政権発足から2019年5月で丸2年。韓国の文在寅(ムン・ジェイン=1953年生)政権は今も50%近い支持率を維持している。

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 国民の期待は強いが、「経済」については明るい材料が見えない。国民の不満と不安が高まる中で、「積極財政」で乗り切る方針だ。

 「国のGDP(国内総生産)比債務を40%に抑えるというが、その根拠は何なのか? わが国は、積極財政の余力がある」

40%の根拠は何か?

 2019年5月16日、文在寅大統領は、2020年以降の予算の大枠の方針を説明した洪楠基(ホン・ナムギ=1960年生)副首相兼企画財政相にこう話した。

 質問というよりは、「積極財政」予算を編成するように事実上指示したと見るべきだ。

 韓国は比較的国の財政が健全だと言われてきた。予算を編成する企画財政部は、「40%」をマジノ線として政府与党の予算要求を管理してきた。

 この「暗黙の了解」が2020年予算で崩れることは必至になった。

 文在寅大統領は、野党時代に、前の朴槿恵パク・クネ1952年生)政権が積極予算を編成しようとすると「40%ラインが崩れる放漫予算だ」と厳しく批判したことがある。

 このため、保守系メディアは「変節だ」と批判の声を上げている。

 だが、大統領自身はもともと緊縮財政派ではない。選挙期間中も「小さな政府が正しいという誤った認識を直す」と繰り返し主張してきた。

 さらにここへきて、さらに積極財政に乗り出さざるを得ない事態も続出している。

週52時間制導入でバス運転手が苦境に

 5月15日、全国のバス会社の労組が待遇改善を求めてストを計画した。

 韓国では公共交通手段に占めるバスの比重が高い。ソウル郊外からの通勤にバスを使う例も多く、ストが実施になれば大混乱に陥るのは必至だった。

 バス運転手など労組が求めていたのは、政府が導入した「週52時間勤務制度」の補完措置だった。

 韓国でも働き方改革への要求は強い。政府はこれを先取りする形で、2018年7月に「週52時間労働制」を幅広い業種に導入した。

 日本のような労使合意の上での柔軟労働制の幅は狭く、その代わりバスなど交通業については1年間の猶予期間を設けていた。

 それまでの労働時間は「週68時間」だった。

 1日8時間、週5日間の40時間勤務に時間外12時間で52時間。これとは別に、週末勤務が1日8時間、週2日間でき、週68時間という計算だった。

 ところが、韓国でも長時間労働が問題となり、特に、週末を「計算外」とする根拠に乏しいことから、「週52時間制」になった。

 バス運転手の場合は、経過措置期間が1年間あり、7月に導入予定だ。

 バス運転手の長時間労働は、安全問題にも直結するため、改善を求める声は強い。一方で、運転手の立場に立てば、労働時間がかなり減ってしまう。

 月収300ウォン(1円=10ウォン)程度の運転手の場合、月収が80万ウォンほど減るとあっては、死活問題だ。

 一方のバス会社の立場に立てば、これまで通りの運行を続けるためには、運転手をさらに雇用する必要がある。

スト回避の代償

 バス運転手は、待遇改善を求めて、ストの準備に入った。

 政府、自治体、労使間の交渉がぎりぎりまで続いた結果、ストは回避になり、ほとんどのバス労組が合意に達した。

 中身を見ると、バス料金引き上げ、定年延長、バス会社への赤字補填――が合意の骨子だ。

 すでにソウルなどでバス会社への財政支援を実施しているが、ソウル郊外の京畿道などでも「税金投入」の方向となった。

 すでに1兆ウォンもの財政支援をしているが、これがさらに増える事が確実になった。週52時間制度の導入で料金が引き上げになり、税金投入額も増えることになるわけだ。

韓国電力の大幅赤字

 「こちらはいったいどうなることか」

 韓国紙デスクが、バス問題以上に注目するのが「韓国電力の赤字問題」だ。

 全国のバス会社の労使交渉が大詰めを迎えていた5月14日、韓国電力が2019年1~3月決算で、営業赤字が6299億ウォンだったと発表した。

 韓国電力は、2018年10~12月決算でも7800億ウォンの赤字を出しており、2四半期連続で巨額の赤字となった。

 韓国電力は、2016年の年間決算で12兆ウォンを超える営業利益を記録した。

 ところが、文在寅政権が発足した2017年に営業利益が4兆9532億ウォンに急減し、2018年には2080億ウォンの営業赤字に転落した。赤字幅はさらに大幅に拡大している。

 6299億ウォンという赤字額は、1~3月期決算としては過去最大規模だった。

 韓国電力は、1~3月期には、前年に比べて気温が上昇したため暖房用電力消費が下がったうえ、発電用エネルギー調達費が7000億ウォン増加したためだと説明した。

 天候要因は分かるが、調達額上昇とは何か。

 「韓国経済新聞」は「原子力発電を減らしてずっと高コストのLNG(液化天然ガス)発電や再生エネルギーの比重を高めたことが最大の要因だ」と指摘、「政府の政策が変わらない限り、電気料金引き上げは不可欠だ」と報じた。

 原発の稼働率は2014年85%、2015年85.3%、2016年79.7%だったが、文在寅政権が発足した2017年には71.2%に下がり、2018年も65.9%になった。

 ところが、1~3月には75.8%に上昇しており、「脱・原発」だけが、韓国電力の大幅減益の原因だとは言い切れない。

赤字でも実質値下げ?

 一方で、韓国ではここ数年、大気汚染が深刻でクリーンエネルギーといわれるLNG発電や再生エネルギーの比率を上げており、こうしたことが加わってコスト増になったことは間違いない。

 問題は、韓国電力が大幅赤字に陥ったにもかかわらず、政府は、「電気料金引き上げ」どころか、実質的な値下げの可能性が出てきていることだ。

 「毎日経済新聞」によると、政府与党は電気料金の改正作業に着手した。

 韓国では、電力需要を抑えるため、家庭用料金に「累進性」を適用している。累進幅は最大3倍だが、これを1.5倍から2倍に緩和する方向で検討中だという。

 政府は2018年の7月と8月にも、累進性を緩和し、猛暑需要に合わせて実質的に電気料金を引き下げたことがある。

 このとき、引き下げ額は総計で3600億ウォンに達し、一部を税金で負担した。

 2019年も夏のピーク時以前に緩和措置を決める方向だ。

値上げはない、実質値下げ検討

 発電コストは上昇し、大幅赤字が出ている中で実質的に電気料金を引き下げる。

 巨額の赤字を出した韓国電力だけに「値下げ原資」を負担させるわけにもいかず、一部は政府負担になるだろう。

 さらに、今後も、韓国電力の赤字幅が拡大が止まらない場合、何らかの支援策も必要になる。

 ということは、税金による支援幅が増えることを意味する。

 政府は、追加予算で雇用対策にも力を入れる。

 青年の実質失業率が過去最悪の水準になり、高齢者の生活苦も深刻化しているため、政府機関による一時的な雇用を増やすなど、「官製雇用」の拡大にも乗り出す。

 「積極財政」をフルに活用しようということだ。

 健全財政だから大丈夫ということなのか。韓国紙デスクはこう話す。

 「韓国では個人負債が膨れ上がり、1500兆ウォンを超えてしまった。この問題はいずれ深刻になる」

 「少子高齢化も急ピッチだ。北朝鮮支援の問題もある。財政がまだ健全だと言っている余裕はさほどない」

 それでも、2020年春には政治決戦である総選挙を控える。財政拡大による景気てこ入れが続くのは間違いなく、積極財政基調は続くだろう。

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