「Buzz」の原意は「蜂がブンブンと飛んでいる音」。最初に「耳心地が良いから、コーナー名に使いましょう」と勧めてくれたのは、英国人の友人のランゲージ・コンサルタントだった。アドバイスに従い、学生で何が「バズっているのか」を知るコーナー・タイトルを「Campus Buzz」と命名した。日本の学校だけでなく、世界中のキャンパスを訪れた。学生たちの声は、実に瑞々しく、刺激的だった。

ニューヨークコロンビア大では、日本愛好会のメンバーとのミーティングで、Zeebraさんが日本語のラップを教えた。「俺は東京生まれ、HIP HOP育ち 悪そうな奴は大体友達」。このロケでは、コロンビア大、MIT、バークリー音楽大を巡ったが、日本音楽に対する興味や疑問など、さまざまな意見を拝聴した。個人的に好きなアーティストがいる学生は、一定数、存在する。しかし、その嗜好を多くのクラスメートと共有出来ないという、諦観にも似た忸怩たる思いを吐露してくれた。東南アジアでも、フィリピン大、シンガポール国立大、ベトナム貿易大など、俊英が集う大学を訪れ、対話を重ねた。日本を愛好する若者は常にいたが、主流派という訳ではなかった。

この他にも、世界中で、実にたくさんの学生たちと語り合った。私が大学で教えるようになったのも、2013年、出張でベルリンを訪れた際に、ベルリン自由大学日本学科の学生とディスカッションしたのがきっかけだ。その時は、旧東ベルリンにあるホテルまで、十数人の学生が訪れてくれた。彼らは、日本の生の情報を知りたがっていた。どんなにテクノロジーが進んでも、直接会うことを超えることは出来ない。「Buzz」とは、「個」が源流となり、大きなうねりとなる現象だ。一人一人の声を解析していけば、未来を予見するインテリジェンスが導き出せるのではないか。そんな仮説の実証が、私のここ数年の最大のテーマだ。

2019年、私は、「Buzz」という言葉を使ったラジオ特番を企画した。その名も、単刀直入に『ミュージック・バズ』という。目玉の企画は「究極の1曲」。それぞれの人生で、一番「バズった」音楽を教えてほしいというものだ。「1曲を選ぶ」となると、皆さんはどの曲を選ぶだろうか?

この番組の制作過程で、非常に興味深い現象に気付いた。J-MELOリサーチや、明大の教え子の調査などのデータによると、音楽を知る「接触」の機会として、ミュージック・ビデオが一位となっている。私もYouTubeなどをよく観るが、1980年代MTVに端を発した「音楽の可視化」は、SNSが決定づけた「個の時代」の現代において、音楽を知る最も大きな入口となったのだ。

今年の現在までのビルボードジャパンの動画チャートを振り返ると、米津玄師が5曲、あいみょんが3曲、Top10にランクインしている。いずれ、彼らの曲が「究極の1曲」になる人々も多いことだろう。ゲストには、Little Glee MonsterDAOKOという、2組の若き紅白出場歌手も招いた。「いま」の音楽の最前線の一端を、『ミュージック・バズ』で感じ取ってもらえたら、幸いだ。Text:原田悦志


原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明治大学講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。

◎番組情報『ミュージック・バズ』
NHKラジオ第一
2019年5月18日(土) 14:05~15:55
DJ:今井了介、川原一馬、高嶋菜七 ゲスト:Little Glee MonsterDAOKO、片寄明人 ほか

Buzzが予見させる未来【世界音楽放浪記vol.48】