5月15日、韓国の渋谷とも言われる「若者たちの街」、弘大前(ホンデアップ=弘益大学の前のショッピングタウン)は、朝早くから午後遅くまで前代未聞の長い行列が作られた。幅2~3メートルほどの狭い歩道に2列に並んだ行列は、周辺の地下鉄駅まで約900メートルも続き、一帯は大混雑となった。たまに、周辺の商人たちと通行人が不便を訴える場面も目に付いたほどだった。

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韓国のファッションタウンを熱狂させた日本人デザイナー

 この前代未聞の長い行列を作った主人公は、日本の有名デザイナー阿部千登勢だ。阿部千登勢のファッションブランド「sacai」と、グローバルスポーツブランドのナイキとのコラボ商品「ナイキsacai」の発売イベントが、この日、弘大前のナイキストアで行われたのだ。世界中の若者が熱狂する「itアイテム」で、韓国のファッションピープルの間でも名声高い「ナイキsacai」は、16日、計7000足のスニーカーを販売する予定だった。しかし、あまりの人気ぶりを前に、前日に先着順に応募券を配布して、応募券を持っている人の中から抽選で当選した人のみに販売する、という方式を取らざるを得なかった。

 韓国メディアによると、結局ナイキはこの販売イベントで、4時間で11億8300万ウォン(約1億1000万円)を売り上げた。さらに、SNSなどのインターネット上で「ナイキsacai」が一日中人気検索語となったので、大々的な広告効果も得られたに違いない。

 韓国人に愛される日本ファッションブランドは、阿部千登勢の「sacai」だけではない。パリを拠点とする世界的なデザイナー「イッセイミヤケ」は、韓国女性が最も愛するデザイナーであり、ファッションブランドである。 

「イッセイミヤケ」は、韓国ではサムスン電子の系列会社のサムスン物産が独占輸入、販売している。サムスン物産の関係者によると、2002年のローンチ以降、毎年100%近くの売上増加を記録している。また、イッセイミヤケは、サムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン)副会長の母親である洪羅喜(ホン・ラヒ)夫人と李副会長の2人の妹が恋するブランドとして知られている。特に洪夫人はいろんな行事でイッセイミヤケの「プリーツプリーズ」を着て登場するため、プリーツプリーズは韓国では別名「ギャラリー館長ファッション」と呼ばれている。韓国の多くの財閥の奥様たちがギャラリーを運営しているために生まれた言葉で、要するに「財閥奥様の御用達ファッション」という意味だ。

「3秒に一度」見かける人気アイテム

 さらにイッセイミヤケが作った「BAO BAO(バオバオ)」のバッグは、「江南3秒バッグ」と呼ばれている。江南(カンナム)の街を歩いてみると、3秒に一度はバオバオバッグを手にした女性とすれ違うほど、富裕層が密集された江南で愛されているバッグという意味だ。

 韓国で人気を呼んでいる日本ブランドはハイファッションの分野だけではない。日本のファーストファッションブランドの「ユニクロ」は、韓国人の「国民服」というニックネームを持っている。2005年に韓国に進出したユニクロは、2018年には前年比で10.9%も成長し、1兆3732億ウォンという史上最高の売り上げを記録した。ユニクロは2015年以降、韓国のファッション市場において単一ブランドで史上初の4年連続1兆ウォン以上売上を記録している。「戦犯企業」「旭日旗を広告に使った」などの非難を浴び、不買運動の標的とされながらも、コスパの優れた高品質と低価格で韓国の消費者を満足させているのだ。

 他にも、日本料理日本酒、日本食品、日本生活用品など、生活に密接した製品を中心に多くの日本文化や日本製品が韓国の消費者を魅了している。最近では、韓国の富裕層の間で日本の不動産投資がブームだというニュースも聞こえてくる。

 その一方で、韓国社会では日本製品が人気を呼んでいる現象を批判する声も少なくない。

 インターネット新聞「I」紙は、「日本なのか、韓国なのか? 日本産食品に占領された新世界百貨店食品館」というタイトルで、江南の人気百貨店のテパ地下を訪れた記者のルポを掲載した。新聞は江南新世界百貨店の食品館には日本産食品やデザートが25%以上を占めて、出入口のすぐ前の最も目につく場所に配置されるなど、大人気を得ていると報じている。記事の締めでは、「日本産食品の場合、放射能問題が心配だ」と指摘し、「これからは、韓国産食品が日本産食品の売り場を占める日が来ることを望む」と付け加えている。

 また日刊紙「M」紙のインターネット版は、「日本よりイルパ(日本文化愛好家)がもっと嫌いです」というタイトルで、日本製品と日本文化に陥った韓国人を非難した。記事は「日本文化が韓国人の日常に入り込んでいる」としながら、このような現象について「20代と30代の消費者の間で歴史的な痛みがあるだけに、日本製品の消費を排除すべきだという自省の声が高まっている」と報道した。

 具体的には、「先祖とわれわれが受けた傷が分かっていながら、どうして日本を好きになれるのか」「もともと文化が日常に浸透することが一番恐ろしい。日本が韓国を植民地にした時も『文化統治』をしたではないか」 「売国奴、土着倭寇(親日韓国人という意味の新しい流行語)という言葉はあまりにも弱い。(彼らを批判する)もっと強力な単語が必要だ」「日本の芸能人を消費するのも植民地残滓の清算を防ぐ潜在的な共犯だ。イスラエルで人気のあるドイツの芸能人がどれほどいるか考えてみろ」などといったインターネット上の批判的意見を多数紹介した。

「日常生活における日本残滓の清算を急ぐべき」

 インターネット新聞「F」紙は韓国で人気を得ている日本酒について批判した。

 記事は、「日本の植民地統治時代、韓国の民族文化抹殺政策で韓国の伝統酒を抹殺し、その結果、韓国の伝統酒の代わりに、日本酒が韓国の伝統のお膳立てに愛用されるようになった」と説明し、「日常生活における日本残滓の清算を急ぐべき」と主張した。

 最近、世界的に流行っている韓流ブームは、韓国人と韓国メディアを大きく盛り上げている。特に、多くの韓国メディアが、日本の若者の間で韓流が大きな人気を博している現状を大々的に報じ、「悪化した韓日関係修復の糸口になるもの」と期待を寄せている。

 しかし一方で、韓国社会に浸透する日本文化に対しては、清算すべき対象とみなし、これを享受する人々を「売国奴」「親日派」と非難しているメディアや韓国人が存在する。韓国のインターネットコミュニティーには、「日本旅行に行くと言ったら周りから非難された」という悩みがたびたび上っている。日本製品だけでなく、「日本に旅行ボイコットも必要だ」との主張も急激に増えている。

 こんなこともあった。ソウル付近の京畿道(キョンギド)にあるニュータウンに日本のレストランを集中的に誘致して「ジャパンタウン」を造成しようという動きがあるのだが、これが韓国メディアと国民の猛烈な反対で漂流しているのだ。「朝鮮日報」によると、ジャパンタウン建設を反対する国民請願は10万人を超えたが、肝心な地域住民や商人たちの間ではおおむねこの計画に賛成していたという。ジャパンタウンが作られれば流入人口が増え、商売にもプラスになるという意見が多数だったそうだ。だが、メディアがこの問題を集中的に報道したことで、「3・1運動100周年にジャパンタウンとはなにごとか!」と、世論から袋叩きにされ、いまだ計画が保留されている状態なのだ。

 一部の韓国社会に見れれる、このような「내로남불(ネロナンブル=ダブルスタンダード)」こそが、日韓関係修復への大きな障害要因になっていることを、韓国人は早く気づいてほしい。

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