大阪都構想の住民投票実施に向けて、再び歩を進める大阪維新の会。元代表であり、大阪府知事・大阪市長を務めた橋下徹氏が、何もないところから始めるうえで大切にした「実行プロセス」とはどのようなものか?(JBpress)

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(※)本稿は『実行力 結果を出す「仕組み」の作りかた』(橋下徹、PHP新書)の一部を抜粋・再編集したものです。

「実行」の前にすべきこと

 物事を実行するには、まずは大きな方針・ビジョンを立てることです。これは抽象的なものです。そしてこれを具体化し実行するプランを作ります。そのためには組織体制を整えなければなりません。

 具体的な実行プランを作成したら、今度はそのプランに基づいて実行していくことになりますが、そのときにも実行するための組織体制を整える必要があります。案・プランと組織体制は常にワンセットです。

 これが大きな方針・ビジョンを実行するプロセスであり、僕の大阪都構想は、ここに選挙・法律制定・住民投票というものがさらに入ってきました。

 僕はこの実行プロセスを頭に描いて、8年間の政治活動をやってきたつもりです。政治家や実務家は、学者やインテリたちのように、アイデアを口にするだけではダメなのです。実行しなければなりません。そのためには実行プロセスをたどることが必要なのです。

 組織も何もないところから、一から政党を作り、議会で議席を獲っていくのは、本当に大変なことです。普通は1議席でも獲れれば万歳ものです。さらに既存の政党の力を借りずに自分たちの力だけで、しかも既存の政党相手に知事、市長のポジションを選挙で獲ることも普通ではあり得ないことです。

 僕ら大阪維新の会は、僕が関与したものだけでも2000回を優に超える街頭演説やタウンミーティングを繰り返し、各メンバーもそれぞれ地元で地道に政治活動、選挙運動を進めてきました。

 そして府議会・市議会で多数の議席を獲り、知事・市長のポジションを獲り、国会で議席を獲りということを積み重ねて、大阪都構想の実行プロセスを進めてきたのです。

「住民運動」と「権力の獲得」

 2019年4月7日に投開票が行なわれた、松井一郎さん、吉村洋文さんの大阪知事・市長ダブル選挙も、もちろんそうした流れの中にあります。

 僕にとっては、一弁護士だった僕が大阪についての自分の思いを実現するための、いわば住民運動の感覚です。すなわち住民の力で大阪を変えようという住民運動です。

 しかしメディアやインテリたちは、選挙を通じて議員議席や知事・市長権力を獲得していく住民運動に対しては、物凄く毛嫌いをしますね。

 政党を作って、知事、市長のポジションにあるだけで、一般の住民とは異なる悪魔のような権力者だという扱いをしてきます。

 その一方で、彼ら彼女らは、「住民の力で政治を動かそう」とよく主張していますが、彼ら彼女らが応援する住民運動は、多くの場合「デモ」ですね。

手段にすぎない「デモ」が

 原発の問題でも沖縄の問題でも、とにかくデモをしている人たちのことを盛んに報道して、「こんなにデモをやっているのに、政策を見直さないのはおかしい!」「若者がデモを起こして素晴らしい!」「数人の住民が立ち上がって素晴らしい!」と拍手喝采を送ります。

 僕もデモは否定しません。しかし民主主義の本流は選挙を通じて多数の議席を獲ったり、権力を獲ったりして、世の中を変えていくことだと思います。

 たとえ数万人のデモでも、それで国の方針が決定されるとすれば、そのほうが非民主主義ではないでしょうか。1億2000万人という日本の人口のうちのわずか1万分の1くらいの人数のデモで、日本の方針が決まったら、民主主義とは言えなくなります。

 デモは、あくまでも選挙を通じた民主主義を補完するものであり、デモをそれだけ大事にするのであれば、それと同じくらい、選挙を通じて世の中を変えようとする運動も大事にしなければならないと思います。

 メディアやインテリたちは、僕のことを「選挙至上主義」などと批判をしてきましたが、自分の理想に向かって世の中を変えるため、政治を動かすには選挙で議員議席や知事・市長を獲るしかありません。

 デモで政治を動かそうとするより、選挙や投票で政治を動かそうとするほうが、はるかに民主的だというのが僕の持論です。

 大阪都構想は最終的に住民投票で否決されました。そこに至る過程において、「橋下は独裁だ! 強権だ! 横暴だ!」と散々批判を受けてきましたが、僕は民主主義の正道の実行プロセスを踏んできたと自負しています。

 口で政治行政に文句を言ったり、理想の世の中を語ったりするのは誰でもできる。しかし、本当に大阪の変革を実行するには、自分が政治家としてやってきた方法以外にはない、と今でも確信しています。デモでは決して実行できなかった。僕は大阪都構想の中身にもこだわりましたが、実行プロセスにもこだわってきたのです。

府庁と市役所、どちらがリーダー?

