最近は、“キャッシュレス”という言葉を見かけない日はない。特に、スマートフォン(スマホ)決済サービスは、「300億円祭」などの大型キャンペーンで連日話題になっている。10月から、経済産業省が消費増税対策として「キャッシュレス・消費者還元事業(ポイント還元事業)」を実施予定だ。国をあげてキャッシュレス化を進める背景には、どのような狙いがあるのか。改めておさらいする。

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●キャッシュレス化がもたらす恩恵



 キャッシュレス化を推進する理由の一つとしてよくあげられるのは、現金管理のコスト削減だ。みずほフィナンシャルグループの「キャッシュレス社会の実現に向けた取組み」(2018年6月1日)によると、現金の取り扱いにかかるコストは年間約8兆円。キャッシュレス化すれば、約4兆円を削減することができるという。

 具体的に削れるのは、ATM網運営コストや現金を管理するためのセキュリティや人材、輸送のための人材や機材。そして、小売店や飲食店でもレジ締め作業や現金の管理の手間を省くことができる。業務の効率化は、人件費や固定費の削減につながる。削減の実現を顧客に還元するという意味で、商品の価格を下げることだってできる。また、会計時に金額を間違えるリスクが軽減できることも、キャッシュレス化を進める理由の一つだ。


●インバウンド需要をキャッシュレスでキャッチ



 インバウンド需要の取り込みにも、キャッシュレス決済が一翼を担う。訪日外国人客が自国の貨幣を日本円に両替して買い物する場合、現金がなくなれば買い物しにくくなってしまう。機会損失だ。世界基準のキャッシュレス決済が普及していれば、理論上は銀行口座やクレジットカードの上限まで買い物できるようになる。


●各社が参入するQRコード決済



 キャッシュレス決済の中でもコストがかからないのが、QRコード決済だ。スマートフォン(スマホ)やタブレット端末、紙に印刷したQRコードなどを店舗に設置するだけで利用できるため、専用の決済端末を用意する必要がない。特に、紙に印刷したQRを消費者が読み取る方式の場合、期間限定で手数料を0円にする決済事業者もいるため、使える場所が徐々に拡大している。

 PayPayやLINE Payなど、20%還元キャンペーンを頻繁に開催しているQRコード決済サービスもあり、使っているだけで得して買い物できることもある。


●キャッシュレス化の注意点



 キャッシュレス決済もいいことばかりではない。電力が供給できない事態になれば、決済がままならない。ともすれば、それまでの記録に不具合が生じる危険性もある。一方、現金はアカウント管理の手間がなく、手数料もデバイスも必要ない。電力供給がなくても実物を数えればいくらあるかは分かるため、緊急時にも頼りになる。

 経済産業省は10月からのポイント還元事業で、消費者によるキャッシュレス決済が発生した場合、その消費者に対して個別店舗からは5%、フランチャイズからは2%をポイントで還元することを決めた。これに向けて、政府が「軽減税率・キャッシュレス対応推進フェア」を開催するなど、各関係者は準備を進めている。消費増税をきっかけに、一気にキャッシュレス化を進めようという算段だ。

 ただ、10月になってから急に使い始めても、キャンペーンの恩恵を十分に受けられるかは未知数。いまから少しずつ使い始めることをお勧めしたい。(BCN・南雲 亮平)
スマホ決済サービスの中でもQRコード決済サービスが増えてきている