西武鉄道の新型特急電車「Laview」は楽しい。都会から山間まで風景に溶け込むシルバーボディ、座席の膝下の高さまで拡大された大型窓、どことなく愛嬌のある丸い先頭車。特急だから「速い」とか「乗り心地がいい」と褒めるべきだけど、それらの要素も含めた上で、総合評価は「楽しい」。

飯能駅では進行方向が逆転する

 とくに大胆なビッグサイズの車窓から迫力ある景色を楽しめる。大画面テレビで4K8Kの風景映像を観ている場合ではない。本物の景色はそんな小さな枠には収まらない。美しい景色を見たいなら外に出よう。池袋からLaviewに乗ろう。

 池袋発西武秩父行き「ちちぶ号」は池袋駅7番線の後方、特急ホームから出発する。前から1号車、2号車の順で、最後部が8号車だ。全席指定席で、特急券はインターネットで予約可能。スマホで特急券を購入できるチケットレスサービスもある。座席配置図を表示して、座席を選べる。座席配置図は窓と窓枠の位置も表示される。

 進行方向に対して窓の後ろ側の座席に座れば、大きな窓からの景色を楽しめる。ただし、注意点として、飯能駅で進行方向が逆転する。進行方向に向きたければ座席を反転させるわけだけど、このとき、窓の後ろ側の席は反転させると窓の前側になり、視界の窓枠が大きくなる。飯能までの都会の景色を楽しみたければ窓の後ろの座席だ。飯能から先、大自然の景色を楽しみたければ窓の前側の座席を指定し、飯能から大きな視界を楽しもう。

ズバリ、オススメの座席は?

 さて、このような前知識を得た上で、もっともオススメしたい座席はズバリ「8号車12A」または「8号車12B」だ。

 池袋を発車するときに最後部、車内でももっとも後ろである。飯能までは最後部だけど、飯能から西武秩父までは先頭になる。そして、先頭車の大きな窓から前方の景色を楽しめるというわけだ。同じ列でも12Cと12Dはちょっと残念。運転席に阻まれて前方視界がよろしくない。ただし、運転士に憧れるお子様ならここもアリだ。

 他の座席がダメというわけではない。とにかく窓が大きいから、どの席からでも景色はよく見える。最前部より少し後ろからでも背筋を伸ばせば前方は見える。むしろ、ちょっと引いた位置の方が左右両側の車窓を楽しめる。先頭車ではなくとも、ときどき車内モニターで運転席展望を映してくれる。気をつけたいところは、先頭車以外の車両最前部は壁と向かい合う形になる。4人掛け向かい合わせで乗る場合は大きな窓に合わせて予約しよう。秩父から飯能までは、どちらかというとAB席側のほうが視界の開けた区間が多い。

所沢までは富士山が見える

 池袋を発車した「ちちぶ号」は、ゆっくりポイントを通って下り線に入り、大きく右へカーブしてJRの線路を越える。しばらくは地上の住宅街を走り、江古田を通過してまもなく勾配を上がって高架区間になる。次に練馬駅を通過すると西武豊島線が右へ分岐していく。このあたりからの車窓左側、晴れていれば富士山が見える。池袋線沿線の人には当たり前の風景だけど、他の地域から乗ってみると、西武鉄道から富士山が見えることに感激するだろう。AB席をオススメする理由のひとつは「富士山が見える」だ。

 高架区間は大泉学園駅で終わって地上に降りる。しかし富士山はこの先、所沢あたりまで見える。西武池袋線沿線は高架区間も地上区間も戸建て住宅が多く、豊かな暮らしぶりのようだ。「屋根にアンテナを立てている家が多いから、ケーブルテレビ光回線トリプルプレイは普及していないのかな」とか、「駅前に『ぎょうざの満洲』があると西武沿線って気がするな」とか、「だんだん緑が増えてくるな」などと思いつつ、景色を眺めている。

 所沢駅を発車すると、勾配を上がって西武新宿線を乗り越える。西所沢駅西武狭山線が左へ別れていく。次の見どころは車窓右側、小手指の車両基地だ。10両編成の電車がタテに3本並べる長い留置線。予備編成のLaviewや先輩の特急電車「ニューレッドアロー」、西武鉄道の通勤電車のほか、相互直通先の東京メトロや東急の電車がいるかも。

AB側の席なら川面を覗ける

 狭山ヶ丘、武蔵藤沢を通過して、次の見どころも車窓右側。航空自衛隊入間基地の滑走路が見える。運が良ければ自衛隊機の勇姿を拝めるだろう。車窓左側は背の高い林。入間基地官舎の目隠しかもしれないけれど、狭山稲荷山公園や東京家政大学なども緑が多く、Laviewの大きな窓に緑が増えてくる。

 入間市駅を発車すると再び住宅街だ。しかし油断してはいけない。入間川を渡る鉄橋は柵が低い。Laviewの窓は膝まであるから、AB側の席なら川面を覗ける。これはLaviewならではの景色だ。車窓左手には古い鉄橋も見える。あれは池袋線の単線時代の廃線跡だ。複線化のために現在の鉄橋に架け替えられ、古い鉄橋がまだ残っている。

 JR八高線の線路をくぐると、右手から別の線路が合流する。これが秩父方面の線路だ。「ちちぶ号」はポイントを右へ進み、飯能駅特急ホームに到着する。車内放送で進行方向が逆になると告げられ、座席を転換するときは前後のお客様にひと声かけましょうと案内される。では、座席の通路側下のペダルを踏んで、座席を反転させよう。12A、12B席の前方展望が始まる。タテに細い窓だけど。

