Point
■食物への感情処理は無意識レベルでも起こると示されていたが、その神経メカニズムは不明だった
■食物画像に対する脳活動をfMRIで計測した結果、無意識でも扁桃体が活動することが示された
■将来は脳活動のデータに基づいて強く感情を喚起する食品を開発するといった産業応用も期待される

体は正直だ。

人間は無意識レベルでも食物への感情処理が行われていることを、京都大学こころの未来研究センターの佐藤弥特定准教授らのグループが発見した。

この研究は、2019 年 5 月 13 日に科学誌「Scientific Reports」誌にオンライン掲載されている。

不明だった無意識レベルの神経メカニズム

私たちは食物を見た瞬間、「おいしそう」「食べ過ぎたら太っちゃいそう」など、プラス・マイナス問わず何かしらの感情処理を行う。

プラス感情は生活を幸せをもたらすが、マイナス感情も食べ過ぎによる生活習慣病を防ぐため、どちらの感情処理も重要だ。

では意識できないほど一瞬の食物画像でも、私たちの脳は反応することができるのだろうか?

実は心理学研究では、「無意識のレベル」でも感情処理が起こると示されている。しかし、そうした無意識レベルの食物への感情処理を実現する神経メカニズムは、長らく分かっていなかった。

世界初の知見。無意識でも感情を感じる脳の仕組み

そこで佐藤准教授らは、日本人22人を対象として、無意識的に、あるいは意識的に呈示された食物画像に対する脳活動をfMRI(磁気共鳴機能画像法)で計測した。

画像は一つは見えないようにサブリミナルで、もう一つは見えるように呈示されている。

実験で用いたサブリミナル寿司のイメージ(実際の刺激は写真刺激)と試行の流れ / Credit: kyoto-u

その結果、無意識的と意識的のどちらの条件にも共通して、両側の扁桃体が食物画像に対して活動することが示された。扁桃体とは、脳内の感情中枢とされる部位だ。

左:抗えないサブリミナル寿司 中:無意識レベルでの食物画像への扁桃体の活動 右;視覚経路のモデル。無意識レベルで扁桃体は皮質下の視覚経路のみで活動した / Credit: kyoto-u

今回の結果から、食物が無意識のうちに感情をかきたてることが分かったが、日常生活に応用できることもある。

例えばリリース内では、「ダイエットする人は環境中の食物刺激(例えばコマーシャルでの視聴)に気をつけたほうがいい、といった日常生活への示唆が得られます」と記述されている。

とはいっても、テレビやネットに触れて食物を避けるのは不可能に近いので、そんな生活ができる意志の強さがあるならとっくにダイエットに成功している気もする。

真面目な話に戻すと、食物感情に扁桃体の関与が示されたことで、扁桃体の活動を亢進させる睡眠不足や、ストレスを避けることが摂食行動のコントロールに効果的な可能性があるのだ。

また研究者は、「今後の発展として、脳活動のデータに基づいて強く感情を喚起する食品を開発するといった産業応用も期待される」と述べている。

…無意識に第三者が関与しようとするのは、ちょっとディストピア感がしないでもないが、見てみたい技術ではある。

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reference: kyoto-u / written by Nazology staff

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