5月14日日産自動車2018年通期決算を発表した。昨秋以降お家騒動で揺れ続けた日産は経営的にも大丈夫なのかとウワサされてきたが、決算内容はもうズタズタで、かつ対策が完全に後手に回っていることが露呈した。

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●決算数字の惨状

 まずは数字の確認だ。昨17年度と今年18年度を比較してみる。

・グローバル販売台数は577万台から552万台(マイナス25万台 4.4%減)

・売上高は11兆9512億円から11兆5742億円(マイナス3770億円 3.2%減)

・営業利益は5748億円から3182億円(マイナス2566億円 44.6%減)

・売上高営業利益率は4.8%から2.7%(マイナス2.1ポイント

・経常利益は7503億円から5465億円(マイナス2038億円 27.2%減)

・当期純利益は7469億円から3191億円(マイナス4278億円 57.3%減)

フリーキャッシュフローは4070億円から1911億円(マイナス2159億円 53%減)

ネットキャッシュは1兆7691億円から1兆5982億円(マイナス1709億円 10%減)

 単純に減収減益減配というのみならず、滅多打ちというかフルボッコというか、1項目たりともプラスになったところがない。華麗とさえいえるほどの惨敗ぶりである。

 正直なところ、ここまでの数字だと分析して何がしかの対策が見いだせるものでもない。多分あらゆる項目がダメだと考えられるのだが、それでは解説にならないので一応やってみる。まずは販売台数がどこで落ち込んだのかだ。

・日本は58万4000台から59万6000台(プラス1万2000台 2.1%増)

・北米は159万3000台から144万4000台(マイナス14万9000台 9.3%減)

・中国は152万台から156万4000台(プラス4万4000台 2.9%増)

・欧州は75万6000台から64万3000台(マイナス11万3000台 14.9%減)

 明らかに北米と欧州の落ち込みがひどい。一見プラスに見える日本だが、日産はもう長らく国内向けに新車をほとんど出していない。かつて国内販売でトヨタと覇を競っていたところから、長い年数をかけて凋落(ちょうらく)して来た末にあるのが今の数字だ。59万6000台に増えたといっても、かつてのライバルトヨタは国内販売222万6000台。しかもその虎の子の59万6000台に占める軽自動車の比率が高いので、一台当たり利益も小さいというていたらくだ

●次年度のリカバリプランはあるのか?

 で、出てしまった結果は仕方がないとしても、この不振を今後どうするつもりなのかと次年度の販売台数見通しを見てみる。

 日本でのプラス2.3%はグローバルへの影響としてはもう誤差でしかないし、おそらく日産自身もそれでグローバル販売台数をどうこうできるとは考えていないだろう。

 今期決算に大きな痛手となった北米と欧州は、次年度も続落の見込み。唯一中国マーケットは次年度の成長が見込める見通しになっているが、中国の特殊ルールで縛られる中国法人は半分が現地資本であり、日産が持ち分比率で利益計上できるのは半分程度になってしまう。

 ちなみに、中国での販売台数では、日産はトヨタに勝っている。トヨタ148万7000台に対して、156万4000台。ただこれも喜んでばかりはいられない。トヨタは技術流出を案じる日本政府から中国進出を自重するように呼びかけられた経緯があり、以来対中国マーケット用にいろいろな用心をして、準備を整えてから本格的に進出しているからだ。本腰を入れてからは2年くらいでしかない。先行する中国の覇者フォルクスワーゲンに至ってはすでに300万台。日産の中国での成績は、確かにほかの各地での厳しさに比べれば福音だが、さりとて利益面でも成長速度でも順風満帆とはいえない勝ちである。

 という見通しに鑑みれば、北米と欧州での立て直しが長期化すれば、立て直し策が間に合っていないと見るしかないだろう。

 西川廣人社長はこの苦境について「18年19年を底として反転したい」と述べている。反転の核となるのは事業構造改革「ニュー日産トランスフォーメーション」だ。

 そのニュー日産トランスフォーメーションについては3つのテーマを設けた。

ガバナンス改革

・組織改革

・事業改革

 今回はポイントを絞って事業改革を見ていきたい。

 さて、このグラフを見てグローバル平均利益率の線がいかに下がっているかは一目瞭然なのだが、事業改善を検討するにあたって、あまり意味のあるグラフとはいえない。

 利益率だけに着目すれば、このグラフで説明ができるだろうが、利益そのものは台数と掛け合わせて初めて確定する。当然同じ利益率でも、59万6000台の日本と156万4000台の中国、144万4000台の北米では重みが違う。仮に1台あたり利益が全く同じと仮定しても、北米を100とした時の日本の利益インパクトは41(59.6÷144.4×100)。中国では持ち分比率相当しか利益を計上できないので、54(156.4÷2÷144.4×100)になる。しかも日本は軽自動車の比率が高く1台当たり利益でも厳しいはずだ。

