(舛添 要一:国際政治学者)

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 米中貿易摩擦が激化している。13日、アメリカは、予定通り中国からの輸入品3000億ドル(約33兆円)ドル分、3805品目に、最大で25%の関税を上乗せする手続きに入った。この対象品目の4割が消費者向けであり、アメリカの消費も確実に減退する。しかし、このところアメリカ経済は好調であり、それがトランプ大統領の強硬姿勢の背景にある。

「ファーウェイ潰し」

 しかし、世界経済には大きなマイナスで、日本経済にも深刻な打撃を与えている。22日に財務省が発表した4月の貿易統計によると、貿易収支は604億円の黒字で、前年同月比で90.3%の減少であった。全体の2割を占める中国向け輸出が大幅に減ったことが影響している。とくに半導体製造装置や部品の落ち込みが大きい。

 2019年1~3月期の国内総生産速報値は、実質で前期比0.5%増、年率換算で2.1%増と内閣府が発表したが、これは事前の大方の予測とは逆の結果であった。2四半期連続のプラス成長ということであるが、中身をよく見ると、輸出の減少よりも原油などの輸入の減少が大きかったことが理由であることが分かる。GDPの6割を占める個人消費は0.1%減だし、中国経済減速の影響で設備投資も0.3%減だ。

 米中貿易戦争の影響が、10月に予定されている消費税増税の延期を巡る議論にも影響を与えているわけだが、さらにトランプ政権は、15日にアメリカ政府の許可なくファーウェイ(華為)に電子部品などを販売することを禁止する措置をとった。ファーウェイ本社のみならず、日本法人を含む68の関連会社が対象である。すぐさま各方面に影響が広がった。

 このアメリカ政府の指示に従い、19日、グーグルアンドロイド最新版のファーウェイへの供給を停止。ファーウェイは、スマホのOSにグーグルアンドロイドを使用しているため、GメールYouTubeなどへのアクセスができなくなる。これは世界中のファーウェイスマホユーザーにとっては大きな衝撃となる。日本では22日、KDDI(au)とソフトバンクが、5月下旬に販売を予定していたファーウェイスマホの新機種(P30ライト)の販売を延期する措置をとった。また、NTTドコモは、予約受付を停止した。

 今では、スマホは多くの人にとって日常生活の必需品であり、今後キャッシュレス化が進むと、決済にも重要な役割を果たすだけに、米中摩擦の事態の深刻さを国民に印象づけたと言えよう。イギリスや韓国でも同様な動きが広まっている。

 ファーウェイの日本法人は、「販売済み、販売中のスマホタブレット端末は今後もセキュリティの更新やアフターサービスを継続して提供する」と言っているし、また、将来的にはアンドロイドに代わる独自のOSを開発するという。しかし、日本の携帯電話会社は影響を見極めたいとして、販売延期や予約停止の決定を行ったのである。

 また、ファーウェイに部品を供給している側のパナソニックイギリスのアームも、アメリカ政府の指示に従うと発表した。こうなると、ファーウェイスマホの生産ができなくなる。

ファーウェイ潰し」とも言えるこの事態は、単なる貿易不均衡の問題にとどまらず、次世代通信規格5Gの開発競争の様相を呈してきている。5G技術は、軍事技術にも使われるため、安全保障の観点からも重要だ。アメリカ通商拡大法232条は、ある産品の輸入がアメリカの国家安全保障を損なう恐れがある場合、関税引き上げなどの措置を発動する権限を大統領に与えている。トランプは情報通信機器のみならず、自動車さえこの対象にしようとしているのである。

「5Gを制する者は世界を制する」と言っても過言ではない。つまり、世界の覇権を巡る熾烈な争いが始まったのである。

「独裁国家でIT産業は栄えられない」の常識を覆した中国

 歴史を振り返ると、鉄と石炭が産業革命を担い、鉄鋼業を基礎にした工業生産でイギリスドイツが鎬を削った。その帰結が、20世紀の二次にわたる世界戦争であった。第二次大戦後は、イデオロギーの対立が米ソ冷戦を生んだ。1989年ベルリンの壁が崩壊し、西側は、資本主義市場経済が社会主義計画経済よりも優れていることを喧伝した。そして、自由な民主主義政治システムのない所には経済的繁栄はないという認識が定着した。

