『うみものがたり 〜あなたがいてくれたコト〜』『たまゆら』『リトルバスターズ!』『田中くんはいつもけだるげ』『ららマジ』『えんどろ〜!』など数々の作品でキャラクターデザインを務めてきた人気アニメーター&キャラクターデザイナー飯塚晴子のデビュー20周年を記念した個人画集の発売が決定!
2019年7月20日一迅社から『飯塚晴子画集 ハレハレ』が刊行される。

2016年に『たまゆら』のイラスト集が発売されたことはあったものの、複数の作品のキービジュアル、版権イラスト、設定画などを収録した書籍の刊行は今回が初めて。ファンからも大きな注目を集めている。

エキレビ!では、7月から放送の話題作TVアニメ『あんさんぶるスターズ!』でもキャラクターデザインを担当し、制作作業真っ直中の著者にインタビュー。
初の個人画集発売の経緯や心境などを聞くとともに、20年のアニメーター人生も振り返ってもらった。

自分にとっても記念になる本が欲しいと思うようになった
──初めての個人画集の発売がされることになった経緯や感想を教えてください。

飯塚 去年までは、自分個人の画集を出したいとかは、あまり考えたことがありませんでした。でも去年、「来年で20周年だ」と気づいてから、自分にとっても記念になる本が欲しいな、と思うようになったんです。ただ、何をどうすれば出せるのかが分からなくて……。そんなことを思っていたタイミングで、夏コミサークル出展をしたのですが。そのとき、以前出た『ららマジ チューナーズノート』という本の一迅社の担当編集さんがブースまで来てくださったんですよ。

──『ららマジ チューナーズノート』の1巻は、ソシャゲ『ららマジ』のオフィシャルキャラクター集で、飯塚さんが描かれた設定やインタビューも収録されていますね。

飯塚 『チューナーズノート』がすごく良い本だったし、思い切って、画集のことをご相談したんです。そうしたら、「ぜひ出しましょう」という話になりました。

──制作作業がスタートしてからは、20年の間に描いてきた絵を改めて見返す機会も多かったと思います。ご自身では、どのようなことを感じましたか?

飯塚 画集の制作作業もそうなのですが、ちょうど平成と令和の間に、Twitterで「平成最後に自分の代表作を貼る」というハッシュタグが流行っていて。私も自分のWikipediaを見ながら画像検索をしたりしました。自分の中で一番印象深い作品は『うみものがたり』だなと、改めて思いました。ただ、10年前の作品なのでさすがに絵柄はやや古いし、自分で見て「下手だなあ」と感じたので、この10年で進化はできているのかなと思いましたね(笑)。

──私の目から見たら、まったく下手ではありませんが(笑)。絵柄の変化はあると思います。絵柄については、その時々、意識的に変化させてきたのでしょうか? それとも、気が付いたら自然と変化しているものなのでしょうか?

飯塚 『妖狐×僕SS』(2012年)あたりまでは、あまり意識せず、自分のやり方で描いていたのですが。『リトバス(リトルバスターズ!)』(2012年)あたりからは、いろいろと考えるようになっていきました。

──具体的には、どのようなことを考えたのでしょうか?

飯塚 『リトバス』の時は、世間のアニメの流行を取り入れつつ、原作の絵の要素も入れつつ、自分の絵も入れつつという感覚で描いていました。あとは、『リトバス』の前にやった作品で、設定の絵がそのままグッズに使われる機会の多かった作品があって。設定画は、基本的にスタッフさんに共有するための資料として描くものなので、お客さんに見てもらう絵とは、意識していることも違うんです。だから、それがグッズになるのはちょっと嫌というか、恥ずかしかったんですよね。でも、『リトバス!』からは、設定も「どうぞグッズにも使ってください」と言えるような絵を描くようにしました。

デビューから10年先までの自分の目標を考えた
──アニメーターとしてデビューする前に思っていた夢や目標で、実現できたことを教えてください。

飯塚 動画として働き始める前、アニメ誌で自分の好きなキャラデザさんや作画さんのインタビューとかを読んで、そこに書かれている経歴も見ていたんです。私、後藤圭二さんがすごく好きだったのですが。後藤さんはかなり若い時期にフリーになって、キャラデザもされていて。それがすごくカッコ良いと思ったんです。

──代表作『機動戦艦ナデシコ』でキャラクターデザインを担当した時も、まだ20代です。

飯塚 私も「こんな風になりたい!」と思って(笑)。なるべく早い段階でフリーになって。5年以内に作監(作画監督)になり、その後、キャラデザになってという風に、デビューから10年先までの自分の目標を考えたんです。その目標からは、少し時期がずれたものもありますが、10年目までに描いた目標は全部クリアーできました。

──11年目からは、また新たな目標を立てたのですか?

