きょう5月22日から26日までテレビ朝日開局60周年記念 5夜連続ドラマスペシャル「白い巨塔」が放送される。原作は、これまで繰り返しドラマ化されてきた山崎豊子の同名小説だ。主人公で、名門大学の医学部教授の地位を虎視眈々と狙う外科医・財前五郎を今回、岡田准一が演じる。

テレビ朝日の開局60周年記念ドラマとしては、すでに2月に米倉涼子主演で「松本清張 疑惑」が放送されている。松本清張原作では、今年やはり開局60年を迎えたフジテレビも3月に「砂の器」を放送した。同じく3月には、テレビ東京が開局55周年を記念して、山崎豊子原作の「二つの祖国」を放送している。

周年記念ドラマで清張と山崎作品がとりあげられる理由
こうして見ると、各局の周年記念のドラマで山崎豊子松本清張の作品があいついでとりあげられたことになる。だがそれは、けっして偶然ではない気がする。両者の大半の作品には、現実の事件から題材や着想を得たり、社会の底辺に生きる人たちを描いたりと社会派という共通点がある。そうした重厚さは、テレビ局の節目の記念企画にふさわしい。また、「白い巨塔」や「砂の器」は、これまでにも繰り返し映像化されて人気をとってきた“実績”があり、人々のテレビ離れの進む昨今、局側としては確実に視聴率をとれるとの思惑もあるのではないか。

もっとも、山崎と清張の作品が節目のドラマで好まれる傾向はおそらくいまに始まったことでなく、けっこう前からのように思われる。そこで私は、こんな仮説を立ててみた。

「テレビの周年記念ドラマ、だいたい山崎豊子松本清張が原作」説

検証のため、2001年以降に絞って、NHKと在京民放キー局の節目の記念ドラマをリストアップしてみた。それが以下の表である。表1では2001〜09年、表2では2010〜19年の作品をあげた。このうち、松本清張原作はピンク、山崎豊子原作は黄色で示した。


一夜漬けでつくったリストなので、おそらく漏れもあるとは思うが、主要な作品はだいたい押さえているはずである。こうして見ると、単発の特別番組として放送されたものだけでなく、レギュラー枠での連続ドラマもあったりと、放送形態は結構バラエティに富んでいる。ジャンルも時代劇、マンガ原作もあれば、ベテラン脚本家のオリジナル作品もある。そのなかにあって、昨年、朝の情報番組「ZIP!」のミニコーナーとして放送されたバカリズム脚本の“朝ドラ”「生田家の朝」は異彩を放つ。日テレはこれを65周年記念企画として放送したのだから、すごい。

バラエティに富んだ記念ドラマにあって、とくに目立つのは、現代史を題材とした作品だ。「警官の血」(2008年)、「わが家の歴史」(2010年)、「99年の愛〜JAPANESE AMERICANS〜」(2011年)などは、一族の歴史を過去から現在へと描いたものだ。こうした作品が選ばれるのも、過去を顧み、将来を展望しようという節目ゆえだろう。

記念ドラマでは、山口百恵の主演作をホリプロの後輩の石原さとみでリメイクした「赤い疑惑」(2005年)、W浅野の久々の共演が話題を呼んだ「抱きしめたい!Forever」(2013年)など過去の人気ドラマの続編、リメイクも少なくない。2004年、2005年とテレビ東京の新春ワイド時代劇でドラマ化された司馬遼太郎作品「竜馬がゆく」「国盗り物語」は、これ以前に大河ドラマにもなっている。

説立証ならず。しかし多いのはたしか
さて、肝心の山崎豊子松本清張原作だが、見てのとおり、仮説はあっさりと覆された。しかし群を抜いて多いことは間違いない。2001年から2019年までに、清張原作は10作、山崎原作は5作を数える。

山崎豊子に関しては、1970年代に映像化ラッシュが最初のピークに達したのち、2000年代以降、作品があいついでドラマや映画になり再ブームが起こった。その契機となったのは、2003年、フジテレビの開局45年を記念して唐沢寿明の主演により「白い巨塔」が再ドラマ化され、好評を博したことだろう。唐沢は原作者の山崎に気に入られ、その後、2009年の「不毛地帯」でも主演した。

これに対して松本清張は、時代に関係なく多くの作品が映像化されている。2004年にテレビ朝日が開局45周年で「黒革の手帖」をドラマ化、このとき主演した米倉涼子は、以後、テレビ朝日の周年記念ドラマに欠かせない存在となる。しかも2008年の「氷の華」以外はすべて清張作品だ。テレビ東京の開局50周年ドラマ「強き蟻」(2014年)でも主演し、まさに局を越えて“清張女優”と呼ぶにふさわしい活躍を見せている。

清張作品に登場する女性は往々にして、現実にはありえないバイタリティで悪女として世を渡っていく。それが米倉のキャラにハマったということだろう。おそらく、清張作品に出ていなければ、その後、彼女の代表作となった「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」も生まれなかったのではないか。

初代財前は佐藤慶だった
ここで「白い巨塔」のドラマ化の歴史も簡単に振り返っておきたい。同作が初めてドラマ化されたのは1967年、主人公の財前五郎に佐藤慶が扮し、当時NET(日本教育テレビ)という局名だったテレビ朝日で放送された。その前年には、山本薩夫監督、田宮二郎主演で映画化されている。田宮はその後、1978年から翌年にかけてフジテレビのドラマ版でも主演し、財前=田宮というイメージが定着した。

テレビ朝日でもその後、1990年村上弘明の主演により2夜連続でドラマ化されている。さらに先述のとおり、2003年には再びフジテレビで唐沢寿明主演による連続ドラマが放送された。

このように『白い巨塔』は、テレビ朝日とフジテレビが交互に、昭和と平成に2回ずつドラマ化してきた。そして令和改元直後の今回でじつに5回目のテレビドラマ化ということになる。3代続けてドラマ化された小説は、おそらくこれが初めてだろう。前作から15年、その後の時代の変化も反映されているのだろうか。今夜9時からの放送を楽しみに待ちたい。
(近藤正高)

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