フランス現地インタビュー】ロシアW杯以来の代表復帰 揺らがぬ日の丸への思い「自分の情熱は何も変わらない」

 フランス1部ストラスブールのGK川島永嗣は、6月のキリンチャレンジカップ2019とブラジルで開催されるコパ・アメリカの日本代表メンバーに選出された。昨年のロシアワールドカップ(W杯)以来の代表復帰となるが、森保一監督は欧州で戦い続ける守護神の経験値に期待を寄せる。では、DF長友佑都ガラタサライ)、MF長谷部誠フランクフルト)とともに日本人W杯最多出場記録(11試合)を持つ川島は、現日本代表のGK事情をどのように見ているのか。

 強豪ベルギーと死闘を繰り広げ、ベスト16の結果を残したロシアW杯から、約1年の月日を経て、川島は日本代表の舞台に再び戻ってきた。日の丸から遠ざかる日々の中でも、代表への思いは一切揺らがなかったという。

「今、この状況の中で挑戦していて、難しいのは自分でも十分に分かっています。でも、それで自分の情熱が変わったかと言ったら何も変わっていないし、必要とされるのなら、そのために全力でやりたい。常にそういう気持ちでいます」

 川島はロシアW杯で少なからず批判も浴びた。「(辛い思い出も)ありましたね」と振り返りつつ、「でも、過去のことですから」と語り、壁を乗り越えて前を向いている。

 GKはミスが失点に直結するポジションだ。現在、世界トップクラスと言われるマンチェスター・ユナイテッドスペイン代表GKダビド・デ・ヘアでさえも、わずかなミスで叩かれる。パリ・サンジェルマンUEFAチャンピオンズリーグ・ラウンド16でユナイテッドに敗れた第2戦では、イングランド代表FWマーカス・ラッシュフォードのシュートを弾き返し、ベルギー代表FWロメル・ルカクに“アシスト”してしまった元イタリア代表GKジャンルイジ・ブッフォンは戦犯扱いされた。

 なかには、フェアとは言えない批判も数多くある。逆に、「批判があったら日本でGKを志す人がいなくなる」と危惧する声も挙がった。しかし、川島は「そんなことを通り越して、ぶっ飛んだヤツが出てくるんじゃないかって僕は期待しているんです!」と、日本のGKの未来についてポジティブだ。

その背中を追い続けてきた川口と楢﨑の引退に涙 「どこを追いかけたらいいのか…」

 2018年、元日本代表GK川口能活が現役引退。そのライバルとしてしのぎを削ってきた元日本代表GK楢﨑正剛も今年1月に引退を発表と、長年日本のGK界を牽引してきた2人が相次いでグローブを置いた。川島は2人の引退の知らせに、「泣いた」と明かす。

「僕からしてみたら、背中を追いかけてきた人が2人やめたら、どこを追いかけたらいいのか……」

 川島は、川口と楢﨑という偉大な先輩への思いを熱く語る。

「お手本にしたり、参考にしていた人たちのプレーがこれ以上見られないと思ったら、寂しいです。そうやって長くやっている人たちのプレーは、本当にこだわりにこだわったうえの作品。だから長くできるわけだし、ここまで人を感動させられる。日々の生活の中で、本当に感動させられること、心の底から感動したり驚かされることは、実はそんなにないと思うんです。人の心をそれほど動かしてきたその人たちのプレーがもう見られなくなる、という寂しさがありました」

 2人の背中を見て、追いつけ追い越せと精進してきた川島は、2010年の南アフリカW杯から3大会連続で日本のゴールを守り続けた。そして、彼のあとに続く後進には、東口順昭(ガンバ大阪/33歳)、権田修一ポルティモネンセ/30歳)、シュミット・ダニエル(ベガルタ仙台/27歳)、中村航輔(柏レイソル/24歳)、大迫敬介(サンフレッチェ広島/19歳)らがいる。

「日本代表のGKのスタイルには、監督が何を新しいキーパーに求めているか、というのもあると思います。ただ、ゴンちゃん(権田)とは一緒に練習をしたことがあって、シュミットとは一回やっただけなのでそこまで分からないですけど、今、代表にいるキーパーがそこまで新しいスタイルか、というとそういう感じはしないです」

 ただ、川島も“変化”は確実に感じているという。

「自分が日本にいた時のプレースタイルと、今のGKのプレースタイルは確実に違うと思います。前に出て行くタイミングとか、勢いとかも少なからず変わっていますね。サッカープレースタイルの変遷に応じての変化もあると思います。あと今は(Jリーグに)外国人GKもいて、それがお手本になったりするのもあると思いますし、外側から見ていると、成長していると思います」

「日本代表がまた大きく成長していくために、自分自身の経験をプラスにできればいい」

 日本人GKの課題は、やはりフィジカルとパワーだろう。

「たとえば、こちら(欧州)の選手たちは、肉体的にもともとパワーがあります。日本人GKも、フィジカルはもっと強くなっていったほうがいいと思いますね」

 日本代表に呼ばれることは、日本国民全員の夢を背負うことだと川島は言う。

「自分は、どんなことがあっても自分の夢を追いかけ続けてやってきています。そして、その自分の夢が、大きな日本の夢につながっていけばいいと思っています。次のW杯の前には2020年に東京オリンピックもあるし、若い選手が多くなって代表も変わってきていると思いますけど、そういうなかで日本代表というチームがまた大きく成長していくために、自分自身の経験をプラスにできればいいと考えています」

 川口、楢﨑の背中を追いかけ、そして今は権田、シュミットら、次の世代にその背中を追いかけられる存在となった川島。経験や年齢は重ねても、サッカーに対するビジョンや挑戦し続けたいという欲望には、まったくブレがない。

 集中砲火を浴びることも多いGKには、想像を絶するメンタルの強さが求められる。ロシアW杯で痛烈な批判を浴び、ストラスブールでも出番に恵まれないなかで日々挑戦し続けている川島の精神力は強靱だ。しかし、そこから感じるのは、鉄壁のような頑丈さや厳しさよりも、むしろさまざまなものを取り込める包容力や発想の柔軟さ、人としての“深み”だ。

 それは、とりわけ経験の浅い若い世代の選手にとって、拠りどころとなるものだ。この6月、川島の存在は日本代表にとって確実にプラスとなるに違いない。(小川由紀子/Yukiko Ogawa)

日本代表に復帰したストラスブールGK川島永嗣【写真:小川由紀子】