飯塚 その先の目標は何も考えていませんでした。でも、このお仕事をしていると、新しいことはいっぱいあるので。今は、常に新しいことを取り入れたり、やったことのないお仕事にも挑戦しようという風にシフトしています。

──近年、新しい挑戦をした作品で、特に印象的な作品はありますか?

飯塚 最新の作品『あんスタ(あんさんぶるスターズ!)』が、いろいろなことを更新しまくっています(笑)。例えば、たいていの作品で、メインキャラの人数って(多くても)10人くらいかなと思うんですけれど。『あんスタ』は、登場するキャラクター全員がメインキャラなので、今までの記録を軽く超えています。キービジュアルも発表されているのですが。21人のキャラクターが並んでいるキービジュアルを描くのも初めての経験でした(笑)。

──しかも、原作が大人気のゲームなので、その1人1人に対して、すでに熱いファンが大勢存在しているわけですよね。

飯塚 はい。全員が主役なので、それぞれのキャラクターに、すごく愛を込めているファンの方が大勢いらっしゃいます。私も、熱いファンの皆さんには、なかなかかなわないとは思いますが、自分にできる最大限の愛情を全員に等しく込めて描いているつもりです。それは私のモットーでもあって。『うみものがたり』や『たまゆら』でお世話になった佐藤(順一)さんが、以前、何かのインタビューで「常に自分が自分の作品の一番のファンだと思って仕事をしている」というニュアンスのことをおっしゃっていて。すごく素晴らしいなと思ったんです。それからは私も、原作ものだろうと、オリジナルだろうと、常にそういうつもりで愛を込めてやっています。

リトバス』がなかったら、今の私は、かなり違う私だった
──先ほど、印象深い作品として『うみものがたり』を挙げられていましたが、どのような点で印象に残っているのですか? 

飯塚 制作中のことは、必死過ぎてあまり覚えていないんですけれど(笑)。デビューして、ちょうど10年目の作品で、キャラデザはオーディションがあったんです。これを取れなかったら、私にはもう次はないと思っていたので、全力で取りにいって。その結果、佐藤さんや、ゼクシズの新宅(潔)さん、松竹の田坂(秀将)さんたちが私を見つけてくださったんです。感謝しかないですね。

──『うみものがたり』は、佐藤監督や田坂プロデューサーをはじめ、『たまゆら』にも繋がるいろいろな出会いのあった作品ですよね。

飯塚 本当にそうですよね。それに、私は、『うみものがたり』の絵で、自分を知ってもらえたという感覚が強くて。オーディションを受けたアニメーターさんの中でも、私は全然、無名だったらしいです。

──今年、10周年を迎えた『うみものがたり』に続いて、来年は『たまゆら』も10周年を迎えます。今、振り返ってみて、『たまゆら』はどのような作品でしたか?

飯塚 振り返るというか……。(主人公の沢渡)楓ちゃんたちは、常に一緒にいるので。いつも、(頭の横を指差しながら)このあたりにいるんですよ。何かにつけて、あの子たちや、お世話になった方々のことをふと考えるんです。だから、10周年が近いから思い出すという感覚でも無いんですよね。それに(舞台の)竹原の町も、まだまだ『たまゆら』を推してくださっていて。そこを訪れるファンの方もいらっしゃる。10年も愛されるコンテンツって、なかなか無いことなので、そんな作品に自分が関わらせていただけたことは、本当にすごく幸せなことだと思っています。

──ここまで、いくつかの作品について伺ったのですが、当然、それぞれの作品に深い思い出があるわけですよね。

飯塚 もちろんそうですね。長ければ長いだけ思い出はすごくあるので。その中でも、今の私の根幹を作ったのは、『リトルバスターズ!』かなと思います。先ほど、お話しした設定の描き方もそうですし、長い作品でもあったので。

