― 連載「ニュースディープスロート」<文/江崎道朗> ―



北方領土問題でロシア高笑いが聞こえてくる



 北方領土をめぐるドタバタと日本の弱腰外交を見ていると、思わずため息が出てくる。



 まず、日本維新の会丸山穂高衆院議員が、北方領土へのビザなし交流訪問団に同行していた5月11日夜、国後島の宿舎で元島民の団長に対して「戦争でこの島を取り返すことは賛成ですか、反対ですか」などと質問した件だ。



 あたかも「北方領土を戦争で取り返そう」と主張したかのように受け取られているが、「戦争すべきだ」と主張したわけではない。



 だからといって、問題がないわけではない。



 第一に、戦争という手段を使ってまで領土を取り返すことの是非を、元島民に、しかも酒の席で聞くというのは余りにも不謹慎だ。政治家の発言としては軽すぎる。



 第二に、北方領土を取り返すに際して軍事力の行使も選択肢に入れるべきだと考えているならば、丸山氏はそうした方策を党内でしっかりと議論し、党の方針として打ち出すよう努力すべきだった。



 アメリカイギリスドイツも、「力の信奉者」ロシアに対して軍拡で対抗し、ロシアから譲歩を勝ち取っている。こうした事例を踏まえるなら、ロシアに対して軍拡で対抗することは有効だ。だが維新の会から除名されたということは、丸山氏は党内でそうした議論をしてこなかったと思われる。



 第三に、沖縄を含む南西諸島防衛を重視する安倍政権は、北海道自衛隊を南西諸島に振り向けており、北海道の兵力は大幅に削減されている。今の日本に、軍事力で北方領土を取り返す態勢など存在しない。そもそも自衛隊にそんな力はない。よって丸山氏の発言を、ロシア側はせせら笑っているに違いない。



◆英米のようなしたたかな対ロ交渉がない日本



 ただし、政治家の誰かがこう言えば、少しは日ロ交渉の進展に繫がったかもしれない。



「返還交渉に対して不誠実な態度をとるロシアに対して、日本国内で不満が高まっている。それが今回の丸山氏の発言の背景だ。ロシアが誠実に交渉に応じないのなら、北方領土の軍事基地化に対して日本も軍拡で対応せざるを得ない」



 しかし、英米のようなしたたかな対ロ交渉など、今の日本に望むべくもない。



 何しろロシアに対して、まともな反論さえできないのだ。



 5月10日モスクワ河野太郎外相と会談したラブロフ露外相は共同記者発表で「第二次世界大戦の結果を全面的に認めるべきだ」と述べ、会談で北方領土ロシア領であることを認めるよう迫ったことを明らかにした。その際、河野外相は激しく反論すべきだったが、そうしなかったという。



 10日に開催された自民党外交部会・外交調査会の合同会議において、『2019年版外交青書』に、’18年版まであった「北方四島は日本に帰属する」との表現がなくなっていることも発覚した。



 まともに反論できない河野外相と、口先だけで強硬論を唱え自滅する丸山氏、そしてその丸山氏を袋叩きにするだけで「領土をいかに取り戻すのか」を真面目に議論しない政治家たち。ロシア高笑いが聞こえてくるようだ。

【江崎道朗】
’62年生まれ。九州大学文学部哲学科を卒業後、月刊誌編集長、団体職員、国会議員政策スタッフを務め、外交・安全保障の政策提案に取り組む。著書に『日本は誰と戦ったのか』(ベストセラーズ)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』(PHP新書)など





※丸山穂高公式ホームページより