今年2019年は歌手・忌野清志郎がこの世を去って10年(2009年5月2日没)となる。現在でもコンビニエンスストアイメージソングに楽曲が起用されるなど、根強い人気を誇る彼だが、かつてはロックミュージシャンとして数々のメディアで放送事故を起こす「猛者」として有名だった。

 代表的なのが、1989年10月14日フジテレビ系の音楽番組『ヒットスタジオR&N』で披露した「FM東京罵倒ソング事件」である。

 これは忌野清志郎が中心となった「RCサクセション」が覆面バンド「ザ・タイマーズ」として出演、生放送で実在するラジオ局であるFM東京およびFM仙台を罵倒する楽曲を演奏し、朝日新聞読売新聞など大手新聞でも取り上げられるなどし、大問題となった放送事故である。

 この日、「ザ・タイマーズ」は自身の代表曲である『デイ・ドリームビリーバー』を含む5曲を演奏予定であった。しかし、タイマーズは2曲目に演奏予定だった『偽善者』という楽曲を急きょ、FM東京を罵倒する未発表の楽曲にすり替え、「FM東京 最低のラジオ」と歌い切ったのだ。

 この楽曲すり替えは、司会の古舘伊知郎ほか他の出演者にも伝えられておらず(一部スタッフには承諾済みだった、との説もある)、関係者は全員、顔面蒼白になっていたという。

 この楽曲すり替えは、忌野が作詞を担当した「TEARDROPS」の楽曲『谷間のうた−−素敵な泉』(1989年9月発売)の扱いに対する抗議ではないかとされている。

 FM仙台はこの楽曲を「歌詞に問題がある」として放送禁止にし、同じころ東京FMでも「放送は望ましくない」として放送が見送られるという事件があったのだ。

 忌野の報復はこれら「楽曲の放送禁止」に対する抗議活動であったと伝えられている。結果、フジテレビはFM東京とFM仙台に謝罪し、タイマーズも3年間「フジテレビ出入り禁止」の処分となった。

 本事件は、今でも語り継がれている重大な放送事故案件だが、『ヒットスタジオR&N』のプロデューサーやタイマーズのメンバーは「そんなに大きな問題だとは思っていなかった」と懐柔しており、特に番組プロデューサーは大喜びで、タイマーズの過激パフォーマンスに終始ニコニコしていた、という。

文:穂積昭雪(山口敏太郎事務所)

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