韓国の首都ソウルの繁華街である明洞(ミョンドン)に行くと、様々なコスメブランドの店が軒を連ねている。しかし、そこにある店だけが韓国コスメではない。

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 最近、世界的な韓国コスメブームにあやかろうと、成長があまり望めなくなったアパレル業界から異業種参入する韓国コスメが増えてきている。

 そうした新しいブランドは明洞にまだ店を構えていないことが多い。

 また、そうした新生コスメ企業は、資金力があるからかめきめきと頭角を現し、売り上げも破竹の勢いで伸ばすことが少なくない。

 ところが、好事魔多しである。CS対応を間違えたばかりに一瞬で凋落してしまった会社がある。

 韓国人はよく「熱しやすく冷めやすい民族」と形容されることが多い。人気が出ると皆で一斉に応援するが、一度背を向けるととことん興味を失ってしまう。

 そればかりか、それまで応援していた人たちが、反旗を翻し厳しい批判の矛先を向けることもたびたびだ。

 今回紹介する「ブリブリ」というコスメブランドはそうした消費者の厳しい洗礼を受けた企業だ。元々は女性服をネットで販売する会社だった。

 日本でもインスタグラムでスターになるインフルエンサーがたくさんいるが、この「ブリブリ」の常務で、通称イム・ブリ(本名はイム・ジヒョン)もインスタが生んだインフルエンサーだった。

 会社の常務であり、CEO(最高経営責任者)の奥様、さらにはブリブリのメインモデルでもある。

 彼女自身が広告塔となって、着るモノ(服)、つけるモノ(バッグ、靴、アクセサリーなど)、塗るモノ(化粧品)、さらには食べモノまでインスタにアップし、自社ブランドをアピールする、知る人ぞ知るネット界のスターだった。

 最近、長男を出産したことで、出産関連商品にまで手を広げていった。

 多分、子供の成長に合わせてどこぞのママタレのように子供服をプロデュースすることも念頭にあったと思う。

 出産後間もないのにすでに以前のボディラインを取り戻し、今年1月17日には何と彼女のファンミーティングを開催、そのチケットはたったの1分で完売するというアイドル並みの威力を発揮した。

 チケットは無料ではないのに、前日から野宿してまで買ったファンがいたり、完売が早すぎてダフ屋が出没したりするほどだった。

 「ブリブリ」というのは、英語のスラングで「Bling-Bling(ブリンブリン)」キラキラしているモノの擬態語があるが、それと「ラブリー」をもじって彼女が「ブリブリ」という言葉にし、その代名詞となった。

 ブゴンF&Cという会社はもともと男性服のネット販売を手がける会社だった。ブゴンF&C(BUGUN F&C)の社長は、イム・ブリ氏の夫で、ブリブリを始めたのはまだ彼らが恋人同士の頃からである。

 元々女優の卵だったイム・ブリ氏に出逢ってブリブリを始め、彼女と二人三脚で育ててきた。

 今やブゴンF&C全体(洋服、コスメなど多数のブランドを抱えている)で売上高1700億ウォン(約170億円)を記録している。

 ブリブリ・ブランドの服やコスメは、韓国でもごく一部の女性に知られるブランドだった。今回の事件が起きた時もテレビの男性コメンテーターなどは知らない人も多かった。

 事件の発端は、ブリブリが最近発売した「種まですりつぶしたかぼちゃの汁」(これも28回目の販売分まで完売)で起きた。

 「ブリブリ」ブランドのVVIP(超重要人物=Very very important person)顧客を自称する人が、飲み口のところにカビが生えているようだと会社に写真を送ったところ、会社側の回答が悪かった。

 「あなたがこれまでに食べてしまった製品に関しては確認ができないため、今回送ってもらった製品に関してだけ返金する」と返信してしまったのである。

 これまでブリブリの売り上げに貢献してきた超VIP顧客のはずなのに、なぜこんな対応なんだと不満げにネットにアップしたところ、この商品のネット検索で1位となった。

 特に、連絡してから1か月もなしのつぶてで、適切な対応が行われなかった点が消費者から強い反発を受けた。

 今回のかぼちゃ汁に関しては、かなり前から「炭酸ぽい」とか、「異臭がする」という消費者の抗議の声が上がっていた。

 しかし、イム・ブリ氏はそうした声に「妊娠中の私も飲んでいるから大丈夫」と直接返信していた。

 彼女の会社が1000億ウォン台まで売上高を伸ばすことができたのは、彼女のこうした顧客との親密できめ細かい対応があったからだ。

 彼女は、完璧な美女でもなく、モデルとしては身長も高くない。どちらかといえば親しみやすさで売っている。

 さらに、自社ブランドにロイヤリティの高い消費者に対しては「ブリニム(ブリ様)」と表現しながら、リアルタイムで顧客のDM(ダイレクトメール)に答えることは、彼女のファンたちにとってはとても嬉しいことだったのだ。

