ホタテの料理。海鮮も新鮮でおいしい

◆実はバンコクっ子は敬遠しがちな「昆虫食」に変化
 海外旅行というと、大きな楽しみのひとつに食事が挙げられるだろう。日本では味わえない現地での美食を楽しむことを目的にする人も少なくない。しかし、文化の違いなどから日本ではあまり使われない食材があるなど、場合によってはアグレッシブな観光になることもある。

 そんな人がしばしばトライするのが、「昆虫食」だ。
 日本でもイナゴや蜂の子など以外にも、徐々に広まりつつある「昆虫食」。世界的に見ても多くの地域で昆虫が食され、世界的には1000を超える種類の虫が食用になるという。

 東南アジアでも昆虫食は珍しくなく、タイにおいても昆虫食は一般的だ。ただしそれは、バンコクではなく東北地方が中心になる。タイ東北地方や北部は海がない。特に東北地方は山も少ないので野生動物もそれほど多くないため、重要なタンパク源として昆虫が食べられてきた。バンコクにおいても昆虫を売る屋台をよく見かけるが、買っていくのはやはり東北地方出身者ばかりだ。彼らからすれば食べ慣れた食材であるし、軽食としても手軽なので屋台で見かければ思わず買ってしまうようである。

バンコクの屋台で売られる昆虫は揚げものが中心だ

 バンコクなど都会育ちの人々からすると、昆虫は救荒食物、あるいは農業しか産業がなく貧困層の地域というイメージが東北にあることから、低所得者層の食事というネガティブな印象が先行している。この辺は、日本人など昆虫を食べ慣れていない人からしてもやはり虫の外観に好感を持てない人も少なくないだろう。

 しかし、近年では貴重なタンパク源として注目されるようになっているのはタイも日本も同様で、バンコクにおける昆虫食に対する感情に徐々に変化が出てきた。高級レストランなどで昆虫が使われるようになっているのだ。今回は、そんなバンコクで人気のある昆虫食を推進するレストランのひとつに行ってみた。

バンコクの最先端スポットにある昆虫食レストラン

「INSECTS IN THE BACKYARD」の外観にも昆虫の足が飾られる

 昆虫食を勧めている人気レストランバンコクにすでに数店ある。今回はその中で一、二を争う人気店「INSECTS IN THE BACKYARD」に行ってみた。

 バンコクは今、中心地から見て東へと開発が進んでいるが、実はチャオプラヤ河の西岸も注目されるエリアになっている。不動産開発だけでなく、観光スポットなどが新しくできあがっており、電車などの交通網も整備されつつある。

 そんな地域にある「チャーン・チュイ」というナイトマーケットの中に「INSECTS IN THE BACKYARD」がある。このマーケットは中央に航空機を置いた新しいスポットで、このレストラン以外にもタイ人向けの価格帯で設定された飲食店がたくさん並んでいる。

「チャーン・チュイ」はバンコクの西側にある新しいナイトマーケット。一部の店は昼間も営業する

巨大な飛行機が置かれ、夜は23時まで賑わう「チャーン・チュイ」

「INSECTS IN THE BACKYARD」は店名通り、裏庭の昆虫をコンセプトにしている。タイの昆虫食は、たとえばカンボジアなどと比較しても食する昆虫の種類はそれほど多くない。このレストランでも中心になるのが、コオロギや、カイモッデーン(赤アリの卵)とタイ人が呼ぶアリのさなぎラグビーボールのような形の蛾のさなぎ、竹の中にいる芋虫である竹虫だ。

 タイの昆虫食は基本的には揚げているものばかりだ。屋台などではどんな油を使っているかわからない。作り置きした虫のから揚げに、ときどき塩水をスプレーするので、味は油と塩の味といった感じで、食感を楽しむものになる。しかし、ときにこういった屋台だと食中毒を起こすこともあるので、なおのことバンコク人は敬遠したがる。

 この「INSECTS IN THE BACKYARD」においては、タイの有名レストランで修行をしてきたティティワット氏がメインシェフとなっており、昆虫でさえも品のよさを感じる。この店の昆虫も多くは揚げものとして調理されているので食べやすいし、なによりパスタや肉・魚料理そのものがおいしい。どうしても昆虫が苦手な人には虫を使っていないメニューも用意される。

 これらの料理そのもののレベルが高いため、「INSECTS IN THE BACKYARD」ならすんなりと昆虫食を受け入れられるだろう。料理に合わせて昆虫の種類も厳選されているし、デザートに添えられる昆虫はちゃんと甘く味つけされていて、きめ細かな仕事が施されている。

◆予約は一杯。丁寧な調理に人気爆発
 店内をざっと見回してみると、座席数はあまり多くない。気さくなウェイターに話を聞くと、

「最近はおかげさまで予約でいっぱいです」

 というほどだ。顧客の中心はタイ人が圧倒的に多く、次に白人や中国人、最近は日本人ブログで紹介しているなどで増えてきたという。最初こそ誰もが興味本位だが、食事が終わるころにはみな昆虫食への印象が変わっているとウェイターは話した。

店内のふたりがけのテーブル席。理科室の雰囲気を持つ棚がある

ラフレシアは隣のマレーシアが有名

 店内の雰囲気はアンティーク調のテーブルなどがありつつ、随所に昆虫のオブジェなどが見られる。本当の虫嫌いにはおそらくその時点でアウトかもしれない。天井からはかつて日本のテレビで人食い花などと紹介されたラフレシアのオブジェもぶら下がる。食虫植物を模したそのオブジェは、筆者からすると80年代ホラー映画(?)である「リトルショップ・オブ・ホラーズ」を彷彿する。

ブラウニーに載ったコオロギは甘くて昆虫を食べている感じがしない

ホタテの料理をアップにすると、竹虫が載っていることがわかる

生牡蠣も新鮮だった。アリのさなぎの味がわからなかった

 さて、今回の食事で5品ほど注文した。デザートとドリンク、それから消費税サービス料を含め、会計はおよそ2000バーツ(約7000円)だった。この金額は飲食店としてはそれなりに高級な部類に入るだろう。1品あたり200~300バーツするので、バンコクの中心地にある日本人経営の居酒屋よりも高いと見ていい。

昆虫食に慣れたタイ東北部出身者も感動の味
 同行した筆者の妻は昆虫食に慣れた東北地方出身者で、感想を聞くと「これまでになかった昆虫食で感動した」とは言いつつも、

「虫でこの料金は高い。ありえない」

 という本音もあった。

 そう考えると、いわゆる富裕層まではいかなくても、アッパーマス層(タイのこの層の定義は不明だが・・・)のようなそこそこに金銭的余裕のある層をこのレストランターゲットにしていると見られる。本来の昆虫食に慣れた人たちはいったん置いておき、上の層から昆虫食を見直してもらおうという考えが見られる。

 実際、この層が購買力も高く、同時にSNSなどを巧みに利用する術を持っているので、口コミで昆虫食を広げる力もある。ほかの人気昆虫レストランも客層が富裕層や芸能関係者だという。今後の数年でタイの昆虫食が大きく変わっていくことだろう。バンコクに来たら、タイ料理だけでなくぜひ昆虫食も楽しんでもらいたい。

<取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:@NatureNENEAM)>
たかだたねおみ●タイ在住のライター。近著『バンコクアソビ』(イースト・プレス)

ホタテの料理。海鮮も新鮮でおいしい