主宰で俳優の中尾達也と、座付き作家で演出家、俳優の平塚直隆を軸として、徹底的に会話劇にこだわった作品を追求し続けている名古屋の劇団、オイスター。2016年の秋には、三鷹市芸術文化振興財団が主催する〈MITAKA “Next” Selection〉に選出されロングラン公演を行った『ここはカナダじゃない』こちらの記事を参照)が第61回岸田國士戯曲賞の最終候補に。その後、2017年に新潟でも上演された本作が、2019年5月24日(金)からいよいよ彼らの活動拠点である名古屋の「愛知県芸術劇場小ホール」にお目見えする。

『ここはカナダじゃない』は、念願だったカナダ旅行へ出発したはずの男2人が、どういうわけか出発地である中部国際空港に到着してしまったという不条理な状況に徐々に気づきながらも、なんとかカナダを旅行していることにしようと奮闘し続ける物語だ。今回は再再演とはいえ、初演後、岸田戯曲賞の選考対象に推薦された際に結末を整理した戯曲であることや、旅行者を演じる男2人のキャストが、新潟での再演、そして今回とその都度入れ替わっていること、また、平塚もさらに細かい演出方法を試みているなど、ブラッシュアップバージョンといえるものになりそうだ。

初演から約2年半、新潟公演からも1年8ヶ月の時を経て、ようやく地元名古屋での上演となる今回。演出プランや作品への思いなどを、作・演出で出演もする平塚直隆に聞いた。

オイスターズ『ここはカナダじゃない』チラシ表

オイスターズ『ここはカナダじゃない』チラシ表

── 今回の名古屋公演に向けて、何か変えた点などはあるんですか?

三鷹でやった時の台本とはちょっと違って、ラストを削りましたね。上演の評判とか感想をいろいろ聞いて、「あのラストはいらないんじゃないか」という意見がわりとあって、それで岸田の連絡を受けたので、「じゃあちょっと最後を変えてみよう」と。

── 旅行者の男2人も、今回は中尾達也さんと森田匠さんに変わって、また違った感じになりそうですね。

全然違いますね。(初演で男1を演じた)木暮拓矢さんと中尾の特性が違って、もちろん良くなった面もあれば悪くなったところもあったりして、木暮さんだとなんか哀愁が漂っていて悲しい時とかがすごくいいんですけど、中尾にはそれが一切ない。面白いシーンは面白いんですけど、全然悲しみがないんですよ。ふざけてばっかりで(笑)。

『ここはカナダじゃない』 2016年10月東京公演より

『ここはカナダじゃない』 2016年10月東京公演より

── 森田匠さんは今回、どういった経緯で出演されることになったんですか?

熱意ですね、彼の。「出させてください」と、わざわざ東京から来たので。全く面識はなかったんですけど、僕のことは前から知っていたみたいで、前回の『調子に乗れ!』(2018年上演)を初めて観に来たそうです。

── 一気にオイスターズにハマってしまったんですね。

僕も(森田が所属する)トラッシュマスターズの公演は観たことがなくて、この前初めて観たんですけど、「全然タイプの違う芝居だけど、大丈夫?」って(笑)。

── 実際、ご一緒してみてどうですか?

なかなか苦労してます、お互い(笑)。こんなにフィールドが違うんだ、って思いました。でもそれが楽しいなと思ってます。

── 初演、再演を経て、演出面で変わったことなどは。

大きく変えてはいないんですけど、今までよりもわりと細かく創っている感じです。今までバタバタやってきちゃったことを、もう一回改めて細かくしっかりと、というか。「なぜこのセリフを言ってるのか」とか、トーンとかボリュームとかスピードとか、そういうことに対してすごく細かく指示はしていますね。

── それは初演から2年半の間に、平塚さんの中でいろいろと思うことが?