【訂正:2019年5月22日16:30 初出で日本の利益インパクトの計算式内の数値が誤っておりました。59.6と訂正しました。計算結果は修正ありません】

 西川社長はこのグラフを指し示しつ「日本と中国は健全なレベルにある」と説明する。ウソとまではいわないが、それは利益で見る限り意味が薄い。日産はグローバル平均利益率6%を狙うというが、そのためには割合の大きい北米での利益率を上げていかないと極めて苦しい。逆にいえば北米での利益率が改善すれば、日本や中国で多少利益率が落ちても与える影響は半分でしかない。

 実は北米の利益比重が重すぎることが、北米マーケットの失敗の真因だと筆者は思っている。つまり外向けの説明と違って、北米で売れないともうからないことを熟知している日産は、北米で販売促進費用(インセンティブ)をつぎ込んで売り上げを伸ばそうとした。しかし景気の落ち込みに端を発して各社が台数の奪い合いに発展、インセンティブの泥沼から抜けられなくなった。

 それでもなんとか台数を売ろうと無理をしてフリート販売をプッシュした。フリート販売とは要するにレンタカー会社などの大口顧客で、そこに押し込めば台数が一気に稼げるが、大口顧客は当然値引き要求が厳しい。その結果利益が一気に食われてしまう。

 こうなるとブランド価値が毀損し、中古車相場が崩れて顧客が持つクルマの資産価値が下がり、それは下取りの安さにつながって次の新車販売に影響する。加えて販売店の利益も圧迫するということで、北米でのビジネスの基礎を相当に痛めつけてしまったことになる。西川社長も認める通り、このリカバーには時間がかかるだろう。

●失敗の分析

 販売奨励金という、誰もが熟知しているバナナの皮をわざわざ踏みにいくようなことがなぜ何度も起きるのかは外野から見ていると不思議で仕方ない。世界中の自動車メーカーが分かっていながら懲りずに踏んで派手に転ぶ。死屍累々(ししるいるい)のその陥穽(かんせい)に頻繁に落ちて地獄を見る会社があるのが現実だ。

 泣きっ面に蜂という言葉があるが、ここしばらくの重点戦略となっていた新興国投資も一向にリターンを産まない。生産能力を持て余しており、無駄なランニングコストになっている。これはリストラしないと新たな投資資金が欠乏してしまう。ということで日産の現状はかなり厳しい。

 実のところこの新興国投資も長期的には惨敗の遠因になっている。新興国に積極投資をする資金をひねり出すために、グローバルで新車の発売ペースを落としたのだ。日本ほど酷くないまでもそういうプライオリティの錯誤はグローバルでも行われてきた。そうやってデビューから年数を経た古いクルマショールームに並べていれば、値引きをして売らなくてはならなくなる。

 国内で先行して起こった製品発売サイクルの異常に対して、筆者は4年前に警鐘を鳴らしたが、それをさらに世界に拡大し続けてしまった結果が今回の決算だ。

 ものすごく分かりやすくいえば、古くて商品に魅力がない → 値引き → ブランド価値の毀損 → さらなる値引き → それでも売れない → 大口顧客に押し込む → 利益が激減という流れである。

 つまり、最も重要なのは「値引きをしなくても売れる魅力あるクルマを作る」ことだ。もうからないラーメン屋が「やっぱり美味いラーメンを作らないとダメだ」と気づくようなもので、ちょっとあまりにも初歩的でアホくさいが、そこまで戻らないとダメなところまでいったのが今回の決算である。それにしても不思議なのは途中で気がつかないものなのだろうか? ということだ。

●これから3年のロードマップ

 ではその魅力あるクルマとしてどんな隠し球を持っているのかと注目していると、その説明に出てくるのは、CASEConnected:コネクティッド、Autonomous:自動運転、Shared/ServiceシェアサービスElectric:電動化の頭文字)だった。その筆頭が日産が「ニッサン・インテリジェント・モビリティ」と呼ぶ高速道路での半自動運転を可能にするシステムである。

 さらに電動化ももっと進めるのだそうで、22年にはグローバルでモデルラインアップの3割を電動化車両にするという。まあ電動化といっても、ほとんどは電気自動車(EV)ではなく日産がe-POWERと呼ぶハイブリッド(HV)だと思われるが、言うは易く行うは難しで、性能と安全性が確かなバッテリーを果たして150万台分も供給可能なサプライヤーがあるのだろうか?

 トヨタは17年の実績で約140万台のHVを生産しているが、調達部門はHVに使うバッテリーの確保に必死なのだ。EVのバッテリー容量はHVの数十倍なので、EVにも力を入れたい日産の場合、より確保が厳しい。

 前後にハイパワーモーターを搭載した四駆のハイパフォーマンスカーなども考えていると西川社長は言う。イメージリーダー的なモデルが必要ないとはいわないが、普通にショールームに並べるクルマはどうなのだという問いに対しては22年までに基幹車種の全て、20車種について新型車を投入するのだそうだ。

 長らく放置して、古くなった商品ラインアップを刷新するためにやむを得ないのは分かるが、果たしてそうやって短期集中でリリースするクルマが、日産のブランド価値を再興できるものになるのかどうか、不安は拭いきれない。

日産の西川廣人社長(写真:ロイター)