Jホラーの旗手・中田秀夫監督が、『リング』(98)から21年、ハリウッド版『ザ・リング2』(05)から14年ぶりに再び「リングシリーズメガホンをとった『貞子』(5月24日公開)。いまやホラー映画のアイコンとなった貞子は、ハリウッドでも人気を博し、この春「ニューウィーク日本版」の“世界が尊敬する日本人100”にも名を連ねた。その「リング」ムーブメントの立役者である中田監督に、『貞子』の撮影秘話と「リングシリーズの足跡を振り返ってもらった。

【写真を見る】恐怖に怯える池田エライザの大きな瞳に注目!

『貞子』でヒロインを務めたのは、ホラー映画初挑戦の池田エライザ。彼女が演じる心理カウンセラーの秋川茉優が、入院してきた記憶障害の少女(姫嶋ひめか)のただならぬ特殊能力を目の当たりにする。また、SNS時代にふさわしく、呪われ方もアップグレードされ、茉優の弟、和真(清水尋也)は、放火の遭った団地の動画を撮ったことでその後消息を絶つ。

恐怖におののき、大きく目を見開く池田は、新絶叫クイーンとして面目躍如のインパクトを放つ。「彼女は表現力の強い目を持っているので、そこをさらに『もっと大きく!』とリクエストしたら、ああなりました。ホラー映画は、怖がらせる幽霊だけではなく、怖がるヒロインも大事です。なぜなら、彼女に同調して観客が恐怖を感じるわけだから」。

■ 「おぞましい表情は、レントゲン技師のように演出しました」

リングシリーズで、毎回ゾッとさせられるのが、呪いで死ぬ直前に見せる断末魔のおぞましい表情だ。中田監督に言わせると「あれは伝統芸能みたいなもの」だそう。「『リング』では竹内結子さん、『リング2』(99)では、深田恭子さんにもやっていただきました。あの演出は、レントゲン技師のように『目を上に上げ、それから斜めにして。はい、息を止めて』と、僕が細かく指示します」。

思い起こせば、当時はまだ売り出し中だった深田たちも、女優魂を試されるといっても過言ではない、変顔に限りなく近いすさまじい表情を見せてきた。中田監督も「『監督にすべてを委ねます」と言ってくれるキャストじゃないと、成立しなかった』と言う。

真田広之さんを含め、貞子の犠牲者を演じてくれた歴代の役者さんは皆さん快くやってくれました。もちろん事務所も承知の上ですが、特に深田さんの時は広角レンズで撮ったので、アゴが外れるんじゃないかというくらい口がデカく映ったんです。ちょうど、深田さんがアイドルとしてぐいぐい来ている時だったので『深田恭子にここまでの顔をさせるとは!』と、一部で褒めてもらいました(笑)」。

■ 「貞子がテレビから出てくる姿は、表現としてギャグすれすれ」

これまで、本作を含めて国内で8作品が制作され、アメリカや韓国でもリメイクされてきた「リングシリーズ。近年は、『貞子3D』(12)などのように、アトラクションムービー的な作風の映画も作られ、さらに間口を広げてきた。また、50人の貞子が渋谷のスクランブル交差点をジャックしたり、貞子が始球式成人式に登場したりと、趣向を凝らしたユニークイベントでも映画ファンを沸かせてきた。『リング』と『リング2』、ハリウッド版『ザ・リング2』(05)を手掛けてきた中田監督は、このムーブメントをどう見て来たのか?

「僕も『貞子3D』は映画館で楽しく観ましたが、コミカルな要素が多く、すごくエンタメ性が強いなと思いました。アメリカ人は、もともとホラーも含めたすべての映画を娯楽映画として捉えていますが、お客さんを楽しませてくれるという意味で、『貞子3D』はその感覚に近い感じがしました」。

中田監督が手掛けた第1作目の『リング』と『貞子3D』では、かなり作風が違う気がするが、中田監督の口から出たのは「貞子は、元々そっち系のキャラクターだったと改めて思ったんです」という意外な見解だった。

「『リング』の公開当時、貞子がすごく怖いと言われたけど、当時はテレビから出てくる幽霊なんていなかったし、そこだけの絵面を見ると、すごくポップだったと思います。もちろん、僕たちは大真面目に撮っていたけど、よく考えてみたら、表現としてはギャグすれすれだったのではないかと。それは、『呪怨』シリーズにおける伽椰子や白塗りの少年もそうですが、すごくパロディにしやすいでしょ。ホラー表現を突き詰めると、一発ギャグにものすごく近いんです」。

それは、中田監督ならではの斬新な解釈に思えるが、実に興味深い。「テレビから出てくる瞬間の貞子のパロディを、ナインティナインの岡村(隆史)さんも、当時わりと早いタイミングでやってくれました。彼も、真面目にやればやるほどおもしろいとわかっているから、けっこう一生懸命やっていたんです。でも、もともと貞子というキャラクターは、そういう宿命を背負っていた気がします。悪く言えば、色物扱いされてきましたが、きっと貞子自身もテレビから出てきた時点で『私は色物になるから』と思っていたんじゃないかと」。

とはいえ「真打登場!」とばかりに、中田監督が久しぶりに撮った最新作『貞子』は、原点回帰したような作風の映画となり、ホラー表現をとことん掘り下げた1作に仕上がった。今回はビデオではなく、パソコンアップするための動画を撮って呪われる。

中田監督が「貞子が現れる媒体が、時代と共に変化してきたので、そういう時代と呼応した映画にしたかったです」と語ったように、描かれているのは現代ならでは恐怖だ。おそらく「リングシリーズは、今後もずっと続いていきそうなので、まずは記念すべき令和元年に公開される『貞子』の呪いを映画館で体感して。(Movie Walker・取材・文/山崎 伸子)

『貞子』の中田秀夫監督