そうなんです。なんか綺麗な会話劇にしたくて。気分で左右されない、もうちょっと計算尽くの会話にしたいんです。今までは面白いから見過ごしてたようなこととか改めて考えてみると、なんかガチャガチャしてるな、と思い始めてきて、そのガチャガチャを削ってみようと。狂言とか、型がきっちりしてるじゃないですか。高さ、スピード、間。あれで確実に笑いを取ってくるので、そういうことに近いことがしたいというか。

『ここはカナダじゃない』 2016年10月東京公演より

『ここはカナダじゃない』 2016年10月東京公演より

── そのためにはいつも以上に練習量が必要ですね。

そうなんです。めちゃくちゃ掛かってます。過去に2回もやってきた作品と思えないほど時間が足りなくなっちゃって。「ここはカナダか」という音にしても、「低いのか高いのかで、あなたの今の心持ちが違うじゃないですか」って。「そうなるとやっぱり高いんじゃない?」とか、じゃあ次はどうだ、って一個一個楽譜を作っているみたいな感じでまずやってみて、「こういう風だよね。じゃあそういう風にやろう」と決めて、役者がそれに馴染んでくるまで稽古をしている感じですね。それがなかなか出来なくて、そのセリフの気持ちを、具体的に音やスピードやボリュームにしたらどんなんだ?という話をしているんです。

── それぞれの役者さんと、その擦り合わせが難しい。

例えば、「そこは傷ついたわけだから、もうちょっと傷ついていた方がいいんじゃない?」と言って、「わかりました」と返事が来ても、傷ついている度合いがお互い違うからあまり傷ついてるように見えなかったり。そこを「もっと音が低いんじゃない?」とか「もっと小ちゃいんじゃない?」とか具体的に。オイスターズの役者はそういうことをわりと今までもやってきているので瞬時に対応できるんですけど、森田匠はしんどそうですね。そこに気持ちが付いてくるまでの時間がすごくかかる。だから匠と話していると、オイスターズの役者は本当に気持ちとか考えてないんだな、と。タイミングだけでしか喋ってないな、と改めて思いましたね(笑)。

── でもそれが独特の面白さに繋がっていますよね(笑)。今回改めてこの作品と向き合ってみて、どんな感じですか? ある評価をされた作品でもある、ということも含めて。

台本のことよりも、やっぱり演出のことの方が大きいですね。今までがいい加減だったんだな、と思います。ほんとフィーリングでやっていたなと。

『ここはカナダじゃない』 2016年10月東京公演より

『ここはカナダじゃない』 2016年10月東京公演より

── 私が拝見している限りでは、年々細かく作り込まれていっているな、と思いますよ。

そうですかねぇ。その細かいのが具体的になって理由がわかってきた、という感じかもしれないです。今までも細かく綺麗にしたいと思っていたけど、なんでそれをしなくちゃいけないのか、あと、そのために何をすればいいのかがわからなかったんです。その具体的な方法がわかってきたのかもしれない。

── それは何かきっかけがあったんですか?

3月に1ヶ月間、東京にいたんですよ。それでいろいろなお芝居を観たりして、「面白い芝居はやっぱりきっちりしているな」と感じて。その時にちょうど土田英生さんのワークショップに行って、そしたら僕が思っていたことと同じようなことを土田さんが言っていたんです。「台本は楽譜のようなものだ」って。「あ、一緒のこと言ってるな」と思って見ていたんですけど、すごく具体的な方法を話されていて、「なるほど、こうやってやればいいんだ」と思ってからです。

── 同業者の作業を見ると、やはり刺激されますよね。

そうなんですよ。実は他の人のワークショップとかあまり見たことがなかったんですけど、行けて良かったですね。この作品は土田さんにも観てほしいです。でも、また絶対にダメ出しの嵐だと思いますけど(笑)。

オイスターズ『ここはカナダじゃない』チラシ裏

オイスターズ『ここはカナダじゃない』チラシ裏

このインタビューの後、土田英生をアフタートークゲストに招くことが決定。尚、下記の通り全公演後にゲストを招いてアフタートークを開催予定(聞き手は平塚直隆)なので、そちらもお楽しみに。