 東京府東京市が一つにまとまった東京都の成立は、1895年の帝国議会で案が出てから、1943年に実施されるまで、実に約48年かかりました。それを僕らは大阪において数年という短期間でやろうとしたので確かに少々無理があったのかもしれません。

 大阪府庁と大阪市役所を解体して1つの組織にまとめる仕事は、普通に考えれば、10年仕事、いや下手をすれば50年仕事です。

 大阪都構想の最終ゴールは、大阪都になって大阪都知事が大阪全体についてリーダーシップを発揮し、大阪都庁がその実行部隊になることですが、それまでの間、大阪全体のことをリードする人がいないというのは困ります。

 そこで、暫定的に大阪全体のリーダーシップをとる「仕組み」として作ったのが、「大阪維新の会」です。「大阪維新の会」は大阪都構想を実現するための政治勢力であると同時に、大阪都になるまでの間、暫定的に大阪全体のリーダーシップを発揮するための仕組みでもありました。

 というのも、府庁と市役所が喧嘩ばかりしていて、府知事と市長のどちらがリーダーかもはっきりしない状態を乗り越えるには、知事・市長、府庁・市役所を超えたもう1つ上のところに、さらなる意思決定機関を置く必要があったからです。

 その仕組みが大阪維新の会です。

 府民から選ばれた知事・市長を含む大阪維新の会という政治グループを大阪全体の政治行政の最高意思決定機関にできれば、府庁と市役所が揉めたときでも、大阪全体の統一的な決定を下すことができます。

 課長どうしが揉めたときも、部局長どうしが揉めたときも、副知事と副市長が揉めたときも、最後はすべて大阪維新の会に持ってきてもらいました。

 大阪維新の会のメンバーとしての僕と松井さんの会談は、まずは電話で折衝・調整。ほぼ毎日、松井さんと話していました。いつも焼き鳥屋かおでん屋がトップ会談の場所です。

 松井さんは、肉は鳥しか食べません(笑)。生ものの魚もダメなんです。あの時期は、自分の妻と話すよりも松井さんと話している時間のほうが長かったように思います。

重要なのは「仕組み」づくり

 この大阪維新の会の仕組みをフル活用して、これまで府庁と市役所の間で長年揉めていた鉄道計画も高速道路計画も、すべてまとめあげることができました。

 これからは、府全体の鉄道ネットワークが広がり、高速道路のミッシング・リンク(不結合部分)もようやくつながります。

 止まっていた「うめきた」再開発というビッグプロジェクトも動き出し、放置されていた大阪湾ベイエリア部の活性化も、大阪万博開催やIR誘致を軸に動き始めました。大阪の経済戦略、観光戦略も府市で一本化され、確実に実行されるようになりました。

 大阪が府・市で1つにまとまると、やはり大きな力を生み出し、今、大阪の様々な指標は軒並み上向き始めています。

 僕が大阪でリーダーシップを発揮できたのは、僕のリーダーとしての個人的資質ではなく、大阪維新の会が、知事・市長のポジションを獲り、府議会・市議会でも多数議席を獲って、さらに市長と知事を上司部下の関係にし、大阪維新の会の代表が大阪全体についてリーダーシップを発揮できる「仕組み」を作ったからです。

 仕組みをきちんと作れば、リーダーシップは発揮できますし、逆に仕組みをきちんと作らなければ、どれだけ資質のある人間でもリーダーシップは発揮できないでしょう。なお、この「仕組み」の作り方については、新著で詳述していますのでここでは詳しくは触れません。

大阪維新の会は、暫定的な「仕組み」

 とはいえ、大阪維新の会は、大阪全体の意思決定を行なう「暫定的な」仕組みです。選挙の結果次第では崩壊してしまう仕組みです。この脆弱な仕組みを未来永劫、恒久的な法制度という仕組みに強化するのが大阪都構想です。

 政治というものはインテリたちがよく好む単なるアイデア・知識の披歴や議論、おしゃべりではありません。組織を動かし、地域や世の中を実際に動かしていくものです。

 そのためには知識だけではなく、エネルギーが必要であり、それは政治運動によって生まれてきます。大阪においてその主たるエンジンになっていたものが大阪都構想運動だと自負しています。

 大阪都構想は2015年の住民投票でいったん否決されましたが、この大阪都構想運動があり、今も継続しているからこそ、これまで対立していた府・市が一体とならざるを得なくなり、そのことによって大阪が本来の力を発揮し始めたのだと思います。

 2019年4月のダブル選で再び民意が得られたことにより、松井さん、吉村さんは再度の大阪都構想住民投票実現に向けて、リーダーシップを発揮していくでしょう。

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