架空のキャラクターなりきりYouTubeライブ配信アプリなどで活動する「バーチャルYouTuberVTuber)」。その数はいまや8000人を超え、またスマートフォンだけで簡単にキャラクターなりきりライブ配信ができる支援サービスなども増えてきました。

【画像:「IRIAM」を使った配信画面】

 バーチャルライブアプリ「IRIAM」もそういった支援サービスの1つ。「IRIAM」では150人以上の“Vライバー”たちが日夜配信を行っており、視聴者は配信中にさまざまな「ギフト」を送ることで、お気に入りのVライバーを支援することが可能となっています。「ギフト」はいわゆる“投げ銭”に相当するもので、運営元のZIZAIによれば、人気のVライバーはそれだけで食べていけるくらいの額を得ているともいいます。

 バーチャルキャラクターは“仕事”になり得るのか、そしてなぜ人間はバーチャルキャラクターに引かれ、バーチャルキャラクターになろうとするのか。ねとらぼでは今回、ZIZAIの代表取締役CEO、塚本大地氏に取材。インタビューの中で見えてきたのは、人類が持つ「キャラクターになって表現すること」に対する根源的な欲求でした。

(聞き手:伊藤誠之介)

●1カ月に20~30人が、新たに“Vライバー”として配信デビューしている

――いま「IRIAM」で配信しているVライバーは何人くらいですか?

塚本氏:活動頻度は人によりますが、今は全部で150名くらいが配信できるようになっています(※編注:取材時点)

――サイトに募集フォームがありますが、誰でもすぐ配信者になれるわけではないんですよね。

塚本氏:募集という形はとっていますが、現状では希望する全員が配信できるだけの受け皿がまだないので、一定の基準に達している方に絞らせていただいている、くらいの感じですね。

――月にどれくらいの応募がありますか。

塚本氏:1月あたり100~200名くらいで、その中から月によるんですが、今は20~60名くらいの方がVライバーさんとしてデビューしています。潜在的な希望者はもっといると思っていて、今後はさらに増えていくと思います。

――キャラクターイラストは自前で用意する必要がある?

塚本氏:細かい話をすると色々あるのですが、これは大きく2通りのパターンがあって、1つはすでに他所でVTuberとしてデビューしていたり、キャラクターとして活動していたりする場合。この場合はそのキャラクターを使ってそのまま配信していただくことが多いです。

 もう1つは今までにキャラクターとして活動したことがないパターン。この場合はこちらでイラストを用意して、Live 2Dの動きなども調整したりしてデビューを支援する形になっています。

――キャラクターの性格や特徴なども一緒に考えたりはしますか。

塚本氏:いえ、プロデュースのようなことは一切していません。あくまでイラストだけですね。Vライバーさんになりたいという方々が、自分自身が出したいと思う個性を自分で引き出し、そこにファンがつくというのが僕は理想だと思っています。「IRIAM」はタレント事務所ではなくプラットフォームなので、個別にがっつりとしたプロデュースを行うことは今はありません。

――今後も募集という形は続ける予定ですか。 

塚本氏:いずれは応募形式ではなくて、誰でも「やりたい」と思った瞬間にパッと配信できるような形にしていきたいと思っています。例えばキャラメイクを追加したり、イラストを用意するだけで配信ができる機能を用意したりとか。

●「キャラクターが自分のすぐ近くにいる」という体験を重視

――他のライブ配信アプリと比べて、「IRIAM」の強みはどんなところですか。

塚本氏:外から見ると、機能面では他のライブ配信アプリとあまり変わらないように見えるかもしれません。ただ、運営している側としてはまったく別物だと思っていて、「IRIAM」は特に“コミュニケーション”と“コミュニティー”に重きを置いた作りになっています。

――具体的にはどんなところが違うんでしょう。

塚本氏:技術的な話をすると、「IRIAM」では“モーションライブ方式”という仕組みを採用しています。動画を転送するのではなく、キャラクターのモーション情報を転送して、それをアプリ側で再生するというやり方ですね。これだと動画に比べて通信量もかかりませんし、遅延もより少なくなります。うっかり中の人”が写って顔バレしてしまう、といったこともありません。

――ライブ配信サービスというより、ゲームオンライン対戦みたいな仕組みですね。

塚本氏:特に「遅延が少ない」というのは、コミュニケーションの質にものすごく影響してくるんです。例えばテレビニュースなどで海外と中継をつなぐと、向こうのアナウンサーが2秒くらい遅れて反応したりしますよね。あれはコミュニケーションという観点で見るとものすごく気持ち悪く感じませんか?

