人生100年時代と言われるようになった。

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 一方で、ただ長生きするだけではなく、健康寿命を延ばし、死ぬまでできるだけ健康で医療費のかからない生活をするかが重要になってきている。

 筋肉を鍛え、自立した生活ができるようにすることは大切である。しかし、機能が弱らないように鍛えることができないものもある。

 耳、つまり聴力はその最たるものと言えるだろう。

 若い時にうっかり高音量の音楽を聴きながら通勤を続けて、60歳を過ぎた頃から難聴に見舞われてしまった――。気づいた時には取り返しのつかないことになっていたということのないようにしたいものである。

 前回に引き続き東京大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉科の山岨(そば)達也教授に、難聴になりにくい生活をするにはどうすればいいのか、お話をうかがった。

(聞き手:川嶋諭、編集:松浦由紀子)

川嶋 では、難聴を予防するにはどうすればいいのでしょうか?

山岨教授 やはり大きな音を聞くのは耳に良くないので、若い頃から避けないといけません。

 カラオケで大騒ぎも楽しいですが、ほどほどにして、酷使した耳を休めないといけません。

ダメージは蓄積される

 耳の神経はいったん傷んだら治らないので、耳の神経を傷つけないようにする、傷ついたら手当することが肝心です。

 イヤホンで音楽を1日10時間も聞いているというような生活も、絶対に良くないです。大きな音でなければ良いのではないかと思うかもしれませんが、ずっと音楽を聴いているだけで少しずつ耳の組織は傷みます。

 世界保健機関(WHO)が推奨している「60・60」運動は、目安になると思います。

 スマホで音楽を聴くにしても、最大音量の「60%」、せいぜい1日「60分」にしよう、ということです。

川嶋 では、自分は難聴かどうか知るには、普通の健康診断の聴力検査でいいのでしょうか。

山岨教授 健康診断の聴力検査で数値が悪ければ、やはり専門の病院で調べた方がいいですね。

 そしてもし必要ならば、生活の質の向上という意味でも、早い時期から補聴器を使って慣れた方がいいです。

 歳を取るとともに、高音域から確実に聴力レベルは下がります。

 聴力検査では40デシベル以上が中等度難聴とされますが、30デシベルを超えていたら生活に不自由が出ているはずなんです。

 本当はその段階から補聴器を試す方が良く、おそらく50代の人でも1割くらい不自由を感じている人がいるのではないかと思います。

山岨教授 そのまま何もせずに70代になると社会生活が大変になるかもしれない。

 ただ、メタボリックシンドロームでも血糖値でも何でもそうですが、日本の健康診断の問題は、調べて終わりで、あと病院に行かない、ということ。

 耳も本当に困ってきたら、さすがに皆さん病院に行きますが、徐々にくる難聴は意外と気づかないものです。

認知症の一番のリスクファクターが難聴

川嶋 徐々に来るというのが、厄介ですね。ちょっと不便だなと思っても、そのうち慣れてしまって先送りしてしまいますから。

山岨教授 お話ししておかねばならないのは、認知症の一番のリスクファクターが難聴だということです。

 ランセット国際委員会が2017年に発表した研究で、認知症の9つの危険因子の一つに難聴が挙げられ、予防できる要因の中で難聴が最も大きな危険因子だとされました。

 難聴のリスクを取り除くと、認知症の新たな症例を9%削減できるという内容です。こうした類の研究で、9%というのは、とてつもなく大きな数字です。

 また、フランスで行われた大きな研究があり、数千人を対象に難聴のある人とない人の経過を20年くらい観察しました。

 すると、難聴の人の方が認知機能低下の症状が進み、認知検査のスコアが悪化したんですが、難聴の人の中でも補聴器をつけていた人は、難聴がない人とスコアの落ち方が変わらなかったのです。

 難聴になると、やはり話がしづらいので社会的に隔離されて、人付き合いが悪くなっていくことが認知症につながるということです。

 病理としての認知症は仕方ないですが、社会的になる(孤立を避ける)ことで進行が遅くなるのであれば、難聴の場合、補聴器をつけて元の生活に戻ることがとても大事です。

川嶋 補聴器をつけることに抵抗がある人が多いのではないかと思いますが。

山岨教授 必要があれば若いうちから装用した方がいいです。

 残念ながら日本では、歳を取って見られるのが嫌だという風潮が強く、白髪は染めますし、補聴器もつけたくないという発想になります。

 でも放っておくと聞こえなくなって、最後にはコミュニケーションが取れなくなり、それこそ寂しい孤独な老人生活を送ることになることも十分にあり得ます。

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