──原作ゲームからの熱いファンも多く、テレビシリーズ第1期の『リトルバスターズ!』が2クール26話、2期『リトルバスターズ!Refrain〜』が1クール13話。OVAの『リトルバスターズ!EX』が全8話という長期シリーズとなりました。

飯塚 自分がキャラデザを担当した作品で4クールもあるのは初めての経験でした。私は、作り手が感情を込めれば、その感情はフィルムに乗るものだと思っているのですが。『リトバス』は、それをかなり乗せることができたと思える作品なんです。あと、当時、他の作品を担当しているスタッフさんが、「『リトバス』のラッシュチェック(映像チェック)は、笑い声がいっぱい聞こえてきて、楽しそうで羨ましい」と言っていたらしいんですね。それは本当に素晴らしいことだと思っていて。4クールもの長い作品を、みんなで仲間意識を持ってやれたのは、何物にも変えられない大切な時間。なかなか経験できない時間だったので、『リトバス』がなかったら、今の私はかなり違う私だったと思います。

この画集は、今まで見せなかったものを赤裸々に見せている
──『飯塚晴子画集 ハレハレ』の話に戻りますが、この本では、完成したイラストや設定だけでなく、作品によってはラフや線画、原画なども収録予定となっています。以前から、ラフなどをファンの方たちに見られるのは恥ずかしいとおっしゃっていましたが、何か心境の変化が?

飯塚 アニメって集団作業だから、私が描いたものは途中経過でしかなくて。みんなで作って、色とかもついたものが完成形なんですよね。途中のものは、チェックをしてくれる人が見て分かれば良いものなので、正直(お客さんに見せるものとしては)、雑なんです(笑)。だから、本当に恥ずかしいんですよ。でも、今回は20周年なので、自分の記録にも残しておきたいなと思って、載せていただくことにしました。今まで見せなかったものを赤裸々に見せているので、この画集の売りにもなったら良いなと思います。

──ちなみに、飯塚さん自身は、他のアニメーターやイラストレーターの描いたラフなどを見るのは好きですか?

飯塚 ラフ、大好きです(笑)。だから、興味を持ってくださる読者さんがいるのも分かってはいたんですけどね。やっぱり、恥ずかしかったんですよ……。

──この画集が手に取ってくれた読者にとって、どんな本になれば良いと思いますか?

飯塚 私の名前がついている画集に興味を持ってくれる方は、たぶん、私の絵を好いてくださっている方だと思うので。今まで見られなかったものも含めて見ていただいて。こういう風に進んできたよ、というのを知ってもらえれば、すごく嬉しいなって思います。なにせ20年目なので、きっと皆さんが見たことの無い絵も入っていると思うので。

──「昔見た、あの版権、飯塚さんが描いたんだ!」という発見もありそうですよね。

飯塚 きっと、あると思います。それを知ってもらって。その作品やキャラクターたちのことも、また好きになってもらえたら嬉しいです。

──では、飯塚さんご自身にとっては、どのような本になると思いますか?

飯塚 次の10年、20年も頑張れたらと思っているので。そこに向けて、ひとまずのまとめのような本になれば良いなと思っています。それで、また10年、20年経った時に、同じような本が作れるように。そのためのエネルギーになるような一冊になったら良いですね。

──ちなみに、タイトルの「ハレハレ」には、どんな意味があるのですか?

飯塚 写真集とかでも、名前をもじったタイトルにすると良いという話を聞いたことがあったので。あと、私の「晴子」という漢字が、よく「春子」とかに間違えられるので、「『春』じゃなくて、『晴れ』の字だよ!」というアピールの意味も込めて、「ハレハレ」にしました(笑)。
(丸本大輔)

【書誌情報】
書名:飯塚晴子画集 ハレハレ
著者:飯塚晴子
発行:一迅社
発売日:2019年7月20日予定
価格:3,000円(税別)予定
(C)飯塚晴子
(C)一迅社
『ららマジ チューナーズノート』は、1巻と2巻が発売中(画像は1巻表紙のイラスト)。1巻には、キャラクターデザインの決定稿だけでなく初期設定案や、飯塚によるオープニングアニメの修正原画も掲載されている