Point
■米国では栽培されたトマトの約93%が風味を失っている
■生産を増やすことにフォーカスしてきたため、風味や病気への耐性といったことに関わる重要な遺伝子が失われてきた
■今回の発見を活かせば、市場に出回るトマトがどんどんおいしくなっていくことが期待される
トマトのピンチを救えるか?
トマトがその風味を失っていっていることにお気づきだろうか。実際にアメリカでは、栽培されたトマトの約93%の味が落ちていることが分かっている。
しかし、新たな研究により味が見事なカムバックをみせるかもしれない。「Nature Genetics」に掲載された研究が、風味を取り戻すための遺伝子の型を発見したのだ。
失われた5000もの遺伝子
研究者らは、725もの栽培されたトマト、あるいは自生しているトマトのゲノム情報を集めてパンゲノム(種の範囲内に存在するゲノム全体の中の一つの集合体)を組み立て、「Heinz 1706」と呼ばれる栽培されたトマトと比較した。
この比較により、Heinz 1706が示すゲノムがおよそ5,000もの遺伝子を失ってきたことが明らかとなった。そして、その失われた遺伝子の多くには、病原体や病原菌への抗体を作り出す仕組みが備わっていたことも分かった。
そして、トマトはそうした遺伝子を「古き良き」とされる昔ながらの栽培の過程で失っており、その要因がしばしばネガティブな文脈で捉えられる、遺伝子操作によるものではないことも明らかとなった。
研究を率いたコーネル大学の植物遺伝学者、Zhangjun Fei氏は、「トマトを栽培可能にして品種改良をしていく過程で、サイズや賞味期限など、人々は生産を増やすことにフォーカスしてしまいがちです。その他の重要な特徴やストレス耐性に関わる遺伝子は、その過程で失われていったのです」と語っている。
トマトの風味を左右する遺伝子
これは、その失われたトマトの遺伝子の特定ができれば、おいしいトマトが戻ってくる可能性があるということを意味している。
そして今回の研究により、トマトの「赤」を作り出すカロテノイドに含まれる「TomLoxC」と呼ばれる遺伝子が、トマトの風味に大きく関わっていることが明らかとなった。
かつてはTomLoxCが含まれるトマトは全体の2%までに落ち込んでいたが、現在ではその数値は7%にまで上昇しており、これは農家がおいしいトマトを栽培するために、遺伝子に目をつけ始めたことを意味している。
この傾向が続けば、おいしいトマトはこれからもどんどん増えていくだろう。夏野菜の王様として、これからの季節に重宝されるトマトは私たちの知らないところで進化を続けているようだ。
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