(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

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 米国連邦議会では2018年11月の選挙で野党の民主党が下院の多数を制した。多数党は議会の全委員会の長ポストを握り、議題や審議の手続きを仕切ることができる。下院で共和党民主党の勢力が逆転したことで、2019年初頭からは民主党議員たちが議事進行の先頭に立つようになった。

 なかでも活発なのは外交委員会である。外交委員会のなかで日本についての政策を審議するのが「アジア太平洋・不拡散小委員会」(Subcommittee on Asia, the Pacific and Nonproliferation)だ。この小委員会の委員長に新たにブラッドシャーマン議員が就任した。

 シャーマン議員はこれまで一貫して「いまの日米同盟は不公正であり、日本は憲法を改正して集団自衛権の完全行使を可能にし、米国を支援すべきだ」と主張してきた。同議員が下院外交委員会の要職に就いたことは、日本側でも知っておくべきである。議会での日本関連の審議で日本に改憲を求める動きが出てくる可能性が高くなったからだ。

日本、中国などアジアの問題を扱う小委員会

 現在、下院外交委員会のメンバーは民主党26議員、共和党20議員である。この委員会は活動がきわめて活発だ。この5月に入ってからでも、中国、ロシア北朝鮮イラン、人権、大量破壊兵器などに関する問題を幅広く取り上げて、12回も公聴会を開いた。

 そのなかでもとくに活発に動くメンバーが、カリフォルニア州選出のブラッドシャーマン議員である。同議員は1997年以来、当選7回、外交委員会全体において民主党側議員のなかで委員長に次ぐ筆頭議員の立場にある。また、民主党リベラル派としてトランプ政権への反発も激しく、トランプ大統領への弾劾決議案の提出を何度も試みてきた。

 そのシャーマン議員が、下院外交委員会の「アジア太平洋・不拡散小委員会」委員長に就任した。下院外交委員会では、地域別、主題別に6つの小委員会を設けている。そのなかで日本や中国などアジア関連の課題を専門に扱うのがアジア太平洋・不拡散小委員会である。

 この小委員会も活動は盛んで、この5月に入ってから中国の対外的な膨張について3回ほどの公聴会を開いている。公聴会は特定のテーマに関して専門家の報告や証言を聞き、議員たちが質疑応答の形で自由に意見を交わす。その議論を踏まえて、米国の議会、さらには政府の公式の政策を練り上げていく。5月8日には「アジアと米国における中国の影響力拡大」というテーマで熱のこもった討議を長時間展開した。この公聴会で議長を務めたのがシャーマン議員だった。

「日米同盟の片務性は不公正」

 小委員会の委員長は、公聴会で取り上げる課題やその審議方法を決める権限を有している。つまりシャーマン議員は、アジア・太平洋の諸問題のなかで何を取り上げ、どう扱うかを決める立場にあるのだ。だから外交政策一般やアジアについて同議員がどんな認識を持っているかはきわめて重要となる。

 ではシャーマン議員の認識、スタンスはどのようなものか。実は彼は「日本は憲法を改正すべきだ」と公式の場で明言してきた“日本改憲論者”である。

 私自身、シャーマン議員のその意見の表明を少なくとも2回、目の前で見聞きしたことがある。シャーマン議員はその他の機会にも同趣旨の発言をしてきた。代表的なのが、2017年2月28日に開かれた同アジア太平洋・不拡散小委員会の公聴会である。

 この公聴会は「中国の海洋突出を抑える」と題されていた。南シナ海と東シナ海での中国の無法な膨張を米国はどう抑えるべきか、が審議の主題だった。トランプ政権が発足してからほぼ1カ月の時期に開かれたこの公聴会では、中国の軍事的な膨張を抑える手段としての日米同盟のあり方も議論の対象となった。トランプ政権はすでに日本の尖閣諸島の防衛への誓約を明言していた。

 その公聴会で、民主党側の筆頭委員だったシャーマン議員は以下のような発言をした。

「トランプ政権が日本の施政下にある尖閣諸島の防衛を約束したことには反対です。日本は憲法上の制約を口実に、米国の安全保障のためにはほとんどなにもしないのに、米国が日本の無人島の防衛を膨大な費用と人命をかけて引き受けるのは理屈に合いません。日本側はこの不均衡を自国の憲法のせいにしますが、かといって『では、憲法を変えよう』とは誰もいわないのです」

 米国連邦議会のベテラン議員の発言としては、かなりショッキングな内容である。日米同盟の根幹のあり方への非難であり、批判なのだ。シャーマン議員は、現在の日米同盟の片務性は不公正なので、不公正を正すために日本は憲法を改正せよ、と求める。もちろん、集団的自衛権の行使を不可能にする憲法9条の改正も必要、ということになる。

トランプ政権からも出てこない過激な主張

 さらにシャーマン議員はこんな説明をつけ加えた。

「2001年9月の9.11同時多発テロ事件では米国人3000人が殺され、北大西洋条約機構(NATO)の同盟諸国は集団的自衛権を発動し、米国のアフガニスタンでの対テロ戦争に参戦しました。しかし、日本は憲法を口実に、米国を助ける軍事行動を何もとらなかった。その時、『日本はもう半世紀以上も米国に守ってもらったのだから、この際、憲法を改正して米国を助けよう』と主張する日本の政治家が1人でもいたでしょうか」

 トランプ政権からでもなかなか出てこない過激な主張であり、日本に対する手厳しい批判でもあった。

 シャーマン議員はこの公聴会の後にも、別の公聴会で再び日本の憲法に対する同様の批判を表明している。「日本の憲法によって日米同盟が不平等な状態になっている」とする批判が持論であることは明白なのだ。

 そうした意見の持ち主が、米国連邦議会のなかで日本への関わりが最も大きい小委員会委員長ポストに就いた。このことは日本側でも銘記しておくべきだろう。

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