アメリカ空軍のCV-22「オスプレイ」が、在日アメリカ海兵隊の基地であるキャンプ富士のイベントで公開されました。海兵隊仕様とは異なる「空軍仕様」を海兵隊基地のイベントで公開したのには、どのような背景が考えられるでしょうか。

「キャンプ富士」に現れた見慣れない機体の正体

2019年5月11日(土)、静岡県御殿場市にあるアメリカ海兵隊の基地「キャンプ富士」にて、毎年恒例の「キャンプ富士フレンドシップフェスティバル」(自衛隊で言うところの基地/駐屯地祭)が行われました。この日は、普段立ち入ることができないキャンプ富士の内部で、アメリカ海兵隊が保有する現用装備の数々を直接、間近で見て触れることができるため、毎年多くの来場者でにぎわいを見せます。

とりわけ最近では、沖縄県普天間基地に配備されているティルトローター機(固定翼機とヘリコプターの特徴を組み合わせた航空機)のMV-22「オスプレイ」が公開されるようになったため、その注目度が一層、高まりを見せているイベントです。

今年も例年通り「オスプレイ」が公開されましたが、よく見ると機体の塗装や細かい装備品などに違いが見られました。実は今回、公開された「オスプレイ」は、これまで公開されてきた海兵隊仕様の「MV-22」ではなく、空軍仕様の「CV-22」だったのです。

敵地にこっそり潜入 特殊作戦機CV-22とは

CV-22は、アメリカ空軍の特殊作戦部隊「特殊作戦コマンド」で運用されている機体で、その任務は海兵隊仕様のMV-22とは大きく異なります。

MV-22の任務は海兵隊員を遠隔地へ素早く運び込むことですが、一方でCV-22の任務は、敵が支配する地域に侵入して機内から特殊部隊を展開させ、回収し、さらに彼らに補給物資を輸送することなのです。また、戦闘や事故で墜落した友軍機の乗員を救出する「戦闘捜索救難」という任務も受け持っています。

そのため、CV-22には敵地に潜入するために必要となる、さまざまな装備が搭載されています。たとえば機首向かって右側には、敵地に潜入する際レーダーなどに探知されないよう低空飛行する時に必要な地形追随レーダー、機首下部には夜間飛行用の赤外線センサー、さらに機体各部には敵のレーダーを探知してミサイルの発射を警告するミサイル警報装置が配置され、それと連動して機能する各種妨害装置も機体後部に装備されています。

さらにCV-22は、MV-22同様、ほかの航空機から飛行中に燃料補給を受けることができる空中給油機能も備わっています。CV-22の場合、1回の空中給油を受けることで約3900km(東京~ベトナム間の直線距離に相当)をノンストップで飛行可能です。また、CV-22の戦闘行動半径(基地から飛び立って任務をこなし、再び基地に帰投できる距離)は約920km(東京~鹿児島間の直線距離に相当)もあるため、必要とあれば日本周辺の広い地域で活動できます。

なぜ「キャンプ富士」で公開?

CV-22は2019年5月現在、アフガニスタンでの対テロ作戦においてその性能をいかんなく発揮しています。たとえば、2011(平成23)年にはアフガニスタン南部にあるカジャキ渓谷で実施された、テロ組織「タリバン」の幹部を急襲する作戦に参加し、夜間に低空飛行で目標地域に侵入して特殊部隊を輸送する任務を遂行しています。しかし、2010(平成22)年4月にはそのアフガニスタンで、CV-22にとっては初となる墜落事故が発生しており、厳しい環境などがもたらす同地での任務の過酷さをうかがい知ることもできます。

それでは、このようにただでさえ特殊な機体であるCV-22を、それも空軍ではなく海兵隊のイベントで公開した意図とは一体何でしょう。最も考えられるのは、北朝鮮情勢との関連ではないかと筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は考えます。さすがに、2019年5月に北朝鮮が相次いで発射したミサイルへの対応ということは考えにくいですが、これまで北朝鮮側が、依然として非核化の意思を見せていないことを念頭に、軍事的なオプション、それも特殊部隊などを用いた限定的な作戦というオプションをアメリカは残している、という意思を見せつけるために、あえて注目度の高いイベントにCV-22を参加させて観衆の目をひきつけることを狙ったとも考えられます。

今後、CV-22がイベントに参加する際には、その特殊な装備のほかに、その背後にあるかもしれない意図にも思いを巡らせてみる、というのも、ひとつの味わい方といえるかもしれません。

【写真】米空軍仕様CV-22「オスプレイ」のコックピット

アメリカ空軍仕様のCV-22「オスプレイ」。コックピット前方の、向かって右に見える丸い突起が地形追随レーダーで、空軍仕様の特徴(2019年5月11日、稲葉義泰撮影)。