かつてWRC参戦のベース車とされていたインプレッサWRXをルーツとする、スバルの超高性能AWDスポーツセダンWRX STI」。その上級グレード「タイプS」で、都心の一般道から高速道路、箱根のワインディングを経て都心へ戻るルートを走行した。なお、取材時期の関係上、試乗したのは5月14日に発表された一部改良前のE型。メーカーオプションは大型リヤスポイラーにRECAROフロントシート、アドバンスドセイフティパッケージなどが装着されていた。 REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu) PHOTO●遠藤正賢、SUBARU

WRX STI水平対向エンジン+シンメトリカルAWD

インプレッサ」の名を冠していた頃のWRX STIは、あくまでもインプレッサという一般ユーザー向けのCセグメントカーをベースとしたエボリューションモデル。EJ20型水平対向4気筒ターボエンジンにシンメトリカルAWDの組み合わせで国産車トップクラスの動力性能を誇っていたものの、内外装や走りの質感についてはその価格よりもベース車の基本設計に準じたレベルに留まっていた。

シンプルな造形ながら質感の高い運転席まわり

 だが、インプレッサから独立した現行VAB型WRX STIには最早、エボリューションモデル特有の安っぽさは見られない。大型のフロントグリルやボンネット上のエアスクープ、エアロパーツで迫力を増しているものの、内外装の基本的な造形は極めてシンプルかつオーソドックス。かえって素材の質感や面構成の巧拙、分割線の多寡が浮き彫りになるものだが、それでも従来より1クラス高いDセグメントのクルマに相応しい水準に進化しているのを、一目見た瞬間から感じさせてくれる。

メーカーオプションのRECAROフロントシート
S208のレカロ製セミバケットシー
前席と同じく黒とチェリーレッドを基調とした後席
6速MTと「SI-DRIVE」設定ダイヤル、「マルチモードDCCD」設定スイッチ

 ともあれ、ずっしりと重いクラッチを踏み、重く短いストロークながら旧型では目に付いた渋さが取れスムーズになった6速MTのシフトレバーを1速へ。クラッチをつなぎ走り出すと、3000rpm付近までは明確なターボラグを感じるものの、スロットル特性を3種類から切り替え可能な「SI-DRIVE」を真ん中の「S」にして町中を流す分には過不足なく加速させることができた。

EJ20型水平対向4気筒ターボエンジン
WRX STIのエンジン性能曲線
WRX STIのボディ骨格
「タイプS」に装着されるビルシュタイン製ダンパー
フロントヘリカルLSD
リヤトルセンLSD

 そして肝心要のハンドリングはというと「まるでランエボ」、このひと言に尽きる。

 現行VAB型WRX STIは、フロントデフにヘリカルLSD、リヤデフにトルセンLSDを搭載。さらにセンターデフには前後トルク配分を41:59としたうえで差動制限トルクを電子制御する「マルチモードDCCD(ドライバーズコントロールセンターデフ)」が採用されている。なお、デビュー当初のセンターデフは機械式と電子制御式のLSDを併用したタイプだったが、2017年5月発表のD型より電子制御式LSDに一本化された。

「マルチモードDCCD」を「AUTO+」モードに設定した状態のメーターパネル

 マルチモードDCCDにはその名の通り、回頭性とトラクションのバランスを取った「AUTO」モード、前後輪の差動制限トルクが低めで回頭性重視の「AUTO-」モード、前後輪の差動制限トルクが高めでトラクション重視の「AUTO+」モード、電子制御LSDの差動制限トルクをロックからフリーまで6段階で設定できる「MANUAL」モードの4種類が用意されている。

 このうちAUTOの3モードは、まさに三菱ランサーエボリューションのACD(アクティブセンターディファレンシャル)と同じと言ってよい。詳細には「AUTO-」がランエボの「TARMAC」、「AUTO」が「GRAVEL」、「AUTO+」が「SNOW」と、挙動特性が酷似しているのだ。

スバルWRX STIタイプS

 なお、ランエボには後輪左右のトルク配分を電子制御する「AYC」(アクティブヨーコーントロール)が搭載される代わりに前後トルク配分は50:50だったが、WRX STIAYCがない代わりに41:59という後輪寄りの前後トルク配分となっており、その結果として各モードでランエボと同様の傾向を持つようになったのは興味深い。だが決して好ましいとは言い切れない。

 東名高速道路下り大井松田~御殿場間右ルートや箱根ターンパイクのように、わずかな操舵で長く速く旋回し続ける高速コーナーが続く道では、「AUTO-」や「AUTO」ではステアリングの切り始めがクイックに過ぎリニアリティも低く、さらにその後は意図せず後輪が巻き込もうとしているかのような感覚を常にドライバーに伝えてくる。こうした状況では「AUTO+」に設定した方が、過度に曲がりすぎず安心して走ることができるだろう。

 逆に、芦ノ湖スカイラインのようにタイトな低速コーナーが続く道では「AUTO」あるいは「AUTO-」を選んだ方が、この過剰とも思えるクイックさがむしろ、素早く操舵しリズム良くコーナーをクリアしていくうえで大きな助けとなる。コーナー立ち上がりでも“踏んで曲げる”ドライビングがしやすくなるので積極的に使っていきたい。

前輪には6POTのアルミモノブロックブレーキキャリパーを装着
後輪のキャリパーは2POT。タイヤは245/35R19 89WのアドバンスポーツV105

 なお、フロント6POT・リヤ2POTのアルミモノブロックキャリパーと18インチドリルドベンチレーテドローターを組み合わせたブレンボ製ブレーキは、約400万円のクルマとは思えないほど剛性感溢れるペダルタッチとリニアな効きをドライバーにもたらしてくれる。だが、パッドは街乗りでの快適性を重視しているのか、下りのワインディングを走行し続けるにつれてタッチも制動力も甘くなる予兆が感じ取れた。

 ランエボ在りし日にはあらゆる面で好対照だった(インプレッサWRX STIだが、ランエボ亡きいま、その性格は急速にランエボに近付きつつある。また、街乗りでの快適性に重きを置いたであろう部分も散見され、それがために不自然かつチグハグした印象をドライバーに与えるようになったのは残念でならない。

 町中や高速道路での快適性を重視するのは「S4」が担うべき役割であって、「STI」はあくまでワインディングやサーキット、あるいはラフロードでスポーツ走行した時の速さと操縦安定性こそ最重視すべきだろう。スバルの商品企画・開発スタッフは迷いを捨て、「S4」と「STI」とをより明確に棲み分けてほしい。

【Specifications】
スバルWRX STIタイプS(F-AWD・6速MT)>
全長×全幅×全高:4595×1795×1475mm ホイールベース:2650mm 車両重量:1490kg(テスト車両は1510kg) エンジン形式:水平対向4気筒DOHCターボ 排気量:1994cc ボア×ストローク:92.0×75.0mm 圧縮比:8.0 最高出力:227kW(308ps)/6400rpm 最大トルク:422Nm(43.0kgm)/4400rpm JC08モード燃費:9.4km/L 車両価格:406万800円

スバルWRX STIタイプS