野球界の問題を鋭く指摘した筒香の言葉から読み解く「勝利至上主義」

 横浜DeNAベイスターズの主砲・筒香嘉智外野手は、プロ10年目を迎える今でも、子供の頃から変わらず持ち続けているものがある。それは「野球が大好き」という気持ちだ。ただ、ふと周りを見回してみると、好きで始めたはずの野球が、いつの間にか「やらされているもの」に変わってしまった人も多い。

 特に心を痛めているのは、プロ入りする前の高校生中学生小学生の段階から、野球を嫌いになり始める子ども達がいることだ。職業として野球と向き合うプロの場合、怪我を押して試合に出なければならない時や成績不振に頭を悩ませ、球場に向かう足取りが重くなる日もあるだろう。だが、思い切りバットを振って、思い切り直球勝負を挑んで、野球というスポーツを存分に楽しむべき子ども達が、憂鬱な顔をして練習や試合に向かう姿が現実にある。野球がより魅力的なスポーツであるためには、どうしたらいいのか――。

「THE ANSWER」では「変わろう、野球――筒香嘉智の言葉」と題した連載で、筒香の言葉から27歳スラッガーが抱く野球界、そしてスポーツ界に伝えていきたい思いを紐解いていく。第2回は「勝利至上主義の意味」だ。

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「試合に負けた中でも学びや成長があれば、それを良しとすることが大切なんじゃないかと」――勝利至上主義がもたらす弊害について

「勝利至上主義」という言葉がある。一般に、競争相手に勝つことを絶対的な目標とする考え方を意味している。近年では、特にスポーツ界において、子ども達への行き過ぎた指導や体罰、長時間にわたる練習などの弊害を引き起こす要因として、たびたび登場する言葉だ。子ども達を守るためにも勝利至上主義はやめよう、という流れが生まれているが、ここで勘違いしてはいけないのは、決して「勝利=悪」ではないということだ。

「野球に限らず、スポーツをしていれば勝ちたい気持ちが生まれるのは当然。勝つこと自体は悪いことじゃないし、勝たなくていいわけではない。勝利至上主義が良くないのは、勝つことが全てという考え方。勝った人が偉くて、負けた人は価値がないという構図だと思うんです。試合に負けた中でも学びや成長があれば、それを良しとすることが大切なんじゃないかと」

この子達にとって、本当に大事なのは明日の試合に勝つとか負けるとかじゃない」

 何かを競争する場に身を置けば、そこには自然と優劣や合否が生まれる。だが、育成年代の子ども達の場合、相対的な結果で評価を受けるのではなく、そこに至るまでの過程で見せた努力であったり、前回から見せた個人的な成長であったり、勝敗よりも重んじられるべきことは多い。例えば、技術的なことではなくても「人一倍大きな声で応援できたこと」が評価されてもいい。

 筒香がスーパーバイザーを務めるボーイリーグ・堺ビッグボーイズの小学部「チーム・アグレシーボ」では、空振り三振しても怒られることはない。むしろ「いいフルスイングだったな」「積極的で良かったぞ」と、その姿勢を褒められる。それというのも、子ども達が「また打席に立ちたい。今度はヒットを打ちたい」と自発的な思いを持つことを大切にしているからだ。

 勝利から学ぶこともあれば、敗戦から学ぶこともある。ある少年野球チームの見学に行った時、筒香はチームの監督から「明日負けられない大事な試合があるので、子ども達に勝利のアドバイスを送って下さい」と声を掛けられたという。「その時、ふと思ったんです。この子達にとって、本当に大事なのは明日の試合に勝つとか負けるとかじゃないなって。本当に大事なのは10年後にどんな選手、どんな大人になっていることじゃないかって」。筒香はこうも続けた。

「残念ながら指導者の中には、子ども達を勝たせたいという思いが、徐々に『試合に勝つ=自分の指導力の評価』に変わってしまった人がいる。試合に勝てば、それを教えた自分が偉い、みたいに。大会での優勝を自分の手柄のように考えている指導者は少なくないと思います。だからこそ、勝つことが全ての勝利至上主義に走ってしまい、勝者だけが市民権を得て、負けたら何の価値もないという考え方になるんじゃないかと。人それぞれの感覚はあるでしょうが、正直、僕にはその感覚はちょっと分からないです。教えた子ども達が自分にとって一番いい道を歩んでくれることが、指導者の喜びやうれしさに繋がると思うので」

「好きで始めた野球が、勝つためにやらされているものに変わったら、それは不幸でしかない」

 勝利至上主義が助長される1つの原因は、小学生から高校生までの主な大会がトーナメント方式で開催されていることにもありそうだ。勝敗が大きく物を言うプロ野球リーグ戦で順位を争っているのに、勝敗以上に大切なことを学ぶべき育成年代が負けたら終わりのトーナメント方式で戦っている現実がある。それは高校野球に限らず、小学生中学生でも同じ。むしろ、高校生よりも小中学生を対象としたトーナメント大会の方が大小様々な規模で開催されており、良かれと思う主催者達の思いとは裏腹に、子ども達の体に掛かる負担はかさんでいる事実もある。

「勝利だけを追い求めることが、子ども達の体と心に負担を掛けるのであれば、それはまったく意味がないことだと思います。好きで始めた野球が、勝つためにやらされているものに変わってしまったら、それは不幸でしかない。試合に勝つ野球を教え込まれることよりも、チームメートや対戦相手を思いやる心、自分で判断できる力を身につけ、何より野球を好きなままでい続けることが大事だと僕は思います」

 勝つことは決して悪ではないが、それが全てではない。勝利について、大人がもう一度考え直してみる必要がありそうだ。(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)

筒香が指摘する「勝利至上主義」の弊害とは【写真:Getty Images】