福山雅治主演のTBSの日曜劇場「集団左遷!!」(よる9時〜)では、三友銀行の蒲田支店の副支店長である真山徹(香川照之)が、毎日定時で退社する。福山演じる支店長の片岡洋はじめ、ほかの行員たちは残業しているだけに、真山はちょっと浮いた存在だ。しかし、それにはちゃんと理由がある。妻が病気で入院していて、毎日見舞いに行くためだ。

日曜劇場では、昨年放送された「下町ロケット」でも、徳重聡演じる下町の中小企業のエンジニアが、大きなプロジェクトにみんなが全力を注ぐなかにあって、ひとり定時で帰宅し、顰蹙を買っていた(もともと斜に構えたキャラクターなのでよけいに浮いていた)。だが、これまた理由は、病気で入院中の幼い娘の面倒を見るためだった。

定時で帰れない「集団左遷!!」vs.「わたし、定時で帰ります。
それにしても、ドラマのなかの話とはいえ、定時で帰る者が社内で変わり者扱いされていることに、どうも違和感を覚えてしまう。そもそも定時退社が認められる理由が、家族の入院ぐらいしかないとは……。こうした設定は、国策として働き方改革が叫ばれ、企業に対し労働時間短縮が奨励される昨今の風潮に逆行していないだろうか? ふと、そんなことを思ったのは、「集団左遷!!」と同じくTBSでは目下、その名もずばり「わたし、定時で帰ります。」(火曜よる10時〜)というドラマが放送されているからだ。

遅ればせながら、WEB制作会社を舞台とするこのドラマを、私は第4話にして初めて見た。その回では、非効率なサービス残業を日々続け、社内に泊まることもしばしばという吾妻(柄本時生)というフロントエンドエンジニアが登場した。劇中では、吉高由里子演じる主人公の東山結衣がそんな彼に対し、残業をしなくても効率よく仕事する方法を教える場面もあり、きわめて実用的で、正しく“いまのドラマ”をやっているという印象を受けた。

もっとも、「集団左遷!!」だって、まったく時流に乗っていないわけではない。じつはこのドラマにおいて、もっとも“いま”を体現しているのは、蒲田支店の廃店を画策し、片岡たちの敵役として立ちふさがる本部の常務取締役・横山輝生(三上博史)なのではないか。その証拠に、第1話では、横山の提示した三友銀行全体の改革案には、AIなどを導入して窓口業務の自動化も含まれていた。それはおそらく、行員の負担や労働時間の削減も念頭に置いての提案だったはずである。

ただ、横山の策は、銀行全体からすれば理に適っているのだろうが、いかんせん現場で働く者たちの気持ちが考慮されていない。だからこそ、情だけでひた走る片岡と衝突するわけである。本当は、横山のようなエリートこそ、小さな支店に赴任して現場をちゃんと見るのがベストのような気がするんだが、それではドラマにならないのだろうか……。

ファンタジーのなかのリアリティ
それにしても、「集団左遷!!」を見ていると、片岡には戦略とか戦術といったものがほぼなくて(部下から「無策」と言われたこともあった)、ただ“頑張る”ことしかしていないにもかかわらず、いつも最後の最後に幸運がもたらされることに感心してしまう。

先週放送の第4話では、蒲田支店の行員たちが駅前でチラシ配りをしていたところ、経済誌の記者に取材を申し込まれた。その企画は「働く美女図鑑」(どうもおじさん向けの企画っぽい)だったはずが、いざ発売された雑誌を見ると、どういうわけか、蒲田支店が三友銀行のリストラ候補になっているとのスクープ記事が掲載されていた。おかげで目下片岡たちが進めていた大口の取引が危うく引き下げられそうになり、本部からも銀行のイメージダウンだと厳重に注意される。しかし結果的に、地元民が支店をつぶすまいと続々と預金しに詰めかけるという奇跡が起こった。

第4話ではまた、片岡が地面師詐欺に引っかかるすんでのところで、真山たちに救われていた。しかも、売却予定地を見に行った際、近所の人たちから本物の地主が左利きだと重要な情報を得ていたにもかかわらず、この体たらく。ついでにいえば、本部の支店統括部長の宿利(酒向芳)が、片岡たちの取引相手が詐欺師だと察知しながら、そのまま放置していたのは、背任行為なのではないか。

このように粗も目立つにもかかわらず、私はこのドラマを何だかんだいいながら毎週楽しんで見ている。一体なぜなのか? それは、ファンタジーとして見ているからではないか。ようするに「水戸黄門」が史実と違うからといって、怒る人がいないのと同じだと思う。ただし、全体としてはウソでも、描かれている人の心情にどこか真実味があるならば、それもまた立派なドラマだろう。

第4話では、本部のスパイだった蒲田支店の営業1課長の花沢(高橋和也)が、それを知ったあともみんなに黙っておいてくれた片岡に報いるべく活躍を見せながら、結局、ラストでは本部の辞令により関連企業に飛ばされてしまった。娘の結婚資金をつくるため、やむなくスパイを引き受けてしまったこの花沢を、高橋和也は哀愁たっぷりに演じていた。このドラマのリアリティは、まさにそうした各人物の描写から醸し出されている。

さっきも書いたとおり、「集団左遷!!」と「わたし、定時で帰ります。」は対照的でありながら、いずれもTBSで放送されているというのが面白い。せっかくなので、「集団左遷!!」を見ている管理職をはじめ、世の中高年の方々にはぜひ、「わたし、定時で帰ります。」も見て、下の世代の仕事に対する信条や方法を学んでいただきたい。一方で、「わた定」を見ている若い世代にもまた、おじさんたちが「集団左遷!!」のどんなところに勇気づけられているのか、探してもらいたいとも思う。世代間の相互理解のためにも、二つのドラマをあわせて見ることはきっと有効なはずだ。(近藤正高)

イラスト/まつもとりえこ