資生堂が「イノベーション」を新たなグローバル戦略の旗印として掲げ、M&Aやベンチャー企業への投資、研究開発拠点の整備、最先端のテクノロジーを駆使した新しい価値を持つ商品の開発などに積極的に取り組んでいる。どのような成長ストーリーを描いているのか。

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世界を相手に、資生堂が描く成長シナリオ

 資生堂は独自の研究開発部門を持ち、100年以上にわたり最先端の研究開発に取り組み続けてきた。国内外のテクノロジー系ベンチャー企業への積極的な投資やM&Aも行っている。

 グループの売上高は2017年に1兆50億円と、創業140年あまりで初めて1兆円を突破した。さらに、営業利益も過去最高となった。2020年の目標だった売上高1兆円は、3年前倒しで達成した。

 この勢いを維持しながら、次代に向けて、資生堂はどのような成長シナリオを描いているのか。その答えが中期経営計画に示されている。

 資生堂は2018年3月、同年からスタートする「新3カ年計画」(2018年~2020年)を発表した。この新計画は、2014年に策定した6年間の中長期戦略「VISION 2020」の後半3カ年にあたる。同社ではこの3カ年を「成長加速の新戦略」の実行期間と位置づけている。

 具体的に、新3カ年計画で取り組む重点戦略として、5つの重点戦略「Building for the Future」が策定されている。「1. ブランド・事業のさらなる『選択と集中』」「2. デジタライゼーションの加速・新事業開発」「3. イノベーションによる新価値創造」「4. 世界で勝つ、人材・組織の強化『PEOPLE FIRST』」「5. グローバル経営体制のさらなる進化」である。

 新3カ年計画の発表にあたり、代表取締役執行役員社長兼CEOの魚谷雅彦氏から「VISION 2020」が目指す姿として「世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニー」というキーフレーズが紹介された。

 このビジョンを実現するための取り組みがすでに始まっている。2019年1月には、中国の上海に「中国事業創新投資室」を本社直轄組織として設立。中国現地のスタートアップ企業などとの戦略的協業を進め、中国の国内外での中国人消費者の動向を捉えた既存事業のイノベーション開発・実行と、化粧品領域および新規事業領域での事業開発を一層加速していくのが狙いだ。

 このほか、2019年4月には、中国ネット通販大手のアリババ(阿里巴巴集団)と戦略的な業務提携を結び、杭州市のアリババ本社の近隣に拠点も開設した。ビッグデータを活用し商品の共同開発などを進めていく予定だ。

イノベーションを生む研究開発拠点が本格稼働

 2019年4月13日には、横浜市みなとみらい21地区に建設した新たな新研究開発拠点「資生堂グローバルイノベーションセンター(以下GIC・呼称「S/PARK エスパーク」)」を本格稼働させた。

 GICの建設費は400億円以上。欧州、米国、中国、シンガポールなど世界8カ所にある資生堂の研究開発拠点の中枢を担う施設で、国内外の最先端研究機関や異業種などから集約した多様な知見、情報、技術を融合させ、世界に向けて新しい価値を提供していくという。

 前述したように、資生堂では、新3カ年計画の重点戦略の1つに「イノベーションによる新価値創造」を掲げ、研究開発領域への投資も強化していく考えだ。2020年には売上高に占める研究開発費比率を3%(将来的には4%)に、研究所員数は1500名まで増やすという。GICの本格稼働もその一環だ。

 すでに十数カ国から集まった研究員が共に研究開発を進めているというが、注目すべきはGICが単なる研究拠点だけでなく、一般客と研究員の交流や、取引先や国内外の外部研究機関とのコラボレーションの場にもなっていることだ。

 1階と2階のコミュニケーションエリアには、一般客が自由に入ることができる。1階の「ビューティーバー」では、研究員と美容部員が一般客の肌の状態を解析し、一人ひとりの肌や好みに合った化粧水や乳液を作ってくれるという。

 館内には、資生堂の100年を超える研究の歴史をベースにしたビューティーやイノベーションにまつわるユニークな展示を行う体験型ミュージアムもある。このほか、資生堂パーラーが運営する野菜中心のメニューをそろえたカフェ、ランニング、ウオーキングなどの運動プログラムを提供する室内ステーションランステーションなども設けられている。

 魚谷CEOは「『イノベーションによる新価値創造』を実現するためには、世界の多様なお客様のニーズや消費者行動を理解することが不可欠です。GICでデータを蓄積し、次の商品開発に役立てることも考えています」と話す。

イノベーションによる新しい価値を提供する商品も誕生

 GICの本格稼働から5日後の4月18日、新商品のメディア向け体験会が、ここで発表された。新商品とは、5月1日から発売されたUV(紫外線)ケア商品、SHISEIDO「BBフォー スポーツ QD」およびSHISEIDO「BBコンパクト フォー スポーツ QD」である。

 先行体験会では、SHISEIDOサンケアブランドマネージャーの大山志保里氏をはじめ、資生堂研究員からUVケア市場の変化や、サンケア領域における同社の最先端の技術などの解説が行われた。

 資生堂が初めて日焼け止めクリーム「ウビオリン」を発売したのが1923年のこと。以来同社は90年以上にわたり、紫外線の影響に着目し研究開発を進めてきた。1980年には国内で初めて、UVB(紫外線B波)を防ぐ効果指数である「SPF」を表示した。2014年には、水や汗で紫外線防御効果が高まる技術「WetForce」の開発に成功した。

 商品開発の歴史はまさにイノベーションの歴史と言えるが、大山氏は「お客様のニーズに応え、私たちができることはまだあると考えています」と語る。

 その1つが今回実現した新技術「Quick Dry Technology」である。これは速乾衣類の技術を応用し、水(汗)を肌の上に拡散することで、製品が肌になじんでいきながら、素早く乾かすことができるというもの。紫外線が強く暑い環境でも、しっかりと肌を守りながら、汗をかいた肌に最適な潤いを実現する。

「BB フォー スポーツ QD」および「BBコンパクト フォー スポーツ QD」は、国内では5月1日から発売を開始し、今後世界各国で順次発売される予定だ。

 大山氏は「イノベーションの手を緩めることなく、さらに新しい価値を提供できるサンケア商品の開発にも着手しています」と話しながらも、『肌と地球、両方を守るUVケアの必要性』を唱えており、地球に対する負荷についても今後ますます取り組む姿勢である。

「世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニー」を目指す資生堂の取り組みに、大いに期待が高まる。

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