 実際にカビが見つかり、味が炭酸ぽいというのは、すでにかなり危険な兆候だったことが想像できる。

 多くの人から非難され、仕方なくイム・ブリ側は謝罪した。しかし、すぐに顧客窓口だった書き込み欄を閉鎖し、アカウントも非公開にし、コミュニケーションを取らなくなった。

 かぼちゃの汁から端を発して今度は化粧品のスポンジやシャワー器のヘッドなどからもカビが生えたという証拠写真がどんどんネットにアップされ始める。

 こうなるとあることないことが次々とネット上に書き込まれ炎上していく。そしてその悪評がさらなる問題を暴露することにつながる。

 例えば、「ブリブリ」が販売していた洋服やカバン、靴は高級ブランドのコピー製品なのに、販売用の写真を撮るときは本物のブランド品で、売るのはなんちゃって商品だとか、東大門市場(南大門市場と並ぶソウルの2大市場の一つ)から仕入れてきた仕入れ品を高く売りさばいていたとか・・・。

 芋づる式に悪質な部分が露呈した。

 また、東大門市場の商人や他のネット通販業者からは、彼らが同じ市場の商品でもデザインを独占して、自分たちと同じものを売ろうものならとことん告訴していたことも判明した。

 さらに、従業員たちも内部告発をし始めた。

 これには会社も釈明せざるを得ず、41分の謝罪映像をユーチューブにアップした。しかし、謝罪とはいうものの、釈明に近いものだった。

 いつものようなかわいらしい雰囲気ではなく、急に老け込んだイム・ブリ氏は、白いTシャツに黒のジャケット羽織って、いろいろな釈明をした。

 しかし、この映像をアップした後も自分をネット上で非難する人を告訴したりしたため、ますます彼女への非難が高まった。結局、謝罪映像すら削除してしまった。

 こうした時に、それに乗っかろうとする輩が登場する。韓国でお騒がせ弁護士として有名なカン・ヨンソク氏が、イム・ブリ氏の過去を暴露したのだ。

 彼女は未成年者の時から同棲しており、相手の男性から自分だけではなく家族の生活費や大学の授業料を払ってもらったなど・・・。

 これにはさすがに、それまで一度も表面に出てこなかった夫でブゴンF&CのCEOがすぐさま反論した。

 「彼女とつき合い始めたのは未成年者の時ではなく成人になってからで、彼女は誰からも援助を受けたことがない」と。

 人妻になった彼女に対して、昔の恋人のことを言われるのにはさすがに黙っていられなかったらしいが、これがさらに消費者の印象を悪くした。

 本来、欠陥商品の謝罪は代表としてCEOがすべきなのに、それについては妻の後ろに隠れてしまって、妻の恋人問題だけには反論するのかというわけだ。

 そこからまたブリブリ製品の粗悪さに関する非難がひっきりなしに続き、ついにはペーパーカンパニーを使っての脱税疑惑なども浮上した。

 化粧品も2品種に関して化粧品法違反で発売できないはずなのに、そのまま売っていたとか、剥いても剥いても終わらない玉ねぎのように問題が出てくる。

 今年5月になると、急に彼女はインスタに「皆さんの4月はどうでしたか。笑って話せたあの頃が懐かしいです」と、コメントをアップした。

 そして、すぐに新製品情報をアップし「これもすぐに完売しました」という文句も並んだ。これには旧来の熱烈なファンも呆れたようだ。

 5月20日、ようやくCEOが自ら出席する記者会見を開いた。

 その内容は、自分たちが作った製品には全く瑕疵がないということ、そして、常務のイム・ブリ氏を経営の一線から退かせ、ブランドのインフルエンサーとして定期的に消費者懇談会などを担当させるというものだった。

 これには、「エッ、今まではインフルエンサーじゃなかったの?」というリアクションが多かった。

 同社の店舗は、韓国の観光スポットでもあるホンデイック(弘大入口)にある。大きな店で、一度筆者も入ってみたが、洋服は明らかに粗悪品なので買う気にならなかった。

 ただコスメの方は女性のハートを鷲づかみしそうな上品なピンクのパッケージで、うっかり手を出しそうになった。

 それはともかく、韓国の新興ブランドにはブームに乗って売り抜けられればそれでいいというような企業が紛れ込んでいるのは間違いない。

 顧客満足度を少しずつでも上げてブランド力を高め、さらに品質を改良して顧客満足度を上げていこうという消費者目線の企業だけが勝ち残るようになるには、まだ市場が十分成熟していないようだ。

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