(右田早希:ジャーナリスト

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マンセー!(万歳)、マンセー!(万歳)」

 まるで断崖絶壁を転がり落ちるようだった韓国経済が、今週、ようやく一息ついた。

 韓国総合株価指数は、5月20日月曜日朝9時半の初値は、2066ポイント。それが週の終わりの5月24日金曜日午後3時半の終値は、2045ポイントだったのだ。

「なんだ、1%下落しているではないか」と思うかもしれないが、例えば1カ月前の4月25日は、2190ポイント。1年前の昨年5月25日は、2460ポイントもあったのだ。「下り坂」は、明らかに緩やかになったのである。

ひとまず遠のいたサムスン電子「株価4万ウォン割れ」の懸念

 その理由は、1社で韓国経済の13・7%分も賄っている巨人、サムスン電子が「復調」したからに他ならない。

 サムスン電子株は、1年前の昨年5月25日は、5万2700ウォンをつけていた。それがこの1年で落ち続け、1カ月前の4月25日は4万4650ウォンまで下落。その後もさらに落ち続け、今週初めの5月20日の初値は、4万1650ウォンだった。

 昨年5月30日に、サムスンの株価が5万ウォンを割り込んだ時、「サムスンショック」と言われたものだ。それから1年経った今月には、今度は4万ウォンを割る「ウルトラサムスンショック」が市場を襲うのではと、警戒感が強まっていた。

 それが今週の終値は、4万2800ウォンと、見事に持ち直したのである。今週5日間での上昇率は、2・7%を超えており、ヨントン(水原市にあるサムスン電子本社)では久々に、「マンセー!」の声が飛び交っている。

 なぜサムスンは突然、復調したのか? 今週、何か目新しい新製品を発表したわけでもなければ、トップの李在鎔副会長が前向きの発言をしたわけでもない。あの文在寅政権の経済政策も変わっていない。

ファーウェイ排除の「恩恵」を最も受けている企業

 答えは、サムスン電子の最大のライバルである中国のファーウェイテクノロジーズ(華為電子)にあった。5月15日に米トランプ政権が、ファーウェイを「エンティティ・リスト」(取引制限リスト)に入れると発表し、実際に翌日から入れた。それによって今週、世界の主要企業に「ファーウェイ離れ」が広がったのは、周知の通りだ。

 その「恩恵」を世界で一番受けた企業が、サムスン電子だったというわけだ。つまり、完全な漁夫の利他力本願による復調である。それでも、サムスンとしては「マンセー!」なのだ。

 サムスンは昨年、世界のスマートフォン出荷台数で、世界一キープした。市場占有率は、1位サムスン20・8%、2位アップル14・9%、3位ファーウェイ14・7%である(米調査会社IDCの発表)。

 だが今年に入って、サムスン(及びアップル)の落ち込みは深刻で、逆にファーウェイの飛躍も目覚ましかった。それによって、今年第1四半期(1月~3月)のスマートフォン出荷台数は、1位サムスンが21・7%、2位ファーウェイ17・9%と、その差は3・8%まで縮まった。

 世界のスマホ業界関係者の間では、早ければいまの第2四半期にも「中韓逆転」が起こると予想されていたのだ。もし第2四半期に逆転しなくても、ファーウェイは、今年通年の出荷台数を2億6000万台と見込んでおり、今年通年の逆転は必至の状態というのが、業界関係者の共通認識になっていたのだ。

 さらに、今年は「5G元年」と言われるが、「5Gスマホ」に関しても、サムスンファーウェイに較べて、大いに見劣りしている。

 サムスンは今年2月21日サンフランシスコで「世界初の5Gスマホ」という触れ込みで、「Galaxy S10 5G」を発表した。ところがその後、不具合が発覚して発売を延期するなど、災厄続きだった。

 これに対してファーウェイは、サムスンに遅れること3日、同時期にバルセロナで開かれた世界最大のスマートフォンの祭典「MWC(モバイルワールド・コングレス)2019」に合わせて、5GスマホMate X」を発表した。

 プレゼンターを務めた余承東(リチャード・ユー)ファーウェイ消費者向け端末部門CEOは、3日前に発表されたサムスンの製品と比較し、カメラが高性能のトリプル機能であることや、サイズが6mm薄いことなど、ファーウェイの5Gスマホの方が優れていることを強調したのだった。価格はファーウェイ製品の方が3割ほど高かったが、「もう安かろう、悪かろうとはオサラバです」と、「サムスンを相手にせず」とも受け取れる余裕のプレゼンだった。

 こうしたことから、業界関係者の間では、「両社の5Gスマホは、ファーウェイサムスンの勢いの差を象徴しており、長かったサムスン時代も終わりを告げる」という見方が強かった。

 サムスンが最も得意とする端末分野でさえ、このありさまである。5Gシステムの帰趨を握ると言われる世界の通信基地局の2018年売り上げシェアに関しては、ファーウェイが26・0%、サムスンが11・7%と、まったく相手になっていない(英調査会社IHSの発表)。

 こんな状況下で、今週サムスンに、まさに「神風」が吹いたのである。

 もう一つのライバルである米アップルは、半導体の特許を持つクアルコムとの長きにわたった訴訟合戦が響いて(先月にようやく和解)、iPhoneの5Gスマホの発売が、来年にずれ込む見込みだ。というわけで、これから一年くらいは、5Gスマホに関して、事実上の「サムスン独走態勢」が続く可能性が出てきたのである。

「ファーウェイ排除」に踏み切れない文在寅大統領

 ただサムスンも、今回の降って沸いたような事態を、手放しで喜んでいるわけではない。それは文在寅政権が、いまだに「ファーウェイ排除」を決断できていないからだ。

 このところトランプ政権は、再三にわたって、「韓国も日本と同様に、『ファーウェイ排除』の明確なメッセージを出すべきだ」とプレッシャーをかけている。

 ところが韓国には、2016年2月に、中国の意に反してTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)の配備を開始し、翌年春に実際に配備し、中国から猛反発を受けた教訓がある。中国が韓国製品をボイコットしたり、中国人観光客の韓国旅行を半減させたりしたため、韓国経済が傾いてしまったのだ。

 その意味では、サムスン完全復活のカギは、何とも心もとない文在寅政権にあると言えるかもしれない。

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