(C)弓月光/集英社・グランドジャンプ
(C)弓月光/集英社グランドジャンプ

『甘い生活』『みんなあげちゃう♥』などでヒットを飛ばし、エロティックコメディの先駆けとしても人気の高いマンガ家弓月 光ゆづきひかる)が、昨年、画業50周年を迎えた。

果たしてその長い年月に何を考え、どのような想いで作品を描き続けてきたのか。その胸の奥に迫った!

* * *

■自分のマンガはいつも行き当たりばったり

――このたびは画業50周年おめでとうございます!

弓月 ありがとうございます。もう今年で52年目なんですけどね。僕のマンガって、ほとんどワンパターンしか描かないんだけど、ここまで続いたってのは自分でも不思議というか。ほかに似たタイプのマンガ家がいないから続いてるのかなって。

――ワンパターンだなんて。

弓月 いや本当にそう。僕が描くおねぇちゃんのキャラなんて2種類くらいしかないしね。気が強くて男を翻弄するタイプか、逆に男を支えるタイプのどちらかで。基本的にはそれだけだから。

――先生は最初、少女マンガでデビューしたんですよね。

弓月 最初は『少年』って少年誌の新人賞で佳作を獲(と)ったんだけど、審査員の先生に「絵が少女マンガ向きだ」って言われて。その気になって『りぼん』の新人賞に応募したら、準入選を獲っちゃった。で、それ以来、『りぼん』で読み切りを描かせてもらうようになったんです。

――少女マンガに抵抗はなかったんですか?

弓月 全然! 少女マンガのほうが女のコをたくさん描けるでしょ(笑)。とはいえ自分は男だから、女のコの内面とかどうしてもわからない部分もあるわけで。そこで描くようになったのがコメディ。そしてコメディが僕の作風になったんです。

――なるほど。先生の作品がどれもコメディなのはそういうことなんですね。でも少女マンガにしては設定が破天荒です。初期の代表作『ボクの初体験』は、男性と女性が入れ替わっちゃう物語だし。

弓月 どの作品も適当なんだけどね(笑)。次回のことなんて考えず、常に行き当たりばったりで。面白いと思ったアイデアを笑いながらそのまま描いてたというか。

昨年、画業50周年を迎えた弓月 光先生
昨年、画業50周年を迎えた弓月 光先生

――自分でも先が読めないからこそ、そのときの笑いをそのまま表現できた?

弓月 うん、それはある。ただその描き方のおかげで、50年を超えた今も大変(笑)。

――週プレ読者の中には、かわいい女のコ・間宮悠乃(ゆの)ちゃんがエッチしまくるコメディ『みんなあげちゃう♥』でファンになった人も多いと思いますが、少女マンガ家だった先生がなぜそのような作品を?

弓月 コメディでも、セクシーさを軸に描いてみたかったんです。で、女のコが「処女いりませんか?」って、男のところに押しかけるネームを書いたら、少女誌じゃ載せられないと(笑)。それで青年誌の『ヤングジャンプ』で連載することになったんです。

――当時はラブコメ全盛。誰もが美少女キャラを求めているなか、少女マンガにも出てきそうな愛らしい女のコキャラと、その一方でかなり大胆な性描写は話題を呼びました。

弓月 少女マンガをやってきたのが生きたよね(笑)。当時のラブコメって男女がくっつくまでの過程を延々と描くのが多かったんだけど、いい年の男女が何もしないなんて変でしょ。だから僕はエッチ後の話を描きたかった。あと青年誌のラブコメによく出てくる女のコが好きじゃなくて。

――それはなぜ?

弓月 みんな男にとって都合がいいキャラばかりでしょ、意味なくパンチラしたり。僕は女のコを自分の意思を持ったキャラとして描きたかった。だから悠乃はいつも自分から素っ裸になったんです。

――圧倒的な人気でした。映画やドラマにもなりました。

弓月 面白かったのは電話ボックスに張ってあったピンクチラシに僕の絵が使われてたこと。ヒロインの悠乃だけじゃなく、お母さんのピンクチラシまであった。あと新宿に「みんなあげちゃう」ってキャバクラがあったり(笑)。(著作権で)金取れるから入ってみようと友達と話したけど怖くて入れなかったね。

デビューから50年、着色以外の執筆は紙とペンで。ペン入れから仕上げまで、原稿1枚につき約1時間かかる
デビューから50年、着色以外の執筆は紙とペンで。ペン入れから仕上げまで、原稿1枚につき約1時間かかる

■『甘い生活』は反発心で始めた!

――これは少し聞きづらいですが......90年代初頭、過激化したマンガの性表現に対し規制が起きました。当時の先生の作品にも発売禁止になったものがありましたが、どう思われてました?