――ネットの生配信でも、実際の配信と映像ってけっこうタイムラグがありますよね。向こうにコメントが届いた時にはもう次の話題に移っていたり。

塚本氏:そうなんです。これに対し「IRIAM」の遅延は現状で平均0.3秒くらい。これは電話の音声通話よりも遅延が少ない。

――ほぼリアルタイム配信者コミュニケーションができると。

塚本氏:今ちょうど配信しているこの子にギフトを贈ってみましょうか。レスポンスの早さが分かると思います。

アプリを立ち上げ、配信中のVライバーにギフトを贈る塚本氏)

――おお、すぐに反応してくれましたね。

塚本氏:この体験の価値が高いんですよ。

 それからもう1つ、「IRIAM」には“画質”という概念がありません。動画を転送しているわけではないので、圧縮による映像の劣化がないんですよ。絵師さんが描いたイラストそのままの、いちばんキレイな状態でキャラクターを見ることができます。

――ああ、そうか、それはそうですね。

塚本氏:同じキャラクターでも、イラストそのままの美しいキャラと、劣化してザラザラになったキャラとでは、見ている側の気持ちが全然違うんですよ。この髪の毛のツヤの感じとか、動画では絶対に伝わらないですよね。絵が細部まで見えることによって、「キャラクターが自分のすぐ近くにいる」と感じられるんです。

●「ちゃんと配信できる人」なら、Vライバーの活動だけで生活できる

――もう少し突っ込んで、Vライバーの“お金”の話についてもお聞きしたいのですが、ランキングを見ると、視聴者から送られたギフトの総ポイントが表示されていますよね。これはそのまま、1ポイント1円ということですか?

塚本氏:そういうことです。

――月間ランキングを見ると、上位の配信者100万ポイント以上稼いでいますが、さすがにこれが全額配信者のライバーの収入になるわけではないですよね。

塚本氏:さすがに全額ではなくて、実際にはAppleGoogleの手数料分もありますから、その残りを運営側とVライバーさんとでシェアする形です。

――単刀直入に言って、Vライバーで生計を立てることはできる?

塚本氏:できる人はできます。ただ僕らとしては、「IRIAM」はお金もうけをする場所ではなく、あくまで自己表現をサポートするプラットフォームだと思っています。自己表現は人間の持っている根源的な欲求ですし、視聴者もそれに触れることで幸せになれる。配信する側とされる側、双方が幸せになった結果として、そこに経済が生まれているんです。

 例えば今人気のある(バーチャルではない)YouTuberたちも、お金のために始めたわけではないですよね。自己表現をして視聴者を楽しませようと続けていたら、それで生活できるようになっていた。「IRIAM」もそういう場だと思っています。

――確かにそうですね。

塚本氏:さらに言うと、「IRIAM」のギフトはいわゆる“投げ銭”とは性質がちょっと違うものなんですよ。われわれはギフトと呼んでいますが、視聴者からは“スタンプ”と呼ばれることが多くて、まさにLINEスタンプのような感覚で使われています。例えばVライバーさんがトークでスベったら草のギフトを投げるとか、そんな感じでコミュニケーションの道具として、コミュニティーのみんなで楽しむものとして使っていただいているんです。

――スタンプが収入源というのはLINEのようで面白いですね。

塚本氏:われわれとしてもそういう使われ方は意識していて、なるべくコミュニケーションに必要な感情パターンは全部網羅するようにしています。例えば泣いているギフトなんて、普通はあまり人気が出ないような気もするんですけど、これがあれば、Vライバーさんが泣いている時にファンの方も一緒に泣いてあげるといった使い方ができますよね。

 Vライバーのみなさんも、ポイントのために配信をやっているわけでは決してないと思います。とはいえ、ファンの方がコミュニケーションの一環としてギフトを使ってくれるのは、そのVライバーさんとのコミュニケーションを喜んでくれたり、共感してくれているという意味ですから、それはすごく価値のあることだと思います。

――配信で稼げるか、というところに話が戻るのですが、今配信を行っているVライバーのうち、“食える”ぐらい稼げている人はどれくらいいるのでしょうか。

塚本氏:ちゃんと配信しているVライバーさんなら、それだけで食べていける可能性が十分にあります。

――「ちゃんと」というのはどれくらいのイメージですか。

塚本氏:配信だけで食えるというのは基準が難しいですが、ひとつの比較として「アルバイトで生計をたてる」ことを考えてみるといいかもしれません。例えばですが、アルバイトで食べていくのに週に40時間働く必要がある人がいたとします。で、それと同じくらいの労力をファンを喜ばせることに費やし続けて、それくらいが「ちゃんと」かなと僕は思っています。

