「はじこい」のゆりゆり役で大人気、写真集は異例の大増刷、舞台挨拶で「俺は流星、彗星のごとく現れた流星」と即興ラップをかましてもサマになってしまう、今もっとも旬な俳優、横浜流星。もう名前からしてキラキラ輝いている。そんな彼が主演した映画「チア男子!!」の公開がスタートした。

原作は「桐島、部活やめるってよ」の朝井リョウ。母校・早稲田大学の男子チアリーディングチーム“SHOCKERS”をモデルにした青春小説だ。“SHOCKERS”については、昨年末の「紅白歌合戦」でHey!Say! JUMPとコラボしていたのを目にした人も多いかもしれない。いつもハツラツとしていてキラキラしている。「チア男子!!」は、2016年にはアニメ化、舞台化されている。

キラキラ俳優×キラキラチアリーダー。映画のほうも最近の邦画に多いキラキラした青春モノだろうと思う人もいるかもしれないが、さにあらず。コンプレックスにまみれた若者たちが自分の殻をぶっ壊すまでの苦闘を描く、いい意味で泥臭い作品だった。

葛藤を抱えた素人ばかりの男子チアチーム“BREAKERS”
主人公はハルこと晴希(横浜流星)。柔道道場の一人息子(姉は全国大会優勝の猛者)だが、自分に柔道の才能がないことはわかっていて、誰かを応援するときは夢中になるが、自分が勝つことには関心がない。おまけに試合で肩まで痛めてしまう。ちょっと猫背で自信なさげな歩き方に彼の性格がよく出ている。

ハルの親友が、カズこと一馬(中尾暢樹)。カズは自分が立ち上げた男子チア部にハルを誘う。両親を亡くした彼は一人きりの肉親である認知症の祖母の世話をしているが、唯一まともに祖母が反応したのが、両親がチアをしている映像だった。祖母に自分を認識してもらいたいという一心で男子チア部を立ち上げたのだ。

ハルとカズのもとに集まってきたのは、秀才だがコミュ障のため周囲からバカにされているメガネ男の溝口(浅香航大)、太っていて友人たちから蔑まされているトン(小平大智)の2人。さらに運動神経抜群だが燃えるものが見つからないイチロー(菅原健)、イチローと常に一緒にいるため劣等感に苛まれている弦(岩谷翔吾)を誘い、チア歴はあるがペアを組んでいたさくら(唐田えりか)を半身不随にしてしまった過去のある翔(瀬戸利樹)も引き込んで、葛藤を抱えた素人ばかりの男子チアチーム“BREAKERS”が始動する。

“BREKERS”とは、自分の殻を破る、壊すという意味を込めてつけられた名前だ。

虚構と現実が融合したクライマックス
映画「チア男子!!」の見せ場といえば、CGなし、ワイヤーなし、吹き替えなしで役者たち自らが演じるチアシーンだ。逆立ち、バク転、トス、キャッチなど、さまざまな動きをマスターしなければいけなかった役者たちは、撮影3ヶ月前からチアの練習に励んだ(練習の模様はDVD「公開記念 チア男子!! Road to BREAKERS!!」に収録されている)。

中尾暢樹は「台本には『バク転をする』と書かれているので、やるしかないんです」と練習に臨んだ気持ちを振り返っている。彼らはケガをしながら練習に取り組み、誰かができるようになったら誰かが引け目を感じてスランプに陥ることもあったという。それでも一つのチームのようにお互い励まし合いながらチアの練習を重ねていき、撮影本番を迎えた。

ところが撮影中に大きなアクシデントが起きる。横浜流星がクライマックスにあたる文化祭のチアシーンでケガをしてしまい、撮影が続行できなくなってしまったのだ。

浅香航大はそのときの横浜について「悔し涙をためている姿は忘れもしない。それでも彼は自分の力でやりたいと言って、けがしたパンパンの手をかばって痛みがある中、差し替えなしで自分の力でやりきった」と語っていた。実際、腕を伸ばすだけで辛かったという横浜は、チアシーンで前後のつながりとは関係なく腕にサポーターを巻いている。

映画のストーリーでは葛藤や苦悩を抱えた登場人物たちが最後にチアの舞台で思いっきり自分の感情をぶつけるのだが、役者たちも同じように血のにじむような努力と悔しさを最後のチアの撮影にぶつけている。虚構と現実が融合したクライマックスは、役者たちの汗と感情がスパークした素晴らしいものになっている。

「“キラキラ映画”として受け取られてしまう作品にはしたくなかったんです」と語る1991年生まれの風間太樹監督が、登場人物に寄り添い、役者たちに寄り添いながら作り上げてきた映画「チア男子!!」。チアの役割は誰かを応援することだが、男たちが懸命に頑張っている姿に背中を押される人も多いだろう。
(大山くまお

【作品データ】
チア男子!!
原作:朝井リョウ
監督:風間太樹
出演:横浜流星、中尾暢樹、瀬戸利樹、岩谷翔吾、菅原健、小平大智、浅香航大、清水くるみ、唐田えりか、山本千尋、伊藤歩
5月10日よりロードショー