 ところが、中国が鄧小平の指導の下、改革開放政策を展開し、めざましい経済発展を遂げるに至ったのである。社会主義市場経済という言語矛盾のシステムが、予想以上のパフォーマンスを示し、今や日本を抜いて、アメリカに次ぐ世界第二の経済大国になっている。

言論の自由のない独裁国家では、IT産業は栄えるはずがない」というのが常識であったが、中国はその常識を破ったわけである。しかし、アメリカに言わせれば、「それが可能になったのは、他国の先端技術を盗み、国際社会のルールを守らなかったから」である。

 知的財産権の侵害や外国企業に対する技術移転の強要がなければ、今の中国の発展はないはずだという認識を基にして、トランプ政権は中国に対する厳しい措置に出ている。

 さらには、ハイテク産業への政府補助金を供与するなど、国家の介入は公正な貿易慣行に反するとして、中国の産業政策を槍玉にあげている。

 言論や通信の自由の無いところに、最先端通信技術が開花するのであろうか、これが私の最大の関心事である。つまり、もし今の中国が、先端技術を他国から盗み取ることをしなかったら、5Gなどの技術開発が可能なのかどうなのかということである。

 1976年9月6日ソビエト空軍のミグ25戦闘機函館空港に着陸し、ベレンコ中尉が亡命する事件があったが、戦闘機の電子機器には半導体ではなく真空管が使用されていた。その真空管は最高水準のものであったが、半導体ブレークスルーできていなかったのである。これが、共産党体制の問題点だと指摘されたものである。

 日本の「ガラケー」は、その機能には優れたものがあったために固執し過ぎて、スマホなどの次世代機器への乗り換えに遅れ、この分野の日本の技術は他国に比べて大きく遅れをとってしまった。

米国内にも犠牲を強いる米中貿易摩擦

 以上のような例を参考に考えると、技術のブレークスルーを妨げる社会的要因に辿り着く。言論の自由のない共産党一党独裁体制の下で、海外の技術開発の上にタダ乗りする仕組みが壊されたときに、中国がこれまでのような先端技術開発競争に生き残れるのかどうか。たとえば、アンドロイドに代替できるOSの開発が可能なのか。

 問題は、トランプの意のままに中国を屈服させることが可能かどうかということである。北朝鮮イランも同様な圧力を受けているが、まだ全面降伏はしていない。また、反米的な国々からの支援もある。中国、北朝鮮イランは、アメリカのように4年ごとに自由で民主的な選挙によって指導者を選ぶわけではない。もう少し辛抱すればトランプ政権が交代する可能性もあるのであり、習近平金正恩、ロウハニはアメリカの次期大統領選挙に期待をしているであろう。

 米中貿易摩擦は、アメリカの企業や消費者にも大きな犠牲を強いている。覇権競争に勝ち抜くためとはいえ、民主主義国家で国民はそのような犠牲にどこまで耐えられるのであろうか。トランプを支持する有権者は依然として多いが、同時に大豆農家のように支持を撤回する人々も増えている。下院は民主党が多数派である。

 アメリカ第一主義がもたらす他国との軋轢が、アメリカの国益を害し、軍事費の増加など、結局は納税者にとって好ましくない事態となることにも留意しなければならない。国際協調主義が自国第一主義に道を譲るとき、人類は戦争への扉に近づいていく。欧州議会選挙が行われているが、戦争をなくすためにドイツフランスが和解して築き上げてきたEUが、自国第一主義を掲げるポピュリストによって崩壊の危機に立たされている。1930年代の悪夢が脳裏をよぎる。

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