 ただひとつ誤解してほしくないのが、決してそんな労力を配信者に求めたりしているわけではないです。いずれにしても、いろんなデータを見るかぎり、どんなVライバーさんでも毎日コツコツ配信し続けてファンを大事にしている方は、必ず長期的には伸びています。

――なるほど

塚本氏:努力が報われるという言い方をすると、Vライバーさんはそれを努力とは思っていないでしょうけど、それでもファンの期待に応えるだとか、ファンに対して寄り添うだとか、そういったものはVライバーさん側からできるアクションですよね。「IRIAM」はそういったアクションが、数字として反映されやすいプラットフォームだと思っています。がんばった分だけちゃんと返ってくるから、分かりやすいと思いますね。

●自己表現する人とそのファンがお互いにハッピーになれば、そこにお金が生まれる

塚本氏:ただ繰り返しになりますが、僕らは「IRIAM」をお金もうけをするためのプラットフォームとは考えていないんです。まず売り上げをKPI(重要業績評価指標)には置いていないですから。

 僕らが重要視しているのはプラットフォームやコミュニティーの在り方で、売上はまったく追っていないんです。社内のメンバーにも「売り上げの話をするな」と言っていますから。これは本当に、全員の共通認識だと思っています。

――こうすれば売上が伸びるとか、そういった話はしないんですか。

塚本氏:信じてもらえないかもしれないですけど、まったくないですね。みんなが自己表現をできて、それを面白いと思う人たちがファンになってハッピーな気持ちになれば、自然にお金も集まってくるものだと思っています。僕らとしては、そのハッピーを生み出す仕組みを作ることが売上を伸ばす一番の近道なので、それが全ての会議や議論の根本になっているんです。むしろ失敗談として、過去にイベントを実施したら想定していたよりも売り上げがありすぎて深刻な議論になったくらいで。

 アプリ内で適切な競争があること自体はエンターテイメントになりえると思うんですが、その競争が一定の量を超えると、ユーザー配信者も楽しくないと感じてしまうので、そこはすごく反省しています。

――逆にどういったイベントなら理想的だと考えていますか。

塚本氏:例えばVライバーさんの誕生日なんかは分かりやすい例ですね。特にこちらから何かアプローチをしなくても、ファンのみなさんが自発的にバースデーギフトを贈ってくれたり。そうやってみんなで誕生日をお祝いすることが、Vライバーさんとファンのみなさんにとって楽しい思い出になる。さらには、ユーザーさんの誕生日をVライバーさん含めたみんなで祝い合ったりする文化もIRIAMにはあるんです。そこにポジティブな感情が発生しているからこそ、お金が生まれるわけですよね。僕らはこういう構造をずっと作り続けていきたいんです。

VTuberとしてフォロワー数を集めなくても、幸せの価値は密度で最大化できる

――ZIZAIといえば「IRIAM」以外にも、VTuber事務所であるENTUMエンタム)も運営していますよね(※ミライアカリ猫宮ひなたなどが所属)。

塚本氏:確かに運営しているのは同じ会社なんですが、この2つはまったく別の、違う概念として考えています。「IRIAM」はVTuberではないんですよ。ゆくゆくは、VTuberになりたい、VTuberを見たいという層の外側にメインターゲットを広げていきたいと思っています。

 「IRIAM」は自己表現をしたい人類全てがターゲットなので、そこにVTuberという言葉を持ち込むと、「IRIAM」が対象にしている概念の幅を狭めてしまうし、本質的な価値を見失ってしまうと思うんです。そこはかなり気を付けています。

――ちょっと意外です。「IRIAM」と「ENTUM」で連携したりすることは考えていない?

