かわぐちかいじの同名漫画を映画化した「空母いぶき」(5月24日・金公開)で主演を務めた西島秀俊。戦後、日本が経験したことのない未曽有の危機、それに立ち向かう人々の姿を描いた本作で、自衛隊初の航空機搭載型護衛艦いぶき”の艦長・秋津を演じた彼に、映画の撮影エピソードと作品に対する思いを聞いた。

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――出演オファーを受けたときの感想を教えてください。

かわぐち先生の傑作を映画化するということに、まずは興奮しました。加えて、監督とプロデューサーが「これは戦争映画ではなく、平和を守るための映画である」ということを真摯(しんし)に説明していただき、原作の素晴らしさと製作の皆さんの思いに賛同して、参加させていただきました

――西島さんが演じられた秋津は、航空自衛隊のエースパイロットから“いぶき”の初代艦長に抜擢された人物です。その秋津をどういうキャラクターだと捉えていますか?

秋津は常に先を見据えていて、何があっても動揺しない男です。が、自分が出した結論だけ伝えて、その過程を一切説明しないので、周囲から見れば何を考えているか分からないところがあると思います。ただ、国を背負う覚悟を持って戦っていて、日本の平和を守りたいという強い思いを持った人物であるのは確かですね。

――副艦長の新波と意見を対立させるところもあったと思いましたが、新波を演じられた佐々木蔵之介さんとの共演はいかがでしたか?

新波は映画を見た方が一番感情移入できるキャラクターだと思います。新波は戦闘を回避することを模索し続け、逆に秋津は戦わないと守れないものがあると思っている。もちろん、どちらも根本にあるのは平和を守りたいという気持ちなんですが、蔵之介さんが新波というキャラクターをしっかりと作ってくださったので、その対照となる秋津を演じることができたと思っています。

■ ものすごく緊張感がありました

――今回、撮影に入る前にどのような準備をされたのでしょうか?

実際の自衛官の皆さんにお話をうかがいました。空自と海自の両方の方々にうかがわせていただき、その気質の違いみたなものを肌で感じられたのは大きかったですね。あと、秋津は“いぶき”の艦長になる前は空自のエースパイロットだったので、優秀なパイロットの条件なども教えていただきました。

――その条件とはどういったものなのでしょうか?

パイロットは戦闘機のコックピットに一人でいるので、その瞬間、瞬間の判断を自分でしないといけないんですね。なので、長く考えてベストな判断を下すよりも、瞬間的にベターな判断を下せる人間の方がパイロットとしては優秀なんだそうです。それは秋津のキャラクターに色濃く反映されていると思います。

――とても緊迫感のあるストーリーが展開されますが、現場の雰囲気はいかがでしたか?

ものすごく緊張感がありました。普通、映画の撮影ではワンカットを撮ったら、次の準備があるので、役者は一旦、セットの外に出たりします。でも、今回はずっと薄暗いセットの中にいて、スタジオの外に出ることを許されませんでした。あれはきっとわざとだと思いますが、実際に戦闘状態の艦内にいるような緊迫感が常に漂っていました。

――“いぶき”のCIC(戦闘指揮所)のセットもそうですが、艦内でのやりとりなどにとてもリアリティーを感じました。

実際のCICは戦闘中でもとても静かなんだそうです。それは指示が聞こえないといけないからなんですが、この映画の中でも静かな中で戦闘が進んでいくのは、すごくリアルだなと思いました。あと、誰かが足を引っ張ったりだとか、バカな行動をして戦局が悪化するということがなく、非常に優秀で状況判断に優れた人たちが戦争を回避するために全力を尽くしている姿もリアルなところだったと思います。

■ 手に汗握るエンターテインメントに

――この映画では“いぶき”をはじめとする自衛隊の艦だけでなく、自衛隊創設以来初めてのことになる“防衛出動”を下すかどうかの選択を迫られる政府、偶然“いぶき”に乗り込んでいたマスメディア、さらには市民の姿も描かれます。ご自身が出演されているパート以外で印象に残ったところはありますか?

僕はCICの中にしかいなかったので、完成している映画を見るまで分かりませんでしたが、護衛艦イージス艦潜水艦でカラーの違いがすごく出ていて面白いなと思いました。あと、政治パートも面白かったです。戦争を回避するために自分の意見をぶつけ合い、交渉していくところも見応えがありましたし、市民パートでも僕らが普段過ごしている日常が覆されると、こういう状況になるんだというのがリアルで、興味深かったです。

――政治パートでは佐藤浩市さん演じる首相が“防衛出動”を下すまでの葛藤も描かれていて、そういったところに人間味がありましたね。

台本を読んでいるときよりもキャラクターが生きていて、魂がそこに宿っているのを感じました。それはそれぞれがいろんなことを考えながらこの作品に入っていて、それを役の中で表現しているからだと思うんですよね。人間が今回の映画のような局面に立たされたときに、どう考え、どう行動するのかもリアルだったと思います。

――では最後に読者へのメッセージをお願いします。

すごい緊迫感のある中で撮影していましたが、完成した作品も手に汗握るエンターテインメントになっていると思います。なおかつ映画を見終わった後、平和の素晴らしさを実感する作品になっているので、たくさんの方に見ていただきたいですし、きっと満足していただけると思っています。(ザテレビジョン・取材・文=馬場英美)

5月24日(金)公開の映画「空母いぶき」で、自衛隊初の航空機搭載型護衛艦“いぶき”の艦長・秋津を演じた西島秀俊