ACLでも輝きを放った広島GK大迫敬介、真骨頂は正確なキャッチング

 あー! あぁ……。

 不安に満ちた叫びが安堵のため息になって、J1リーグ開幕戦(清水エスパルス戦)のエディオンスタジアム広島を包んだ。前半20分、左サイドからフワリと上げられたクロスに対して、GK大迫敬介が目測を誤った瞬間が叫び。その裏に飛び込んだ清水FW北川航也のシュートが不発に終わった時が、安堵である。

 実は大迫は、鹿児島キャンプでのトレーニングマッチでも、ゴール前に上がったハイボールをミスして失点につながったことがある。さらにAFCチャンピオンズリーグ(ACL)の大邱FC戦でも、同じように目測を誤り、触ることもできなかった。こういうプレーが、大迫に対する「ハイボールの処理が不安」という評価につながった。

 だが、広島の澤村公康GKコーチは大迫について、こう語っている。

「おそらくエアバトルについては、日本のGKの中でも3本の指に入っている選手ですよ、敬介は」

 この言葉を開幕戦直後に聞いたとしても、「期待値を込めて」という反応にしかなるまい。しかし、今は違う。広島の絶対的な守護神として、2015年に平均失点「0.88」という偉大な記録を打ち立てたGK林卓人もハイボールには強いが、大迫からも同じような絶対的な強さ・高さが感じられる。

 真骨頂は、なんといってもキャッチングだ。アウェーのACL大邱戦は、相手サポーターが激しくプレッシャーをかけてくるスタジアムであり、広州恒大もその圧力におされて1-3と敗れている。そういうなかで大迫は、入ってくるハイボールに対してことごとくキャッチを続け、「10〜11回は放り込まれて、パンチングは1回だけ。あとはすべてホールドしています」(澤村コーチ)。小雨も降り、ピッチは濡れていてボールも滑りやすくなっているにもかかわらず、確実にキャッチしていく。相手にはKリーグを代表するエアバトラーであるFWエドガルがいたが、その存在をまったくものともしなかった。

大迫が備える類稀なメンタルの強さ

 キャッチできるということには二つの利点がある。一つは、相手の攻撃をそこで終わらせられること。もう一つは、攻撃の起点となれることだ。

「GKがはめるグローブは、守るというよりもボールを奪いにいくという攻撃のためのツール。奪ってしまえばマイボールになり、彼のストロングポイントであるロングスローとキックのフィードを発揮しやすい。なのでキャンプからずっと、ディフレクション(弾いて方向をそらす)のスキルよりも、キャッチしてマイボールにしていこうという意識づけをやってきました」(澤村コーチ

 広島が今、得点力不足に陥っていることで大迫の攻撃能力は見過ごされがちだが、足もとの技術は悪くなく、つなごうと思えばしっかりとつなげる。ミドル・ロングレンジのキックは抜群に鋭く、そういう意味ではモダンであり、マンチェスター・シティGKエデルソンのような攻撃の起点としても十分に機能する資質を持つ。

 そしてそれ以上に注目されるべきは、スローイングだ。プロ野球外野手としても成功したのではないかと思えるほどの「レーザービーム」で、ボールは一気にハーフウェーラインを越えていく。大迫のスローが、例えばFWパトリックやDFエミル・サロモンソンのようなスピードのある選手により多く通れば、広島は今よりも得点機を量産できるだろうし、相手もラインを簡単には上げられなくなる。

 ただ、大迫の未来に最も期待できるのは、技術や戦術的な部分ではない。例えばハイボールのキャッチにしても、186センチという高さは世界レベルで見れば小柄であり、高くて上手くて強いFWと対峙した場合は厳しくなるかもしれない。だが、きっとそれも克服できると信じられるのは、大迫が類稀なメンタルの強さを持っているからだ。

 メンタルが強いか強くないか、それはチャレンジ精神に現れる。大迫は開幕の清水戦でハイボールに対するミスを犯した後も、大邱戦の凡ミスの後も、平然とエアバトルに挑みキャッチする。弾くことなど全く頭にない。逃げることなど微塵もない。失敗しても、次にチャレンジすればいいんだ――。そんな意識が、特別でもなんでもなく、ごく自然に大迫の中で根付いている。

ビッグセーブの少なさ」は安定の証

 人間誰しも失敗が怖いはずなのに、大迫の中にはそういう「怖れ」が全くない。ACL広州恒大戦、ハイボールを徹底して入れてくる元アジア王者の攻撃に対して平然と対処し、「ああいう攻撃は僕を気持ちよくプレーさせてくれるだけ」と笑顔を見せた。だからこそ、彼は試合ごとに成長を見せる。「大丈夫です」と笑ってくれれば、それだけで大丈夫なように感じる。それほどの強さが滲み出る。だからこそ、日本代表の一員として戦う国際試合でも大迫は普通にやれるのではないか。そう信じることができるのだ。

 いわゆるビッグセーブが少ないことについて、大迫のシュートストップ能力を疑う人もいるが、澤村コーチはその見方を否定する。

「例えば広州恒大戦の後半、ガオ・リンが放ったシュートは彼らにとっては『きたっ!』と感じたかもしれない。しかし、それを敬介はしっかりと正面でキャッチした。本当のビッグセーブとは、こういうプレーだと思うんです。正面に飛んだボールはラッキーだと日本ではよく言うんですが、それは違う」

 野球でも本当の技術者は、ファインプレーを凡プレーに見せるという。大迫も同じだ。正確な予測による足の運び、シューターに対する身体の向きが適切だからこそ、無理な体勢からのセービングは必要なくなる。それでも例えばジュビロ磐田戦のように、DFにボールが当たってコースが変わる緊急事態を迎える時もあるが、それでも足をしっかりと残して弾いている。最後の最後まで予測が機能している証拠であり、それもメンタルの揺れ動きが少ないことによる冷静さがベースになっている。強いメンタルがあるからこそ、パフォーマンスにブレがないのだ。

ピッチの上でやり続けたからこそ、日本代表に選ばれたと思います」と城福浩監督は言う。

「当たり前ですけど守備は一人ではできないし、チーム全員でやってきたところを敬介は評価された。代表でもチーム全体で守るという自覚を持ってやってほしい」

 その意識はもちろん、大迫は持っている。そしてその大切さを彼は、ACLグループステージ最終節のメルボルン・ビクトリー戦で、怪我からの復帰を果たした“先輩”林のプレーの中に発見している。

初招集の日本代表で「ポジションを奪うつもりでやっていきたい」

「チームを勝たせるGKって何が大事なのかという目線で見た時、卓人さんには自分に足りないものをいろいろと感じられました」

 そのうえで、初招集となった日本代表での試合に向けて決意を語った。

「川島選手や権田選手、シュミット・ダニエル選手といろんな話をして、たくさんのことを吸収したい。それだけでなくポジションを奪うつもりでやっていきたい。そして10代のうちに代表デビューを果たしたい」

 大迫が20歳の誕生日を迎えるのは7月28日。つまりは、キリンチャレンジカップコパ・アメリカで日本代表デビューを果たしたいという決意だ。19歳での日本代表デビューは、川口能活も楢﨑正剛も下田崇も、そして川島永嗣権田修一も達成できなかった偉業である。(中野和也 / Kazuya Nakano)

A代表初選出となったサンフレッチェ広島GK大迫敬介【写真:Getty Images】