名古屋U-20日本代表が陥った“よそゆきのプレー

ジョーを見ろと言ったら、ジョーしか見なくなった」

 名古屋グランパスを率いる風間八宏監督は苦笑していた。昨年のJ1リーグ最終節、湘南ベルマーレ戦での話だ。湘南は前線から素早くプレスをかけてくる。前から来るということは後方は薄くなるわけで、そこを狙う選択肢もあると、風間監督は選手たちに伝えていた。

 残留のかかった一戦ということもあったのだろう。名古屋の選手は、最前線のFWジョーへのロングボールを多用した。監督は選択肢の一つとして与えたつもりだったが、選手にとってそれが第一の選択肢になってしまったわけだ。後半に修正したが、前半45分間はジョーへのロングボールに終始して“名古屋のスタイル”を見失った、“よそゆきのプレー”になってしまっていた。

 23日に行われたU-20ワールドカップの初戦、エクアドルとのゲーム(1-1)でもU-20日本代表で同じような現象が起こっていた。

 エクアドルのセンターバックはロングボールへの対応が不安定だった。この分析は事前に行われていて、選手たちにも伝えられていた。実際、ロングボール処理のもたつきを突いて日本は何度かチャンスを作り、後半の同点ゴールにもつながっている。

 ただ、前半に関してはそればかりを狙いすぎていた。影山雅永監督によると、センターバックを狙えという指示は特にしていなかったという。

エクアドルがいいチームだと私が強調しすぎたのが良くなかったかもしれない。前半はいつもやっていることを放棄してしまった」(影山監督)

 風間監督が「ジョーしか見なくなった」と言ったのと似ていて、選択肢の一つとして与えた情報がすべてになってしまったわけだ。名古屋に所属しているDF菅原由勢は「見るものが少なかった」と表現している。

リラックスして入れていたし、集中もできていた。ただ、集中していた分、見るものが少なくなってしまっていた」

 エクアドルは前半10分あたりから、日本の様子をうかがうように後方でじっくりとパスを回している。エクアドルも日本の情報は持っていたに違いないが、まずは実物を確認していた。情報はあっても、あくまでも選択肢の一つであり、判断するのは自分たちというところだろうか。

情報は選手にとって有益だが、判断しなくなるなら“ノイズ”になる

 情報は有益だ。日本もそれを使って劣勢を盛り返せた。ただし、フィールドで判断するのはあくまでも選手。それがサッカーの鉄則で、選手が判断しなくなってしまうなら情報はむしろ“ノイズ”になる。自分の目より情報に頼ってしまったのは、前半の反省点である。

 名古屋と同じく、U-20日本代表もハーフタイムに修正できている。影山監督はかなり強い口調で喝を入れたようだ。

 ボックス脇を狙うのは、このチームが継続して行ってきた攻め手にすぎない。そこにセンターバックに難があるという情報が重なったことで、判断の最優先がそれになってしまったわけだが、日本チームに起こりがちな現象ではあると思う。指摘されれば修正する力はある。ただ、できることを放棄していた前半が0-1だったのは、いくぶん幸運だったかもしれない。

 一方、上手くいかない前半を1失点で我慢できたのは良かったとも言える。長所と課題が入り交じった、初戦らしいと言えば初戦らしいゲームだった。(西部謙司 / Kenji Nishibe)

U-20W杯初戦、日本はエクアドルに苦戦を強いられていた【写真:Getty Images】