争いも勝ち点「1」差で決着した。ただし、この1998-99シーズンはユナイテッドが「79」でアーセナルの「78」を上回り、伝説のトレブル(FAカップ、CLとの三冠)を達成した。

 次は2009-10シーズンのチェルシー「86」、ユナイテッド「85」。この時も翌年はユナイテッドチェルシーとの争いを制し、覇権を奪還した。

 そして2011-12シーズンに起きた伝説の同勝ち点優勝。シティが44年ぶり3度目のリーグ優勝を果たしたのは、同都市の宿敵ユナイテッドと勝ち点「89」で並びながら、得失点差で64対56と上回っての結果だった。

 そして翌年、名将アレックス・ファーガソンの最終シーズンとなったが、ユナイテッドがシティを抑えて王者に返り咲いている。

 こうした過去の傾向からすると、来季のプレミアリーグペップが率いるシティと、クロップが率いるリバプールの“2強”で優勝争いが展開されるのは確実と見る。そして直近3回のケースを考えれば、今季勝ち点「1」差で涙を呑んだリバプールの30年ぶりのリーグ優勝となるが、果たして――。(森昌利/Masatoshi Mori)

(左から)マンチェスター・シティのグアルディオラ監督、リバプールのクロップ監督【写真:Getty Images】