飯能から西武秩父へ、まるで山岳路線

 飯能を出発すると左から八高線の線路が並び東飯能駅。もちろん「ちちぶ号」は通過し、さらに左へカーブ。しばらく走ると線路が分岐してどんどん増える。武蔵丘車両基地だ。その入り口には北飯能信号場というすれ違い設備があり、「ちちぶ号」が対向列車の通過を待つ場合もある。

 かつてここには天覧山駅があった。1931年に設置され、第二次世界大戦末期に休止、そのまま廃止された。ちなみに天覧山は旧天覧山駅の南西にある。しかし、遠くから見える目印がないため車窓からはわかりにくい。名前は明治天皇がこの山から軍事演習を統監したことに由来するそうだ。

 武蔵丘車両基地を通り過ぎると「ちちぶ号」は大きく左へ曲がり、高麗(こま)駅を通過して谷に突入する。眼下に見える川は高麗川。下流はJR八高線とJR川越線の接点、高麗川駅付近を経て、最終的には荒川に合流する。

 ここからしばらく渓谷の風景を楽しめるけれども、武蔵横手駅を通過するときは車窓左手の線路際に注目。運が良ければ白ヤギの「みどり」が草を食む様子が見える。雑草を刈るために西武鉄道が飼っているヤギだ。エンジン付きの機械で草刈りをするよりも、二酸化炭素排出量を小さくできるという。

車窓が写真には収まらない理由

 ここから先は山と谷と川、緑の森と野生の花咲く風景が続く。線路と高麗川は何度も交差する。Laviewの大きな窓は膝元あたりまで下にあるから、鉄橋を渡るたびに川面が見える。これがLaviewの車窓の楽しさだ。しかし、下ばかり見てはいけない。山の稜線も美しく、緑の山肌に、春はヤマザクラ、初夏はヤマフジなどを見つけられる。日本の人里近くの山は伐採され杉林になってしまったけれど、野生の花が咲くあたり、自然のままの風景と言えそうだ。

 谷底を眺めたり、山を見上げたりと忙しい。進行方向を見れば、大きな窓で両方をとらえられる。この景色はデジカメスマホの写真では収まらない。ここに来なければ、そしてLaviewに乗らなければ見られない景色だ。写真はあきらめて、しっかり観て記憶に残そう。

 ちなみに、途中で通過する吾野駅池袋線の終点だ。そこから西武秩父駅までが西武秩父線となる。1969年に開業した路線で、開業と同時に特急「レッドアロー」が走り始めた。現在は廃止されたけれど、貨物輸送も行われ、鉱山からのセメント輸送、鉱山への燃料輸送に電気機関車や貨車が活躍した。

単線区間では対向列車を待つために停まる

 飯能から西武秩父まではほとんど単線だから、すれ違いのための駅がある。対向列車を待たせて通過し、逆に、通過扱いの駅でも対向列車を待つために停まる。正丸駅もそんな駅のひとつ。正丸駅を出るとすぐに長いトンネルに入る。長さ約4.8km。1969年の開業当時は私鉄でもっとも長いトンネルだった。俊足のLaviewも通過には3分半ほどかかる。トイレに行くチャンスだ。鉄道の設備に興味があるなら、途中に設けられたすれ違い設備「正丸トンネル信号場」に注目。闇の中で列車のすれ違いがあるかもしれない。

 正丸トンネルを過ぎると、またいくつか短いトンネルを通り、景色が開けたら車窓左手に武甲山が見える。石灰石など鉱山資源を産出する山で、削り取られて階段状になった山肌が特徴的。一部は植林によって緑化されているという。

 横瀬駅に停車直前、左の車窓に線路がたくさん並んでいる。ここは横瀬車両基地。車庫というより、古い車両の解体処分や保存車両の保管場所として使われている。白いカバーがかかった車両たちが保存車両だ。秋に保存車両を公開するイベントが行われる。西武鉄道は自社の博物館を持たないけれど、年に1度、主要な車両基地を公開し見学させてくれる。

6月10日からは乗車チャンスがグッと増える

 横瀬駅を発車すると最後のトンネルに入る。このトンネルの上が芝桜で有名な羊山公園だ。トンネルを出るとゆるい右カーブで街並みを見渡し、西武秩父駅に到着する。その直前に左から秩父鉄道の線路が近づき、分岐してこちらの線路に合流する。その逆もある。西武鉄道の列車の一部が、この線路を使って秩父鉄道に直通している。しかし直通列車の運行本数は少ない。西武秩父駅から秩父鉄道御花畑駅へ、徒歩数分で乗り換えられる。

 西武秩父駅に着いたら、秩父鉄道に乗り継いでも、羊山公園を散策しても良し。西武秩父駅に隣接した日帰り温泉施設「西武秩父駅前温泉 祭の湯」もオススメ。お土産品の品数も多く、買い物も楽しい。

 現在、Laviewは池袋線の特急「ちちぶ」「むさし」として、平日は上下11本、土曜休日は上下10本の運行だ。1編成が稼働して、1編成が予備。最近、さらに1編成が追加された。2019年6月10日からは2編成が稼働して、平日は上下17本、土曜休日は上下16本になる。乗車チャンスがグッと増える。ぜひ、このコラムで予習して乗りに行こう。

写真=杉山淳一/文藝春秋

(杉山 淳一)

2019年3月にデビューしたばかりの西武鉄道新型特急車両001系「Laview」