筆者は、日本安全保障戦略研究所(SSRI)の一員として、台湾戦略研究学会(TSRA)との「日台戦略対話」を発足させるため5月10~13日の間、台湾を訪問した。

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 この間、同学会のみならず、台湾の立法院国会研究室、台湾国防安全研究院、台湾国防大学戦争学院戦略研究所を訪問し、対話を重ねる機会を得た。

 今回の台湾訪問は、台湾が中国から本格的に軍事的威嚇を受けていること、来年の台湾総統選挙では、民進党が相当厳しい状況に置かれていることなどを考慮して実施した。

 こうした状況では相当踏み込んだ軍事的な対話をする必要があり、また、常続的に対話を継続する枠組みを作る必要があると考えたからである。

 当初、我々SSRIメンバーは、今回の訪問を通じて日台間の安全保障・防衛協力の対話のレベルを少しでも上げることができるのではないかと意気込んでいた。

 しかしながら、訪問の結果、日本に対する「台湾の大きな失望」を理解していなかったことに大きな衝撃を受けた。

台湾防衛の中核を担う台湾国防安全研究院

 訪問した台湾国防安全研究院は、台湾の国家安全会議(National Security Council=NSC)直轄で2018年5月に設立されたものである。

 NSCと直結している存在意義は極めて大きいと判断され、今後は当研究院と深い対話が重要であることを痛感した。

 ここで、我々の研究成果である「インド・アジア太平洋防衛戦略」を説明したところ、大きな関心を示した。

 今後は対話のレベルを一段と高め、真剣な議論に踏み込める可能性を強く感じた。

 特に、当研究院は日本の南西諸島作戦との連携を模索しているようであり、将来的には日本との災害時などの後方支援や救難支援などを含めた具体的な協力関係を構築していくことが必要だと感じられた。

 また、対話の中で台湾は米国との深い繋がりを示唆しており、今後日本は、日米共同作戦と台湾との一体化(Triad)について防衛対話を深めていくことが求められるだろう。

 なお、台湾では日常的に中国のサイバー攻撃を受け、かなりのマスコミが中国寄りの報道をし、フェイクニュースが垂れ流されていることに大きな危機感を抱いていた。

 日本も、このような事態が「対岸の火事」として軽視できるような状況ではないことを銘記しなければならない。

台湾戦略研究学会との日台戦略対話

 米中は貿易戦争の枠組みを超え、覇権獲得競争あるいは新冷戦といわれる大国間対立に突入している。

 この時代に、民間のSSRIと台湾の大学(国防大学を含む)や研究機関を広く包含する台湾戦略研究学会との間で、戦略対話の定期開催に関する覚書を結んだことの意義は大きいだろう。

 一方、わが国には、これほどまでに米中の長期的・構造的対立が顕在化し、その影響がわが国にも直接・間接に及んでいるにもかかわらず、ひたすら経済面における協調要因にしか目を向けない大きな勢力が存在している。

 このようなことは国際的にみれば異常としか言いようがない。

 これが、悲しきかな日本の実情であり、中国こそがすべてという経済界、そして中国に同調する一部の政治家・マスコミの本音であろう。

 (確かに一部の心ある政治家は、台湾との真の関係構築と交流の拡大を考え行動していることは心強いが、この流れが主流になることを期待している)

 悪い流れを助長しているのが、昨年10月、中国を訪問し「日本と中国の関係は完全に正常な軌道に戻った」とし、日中関係は「競争」から「協調」へ変わったと安倍晋三首相に言わしめた、日本のねじれた政治風景ではないだろうか。

 本当に中国との関係が正常に戻ったと言うのならば、領海を含めた尖閣諸島周辺海域に40日以上にわたって侵入し続ける中国軍艦の行動も「正常な軌道」ということなのだろうか。

 そうならば、尖閣諸島は中国の領土であると認めたことになるだろう。防衛計画大綱では、中国は「安全保障上の大きな懸念」と表現しているが、もう一度ここに戻って発言を訂正することが必要だろう。

