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Point
ウィルスの中には遺伝情報を分割してバラバラに運ぶタイプが存在している

ウィルスにとって体内は宇宙のように広大なため、遺伝情報をバラして運ぶ事は不利であり、これは生物学上の謎とされている

■今回、そんなウィルスが断片を全て揃えていないのに、細胞内で増殖していることが確認された、彼らは細胞をグループ単位で支配している可能性があるのだ

これはコンピュータウィルスではなく生物ウィルスの話だが、ウィルスの中には遺伝情報を分割ファイルにして運ぶタイプがいる。

インターネットなら回線速度の問題があるのでわからないでもないが、しかし、生物ウィルスは低速回線を使っているわけではない。わざわざ情報を分割することは彼らにとって不利にしかなりそうにない。

分割ファイルがすべて揃わなければ開けないように、分割した遺伝情報も揃わなければ機能しないと考えられるからだ。

ウィルスにとって体内は宇宙のように広い。シミュレーションによると3つ以上に断片化した遺伝情報が1つの細胞に偶然揃う可能性はほぼ無いと言う。

理論上では、4つ以上に遺伝情報を分割されたウィルスは存在できない

ところが世の中には、遺伝情報を複数に分割したタイプウィルスが全体の40%近く存在している。中には8つ以上に遺伝情報を分割したタイプもいる。一体なぜこんなウィルスが存在できるのだろうか?

今回、そうした謎について、なんと断片化された遺伝情報が全て揃っていなくても、ウィルスが細胞内で正常に増殖しているという研究が発表された。

この研究報告は、フランスの研究者たちにより発表され、学術誌eLifeに掲載されている。

なぜウィルスはDNAを分割するのか

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私たちのよく知る、というよりよく苦しめられるインフルエンザウィルスは遺伝情報を8つの断片に分けて保有している。

彼らは非常に変異の速度が早いことで知られているが、それはこの8つに別れた遺伝情報を、細胞内でミキシングして新しい変異体を生み出しているためだ。

遺伝情報は、時間が経つごとに一部が微妙に変異する、その程度ならば通常大した影響はない。しかし、互いに異なる形で微妙に変異した遺伝情報を複数のウィルスが持ち寄って、それをシャッフルされてしまうと、抗体はたちまち対応できなくなってしまう。

これが定期的に発生するインフルエンザ大流行の原因だ。

つまり、遺伝情報を分割することにはウィルスには利益のある事なのだ。

ただ、インフルエンザウィルスはこの8つの断片を大抵一部しか持っていない。8つ全てを保有しているインフルエンザウィルスは全体の約10%程度だ。

これは非常に奇妙なことだ。彼らはこのままだと大増殖することが難しいからだ。しかし、インフルエンザウィルスは非常に猛威を奮っている成功者の一人だ。

今回研究の対象にされているのは、そら豆などに寄生するFBNSVというウィルスだ。彼らもまた、インフルエンザウィルス同様、遺伝情報を8つに断片化し、個別にパッケージして8種のウィルス粒子となって植物に寄生する

1つの細胞に取り付いて増殖するというのは、ウィルスにとっては惑星移民に匹敵する大移動だ。

建築技術や医療技術、はたまた男と女などが全部バラバラの移民船に乗って宇宙へ旅立つとしたらどうだろう? どう考えても、偶然全ての船が1つの惑星へたどり着くとは考えにくい。

こうした遺伝情報の断片を個別にパッケージすることは、遺伝情報の欠損というリスクしかないように思われる。

ではなぜこのようなウィルスが繁殖できるのか? この問題は、生物学者の間でもずっと謎とされていた。

ウィルスたちのスタンド・アローン・コンプレックス

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どう考えても、分割タイプウィルスは正常に遺伝情報を揃えて大増殖できそうにない。不思議な問題の多くは前提条件がどこか間違っている可能性がある。

この場合、問題を不可思議にしているのは「3つ以上に分割された断片は1つの細胞に揃わない」と、「分割された遺伝情報が全て揃わなければウィルスは増殖できない」という2つの前提が矛盾しているからだ。

これはどちらかの前提に誤りがある可能性が高い。

そこで、今回の研究者たちは、FBNSVが細胞内に本当に必要な遺伝情報の断片を揃えているかどうかを調べたのだ。

するとどうだろう。なんとFBNSVは遺伝情報がすべて揃っていないにもかかわらず、細胞内で自らの複製を生産していたのだ。それは複製を作るという遺伝情報自体が欠損しているにもかかわらずだ。

これまでウィルスは1つの細胞内で独立して、自らの複製生産をせこせこ行っていると考えられていた。

しかし、どうやらこの考え方は間違っていたらしい。

ウィルスは何らかの方法で、隣接した感染細胞と情報のやり取りを行っており、欠損した遺伝情報を補い合いながら、宿主の細胞をグループ単位で支配して、自らの生産工場を形成していたのだ。

ウィルスは孤立した個別の粒子の集合でしか無いように思われた。しかし、どうやらその孤立した粒子の集団全体で1つの遺伝子群を形成しているようなのだ。まさにスタンドアローン・コンプレックスだ。

すべての断片を揃えずにウィルスが機能できるとなると、遺伝情報を断片化してパッケージすることにも納得がいく。

しかし、では彼らは一体どういう方法で、欠損した遺伝情報を異なる細胞間でやりとりしているだろうか?

細胞内ならば、遺伝情報を運ぶメッセンジャーRNAも存在するが、彼らが細胞膜を突き破って別の細胞へ遺伝情報を伝えるという話しは聞いたことがない。ウィルスたちにはバラバラの遺伝子として行動しながら、群体で1つの遺伝子として振る舞うような、なんらかの謎のネットワークが存在するのだろうか?

それについては今回の論文の範囲を超えるものとして残念ながら言及されてはいない。

まだまだ、不思議な謎がこの世には残されている。それはそれで、悪いことではないかもしれない。

それにしてもウィルス怖い。なんなのこいつら…

reference:quantamagazine,bdj/written by KAIN
ウィルスの新たな恐怖! 細胞間で謎のテレパシー?