塚本氏:プラットフォームとしての僕らがやるべきことは、全体の幸せの総量を大きくすることです。今のVTuberのように、登録者を増やすとか、IPとして強くなるとか、それが必ずしもその方の幸せに直結するとは思っていなくて。

 それよりも、たとえ規模は小さくても自己表現する方とそのファンがお互いに幸せになれるコミュニティーを持つほうが、個々にフォーカスした幸せの総和の最大化できるんじゃないか、というのは強く思っていますね。

――初期のニコ生とか、視聴者が数人とか数十人であっても、密度が濃くて楽しかったですよね。

塚本氏:自分で楽しみながら配信をして、そんな配信者を見て楽しいと思ったファンがついて、そこにコミュニティーができるって、めっちゃいいじゃないですか。その中にはお金がもうかる方がいるかもしれないけれど、それだけがモチベーションではない。いろんな価値観があって、それでいいと思うんです。

――そういえば、人気ランキング上位のVRライバーでも、Twitterのフォロワーがかなり少ないことに驚きました。

塚本氏:そうなんです。IRIAMでは配信開始して間もないフォロワー数1000人くらいの方でも、月間で150ポイントくらい獲得していたりするんです。もちろんそれが良いというわけではないですが、IRIAMの文化にとって「有名であること」はそんなに重要じゃありません。それよりも、コミュニケーションコミュニティーの質が担保されていれば、幸せは数の多さではなくて、密度で感じることができるんです。

●人類全員が「キャラになること」を通じて、自分が持っている才能に気づいてほしい

――VTuberやVライバーが急増しているのを見ると、人間には「別のキャラクターになる」ということに対する根源的欲求があるように思えるのですが、このあたりはどう見ていますか。

塚本氏:まさにその通りだと思います。今後はVTuberというより「人がキャラクターになって自分を表現する」という概念がトレンドになると思っていて。

 VTuberは「キャラクターになって表現する」という根源的な欲求を可視化して、その本質をみんなに気付かせてくれるきっかけになりました。でも本質はVTuberではなくて、あくまで「人間がキャラクターになって表現すること」なんですよ。

――VTuberはあくまでその一端であると。

塚本氏:VTuberとかYouTuberとかに関わらず、人間は自分自身を表現したいという欲求を持っているんです。社会に向けて自己を表現して、それを認めてもらい、あわよくばそこに経済が発生してお金がもらえる。そこまで行けば最高ですが、でも自分自身の素顔をさらして、アイデンティティーを保持したままそれを実行するのは、誰にでもできることではありません。それが「IRIAM」だと、ハードルがすごく低くなるんです。名前やアイデンティティーをキャラクターに持たせて、そのキャラに本物の自分を投影して世の中に出すわけですから。

――Vライバーの中にはかなり極端な性格のキャラクターもいますが、これも本人の中に潜在的にそういう要素があったりするんでしょうか。

塚本氏:僕はそうだと思っています。人間のキャラクター設定には無限のパターンがあって、あるコミュニティーに属している時と、別のコミュニティーに属している時でまったく違ったりする。僕がよくしゃべるキャラになっているコミュニティーもあれば、僕が黙っているコミュニティーもある。

――誰しもそういう側面はありますね。

塚本氏:これがバーチャルキャラになると、その無数にあるキャラクター設定の中から、自分にとっていちばん都合のいいものを切り出し、増幅して見せられるようになるんです。一方で、都合の悪いところはポジティブな意味で捨てることができる。

――「人間がキャラクターになって表現すること」が今後もっと広がっていくと、どんな社会になるとイメージしていますか。

塚本氏:あんまり大きな話になりすぎるのもどうかと思うんですけど(笑)、世の中の人には全員にいいところがあって、コンテンツ力があって、表現すべき才能があるんです。でもみんな、世の中の構造のせいでそれに気付いていないんですよ。今はほんの1パーセント、2パーセントくらいの人しか自分を表現できていない。だから世の中に幸せが少ないんです。それが「キャラになること」によって、どんどん増えていけばいいと思っています。

 大学デビューをしたり、海外に初めて行ったりした時って、それまでの自分のステータスリセットされることで、周囲の目が気にならなくなったり、意外に英語しゃべれたりするじゃないですか。

――今までとは違う、別の自分が見つかると。

塚本氏:別の自分というか、本来持っているはずなのに「自分はこうあるべき」みたいな殻のせいで、普段は表に出てこない自分ですね。この殻が人間を苦しめている根本の1つだと思っていて。それを捨てて、その人が持っている良い部分だけを抽出できれば、人間はもっと幸せになれるんですよ。

――最後の最後ですごくいい話になってきました(笑)

塚本氏:顔出しがダメとかそんなレベルの話ではなくて、「自分を自分として表現するのがどれだけ苦しくて難しいか」という話なんです。

 世の中にいる人はみんなスゴイんですよ。でもそれに本人が気付いていないんです。だから「キャラになる」ことを通じて、みんなに気付いてほしいですね。どれだけ自分に才能があるかということに。

2019年4月4日ZIZAIオフィスにて)

ZIZAI 代表取締役CEO、塚本大地氏