弓月 2作品も有害図書指定を受け発禁になったから。そりゃ腹立たしかったですよ。その処分への反発の気持ちで『甘い生活』を始めたんです。

――手で触れただけでイカしちゃうのに、セックスには関心のない下着作りの天才、江戸伸介とその恋人・若宮弓香のコメディですね。

弓月 セックスがなくても女のコをイカせることはできるし、エロだけでも十分描けることを見せつけてやりたくて。もちろん本番シーンがない分、いかにエロく見せるかは相当考えて描いてますけどね。

――連載開始後から圧倒的な人気を誇り、30年近くにわたって連載が続いています。特に気に入っているエピソードはありますか?

弓月 「呪いのコルセット」(4巻所収)なんて描いてて楽しかったね。

――弓香が16世紀のコルセットを身に着け、やがてやせ細っていくホラー調のエピソードですね。

弓月 下着のマンガだから、クラシックな下着を出そうって考えてるうちに思いついた。昔のゴージャスな下着を着た弓香を描くのが楽しかったな。あと機能性の競泳水着の話も好きだね(26巻所収)。

――女性が着ると気持ちよさで愛液があふれ、それで水の抵抗をなくす特殊な競泳水着のエピソードですね。

弓月 自分でも相変わらずしょーもないアホなこと描くなって(笑)。少女マンガコメディ描き始めた頃から同じというか。

――エロい表現に対するこだわりはあるんですか?

弓月 とにかく下品にしないこと。あと明るいエッチ、楽しいエッチ。それらを突き詰めてコメディとして昇華できるように意識しています。それと自分の想像力だけで描く。

――参考資料を見たり、取材はしない?

弓月 下着のデザインくらいは見るけど、ほかはない。メーカーに一度取材に行ったこともあるけど、参考にならなかった。マンガなんてウソの世界なんだからウソのままでいいんだよ。そう考えたら気楽だし自由に描ける。

――ちなみに先生のマンガに出てくる女のコは皆、かわいいコばかりですけど、誰かモデルはいるんですか?

弓月 誰もいないですね。

――ひとりも?

弓月 いない(きっぱり)。ポージングも写真を見ることはない。自分の頭におねぇちゃんの体を想像するでしょ。そうするといろんなポーズをさせたり、いろんな衣装を着させたくなる。ただそれを描くだけ。僕は自分の頭の中のかわいいおねぇちゃんを描くのが楽しくて、それだけを50年以上続けてきたんだよね。

■マンガを通じて言いたいことはない

忍野 センセイ~!

――その声は!『週刊プレイボーイ21号』のグラビアでコラボをしてくれた忍野(おしの)さらさん!

忍野 50周年、おめでとうございます!

――忍野さんは『甘い生活』を読まれてどうでした?

忍野 大好きな作品です! 直接的な表現はないのにエロさがちゃんとあって。下品さもないでしょ。中高生の性の目覚めに最適かなって。

弓月 うん。実際、そうなってもらえるよう目指してますね(笑)。

忍野 あと『甘い生活』って女性のことをよくわかってる人が描いてるなって気がしました。こんなふうに女性をちゃんと描けるなんて先生はエッチでモテる方なんですよね?

弓月 いや、モテませんね(笑)。エッチかと聞かれたら、それは大概の男と同じで、外に出すか出さないかだけ。女性がちゃんと描けているかは、自分ではわからないよね。自分の中の女のコを描いてるだけだから。

忍野 先生のイラストは、グラドルがとるポーズのようにリアルなものが多いじゃないですか? 私にポーズのアドバイスをもらえません?

弓月 あははは。そんなのないよ! マンガ家にアドバイス求められても......。カメラマンに聞いてください(笑)。でも、今回のグラビアは一生懸命、それらしくやっていただいてありがとうございます。

忍野 そう言っていただいてうれしいです!

――最後に今後の目標は?

弓月 知らないです(笑)。

――先生、そんな!(泣)

弓月 目標とか考えとかまったくないんですよ。マンガを通じて言いたいこともない(笑)。決して誰かのために描いてるわけじゃないんで。自分が楽しいなと思う作品を描いてるだけ。だからこれからもずっと描き続けると思いますね。

●弓月 光(ゆづきひかる 
1949年12月5日生まれ 高知県出身 
1968年、第1回「りぼん新人まんが賞」で準入選し、デビュー。少女誌、少年誌、青年誌と舞台を移しながら、長期にわたりコメディ作品を描き続けている。
5月24日(金)~6月9日(日)、東京・池袋マルイ7階イベントスペースで「弓月光原画展」が開催予定。
詳しくは『弓月 光 画業50周年プロジェクト!!』特設サイトまで【http://grandjump.shueisha.co.jp/amai/】

取材・文/大野智己 撮影/塔下智士

昨年、画業50周年を迎えた弓月 光先生