ここ数年、寺社の「御朱印」集めがブームになっています。最近では、改元でさらにブームが過熱し、多くの人が御朱印を求めて寺社を訪れています。一方で、著名な寺社では、一部の人によるマナーの悪さも問題になっています。問題を起こす人やブームに便乗しているだけの人は、本来の趣旨を知った上で集めているのでしょうか。スタンプラリーのように集めることだけが目的になっていないでしょうか。そもそも、御朱印とはどのようなものなのか、和文化研究家で日本礼法教授の齊木由香さんに聞きました。

「六十六部の納経帳」がきっかけとされる

Q.「御朱印」とは、そもそもどのようなものですか。

齊木さん「御朱印は本来、『納経印』とも呼ばれ、寺院への参拝者が写経を納めたときに信仰の証しとして頂くものでした。お寺とご本尊の名前をしたため、当日の日付を入れた半紙に朱で押印してもらうことから、『御朱印』と呼ばれるようになりました。現代では納経(写経を納めること)をしなくても、お参りした人と仏様・神様とのご縁の証しとして御朱印を頂くことができます」

Q.何をきっかけに生まれ、いつごろから授けるようになったのですか。

齊木さん「起源は諸説ありますが、『六十六部の納経帳』がきっかけと言われています。室町時代から、巡礼者は仏教の法華経を66部書き写し、1部ずつ66カ所の定められた霊場に納めて歩いていました。そのとき、各霊場からもらう納経した証明の印と、証明の印を書いてもらう納経帳が、それぞれ『御朱印』『御朱印帳』の始まりとされています。現在のように、神社仏閣を参拝した証しとして集印帳に御朱印を頂く形へ変化し、『御朱印』『御朱印帳』と呼ばれる形式が整ってきたのは、昭和初期の1935年ごろからとされています」

Q.御朱印をもらうまでの流れを教えてください。

齊木さん「まず重要なことは、『参拝をした証し』として御朱印を頂くことです。参拝せずに御朱印を頂くのは間違いです。御朱印は、基本的に寺社の社務所や授与所と呼ばれる場所でもらうことができます。僧侶や神職などに『御朱印をお願いします』と言って声をかけます。御朱印を頂いたら、神社では初穂料を、寺院ではお布施を納めます」

Q.御朱印帳がない場合、手持ちの手帳やノートに書いてもらうのはいけないのでしょうか。

齊木さん「御朱印は、神様・仏様の分身にあたる尊いものです。手持ちの手帳やノートで代用するのは避けましょう。御朱印軸や巡礼着に印を押す例もあります。このような昔からの慣例の場合はよいのですが、“尊い存在のご縁の証し”という認識を持ちましょう。

寺社によっては、半紙で御朱印を頂ける場合があります。頂いた半紙は大切に持ち帰り、御朱印帳にのり付けをしたり、ファイルに入れたりして大切に保管しましょう」

書き損じ、押し損じも「ご縁」

Q.手書きであるため、御朱印の字がきれいではなかったり、書き手が文字を書き損なったりすることもあると思います。その場合、改めて書き直してもらえるのですか。

齊木さん「書の書き損じ、印の押し損じなどは、人が行うことなのであり得ます。しかし、改めて書き直していただくことを、御朱印の受け手からお願いすることは避けましょう。これは、神様・仏様に代わって書いてくださる書き手へ敬意を示すためです。これもご縁だと思い、素直に受け入れるほどの心で対応することが大切です。ただし、書き手の側が間違えたことを認識し、書き直しを申し入れてきたら素直にお受けしましょう」

Q.御朱印帳が古くなってぼろぼろになったり、所有者が亡くなったりした場合、どうすればよいのでしょうか。

齊木さん「御朱印は信仰行為が育んで来たものであり、それぞれの考えに基づきますが、神様・仏様とのご縁の証しですので、粗末にしないよう大切に対処しましょう。神棚にあげて引き継ぐのもよいですし、どうしても必要がなくなれば、御朱印帳をお守りのように寺社でお焚(た)き上げをしていただくのも一つの手段です。

仏教では『功徳を積む』(善い行いをする)ことで極楽浄土に行けるとされており、自身が成仏するときは功徳の証しとして御朱印帳を見せて、極楽浄土に行けるよう仏様にお願いをするという考えが現在でもあります。所有者が亡くなった際に、ひつぎに御朱印帳や納経帳を入れるのはそのためです」

Q.御朱印ブームは何がきっかけで生まれたのでしょうか。

齊木さん「2013年、20年に1度の『伊勢神宮の式年遷宮』と60年に1度の『出雲大社の平成の大遷宮』が重なり、神社やパワースポットについての特集が多く放送されたことが、一つの大きなきっかけとなったと考えられます。御朱印を集めている芸能人の情報がネットで瞬く間に広がったことも影響しているのではないでしょうか」

Q.御朱印の何が人を引き付けると思われますか。

齊木さん「御朱印が人気になったのは、(1)参拝した時の記憶を思い出せること(2)神社仏閣により御朱印が違うこと(3)アートとして楽しめること(4)かわいい御朱印帳が販売されていること(5)安らぎを感じ“癒し”につながること――が関係していると思います」

Q.御朱印の本来の趣旨が理解されず、ブームだけが独り歩きする状況をどのように思われますか。

齊木さん「ブームだけが先行し、トラブルが続出しては本末転倒です。しかし、寺社離れが進んでいる昨今、寺社の側は、御朱印ブームをチャンスと捉えるべきだと考えます。興味を示す手がかりは正直、何でもよいと思うのです。寺社に足を運んだ人に、どのようにアピールできるかが問われるのではないでしょうか」

Q.どのようなアピールの方法がありますか。

齊木さん「例えば、御朱印を頂くために行列を作って並んでいる人に、それぞれの寺社の思いやしきたりについて、紙やホームページのURLを配布して読んでもらうこともできます。そこから、真のファンや寺社へ興味を持つ人が出てきたら、それは喜ばしいことだと思います。御朱印を集める人たちの側は、お参りした人と神様・仏様とのご縁の証しとして頂く御朱印ですから、各寺社のしきたりにのっとり、丁寧に参拝してみてはいかがでしょうか」

オトナンサー編集部

「御朱印」の本来の意味とは?