 さらに、次々に日本人がスパイ罪に問われ、逮捕され実刑の判決を受けているが、これが首相の言う「正常な軌道」の中の話なのか。

 北朝鮮に拉致された人たちを救うために、国を挙げて全力を尽くしているのに、中国にいる同胞を救おうとしないのは正気かと疑いたくなる。

 国民を守らない姿は、日本の継戦力もない貧弱な防衛力でよしとし、その限られた予算の中であっても米国の高額装備品を買い続ける姿にも表れている。

 また、何の意味もないのに、日本の防衛費はNATO(北大西洋条約機構)の算定基準で試算すると、GDPの1.3%でしたと米国に言い訳する姿は実に見苦しい。

 米国が、本気で政治・経済・軍事的に中国に対して妥協のない戦いを始めたことを日本はあまりにも軽く見すぎている。

 これから米国は貿易のみならず、金融においても戦いを仕かけるであろう。

 ファーウエイに見られるごとく、中国の経済は風前の灯火であるにもかかわらず、これを正視しようとしない日本は正常とは言えない。

 米国は軍事においても着々と中国の海洋戦力に勝てる新たな体制を再構築しようとしているのに、空母「いぶき」だとはしゃぎ回っている姿はあまりにも思慮が足りない。

 中国は、空母に対しては空母ではなく、長距離ミサイルや潜水艦などの「非対称戦力」で勝とうとしているが、これこそ日本が学ぶべきことではないか。

 わずかに、電磁波や宇宙・サイバー領域で優越を獲得するとしたことだけが救いだ。

 大義のために戦う気もなく、勝つ気のない日本を台湾が信用するはずもなく、その一方で中国は安堵している。

台湾の日本に対する失望

 本稿の初めに、台湾は日本に失望していると書いた。

 台湾の失望は、単に対話を積み重ねるだけで、米国のような具体的な経済的支援や軍事的支援をしない日本の頼りなさであり、実行力のなさであり、中国に立ち向かうことをしない日本政府への失望である。

 在台の間、何度も台湾側から「日本は何が具体的にできるんですか?」と聞かれた。

 米国は、台湾関係法や台湾旅行法、アジア再保証イニシアチブ法などを根拠として、相当軍事的にも台湾を支援しているようである。

 日本が知らないか、知っていても報道しないかである。我々も相当、腹を割って話しはしたが、「それで日本は具体的に何ができるんですか」との質問に答えることができなかったことに虚しさを感じた。

 台湾の軍人の90%は中国寄りの国民党支持者であると言われているが、それを承知のうえで台湾国防大学では学生に対して、台湾は国民党民進党の区別なく「Freedom Nations」を一緒に守り切ることが重要だと話をした。

 この標語の下に中国から厳しい外交工作、軍事工作、そして対国内工作を仕かけられている台湾が一致団結できるかどうかは分からない。

 ちなみに、国民党の標語は「民進党が勝てば戦争になり、国民党が勝てば経済が活性化する」である。

台湾を守るには、もはや時間的猶予はない。

●直ちに日本政府そして経済界は、中国に対する「宥和政策」、「敗北主義」を放棄し、米国とともに中国に政治・経済・軍事的に立ち向かう意思表示をすべきである。

●直ちに軍事的協力・経済的協力の強化を含め「日台関係基本法」を制定すべきである。

 そして、台湾との多方面にわたる対話を実施し、短期間の内に日台発展の構想を作り上げ、実現の工程表を作り、できるところから実行に移さなければならない。

(台湾は自然にあふれているとともに、都市もインフラなどもまだまだ開発できる可能性に富み、人材も優秀であり、日本がもっと本気で投資する価値のある国である)

●米国と共に、南西諸島から台湾、フィリピンベトナムにかけての防衛線の構築について直ちに着手すべきである。

 特に米陸軍が2020年から開始する「Defender Pacific」演習を日台米共同防衛構想実現の要とすべきだ。

●日本の経済界は、中国一辺倒の経営を修正すべきだ。

●日本の防衛費を現状の2~3倍にし、早急に日本は自分の力で日本を防衛できる体制へ転換し(現状は張子の虎であり、台湾どころか、日本すら守ることはできない)、この際、「電磁領域で勝利」、「船を沈めよ」、「生き残り、戦い続けよ」を防衛の柱とし、これを従来にないスピードで実現すべきである。

日本と台湾は運命共同体との強い自覚が必要だ

 日本は、これまで中国の言う「1つの中国」を認めたことはない。

 日本や米国は台湾との断交にあたって中国が「1つの中国だ」と言っていることを尊重する、すなわち、「中国が台湾を含めて1つの中国だと言っていることを聞きました」と言っているに過ぎない。

 日本は、台湾のみならず、日本に対する中国の軍事的脅威を見て見ぬ振りすることなく、真っ向から中国の脅威に向かい合うことが必要な時期に来ているのではないか。

 もう1つつけ加えるなら、1949年、米軍の台湾からの撤退後、苦境に陥った台湾の国民党軍の再建にあたり、中共軍を打ち破ることができたのは、旧日本軍の将校団で編成された軍事顧問団のお蔭だったことを知る人は少ないだろう。

 彼らは台湾で「白団(パイダン)」と言われたが、戦後、他のアジア諸国に残って独立を助けた日本人のように、台湾を救ったのである。

 話は戻るが、台湾の次期民進党総統候補の頼清徳氏が来日時、「日本と台湾は家族のような関係であると思っている」と述べたが、まさに金言であろう。

●台湾は、アジアにおける家族のような唯一の「親日国家」であり、日本とともに発展していこうと志す友人である。

 また、台湾は、その自然、都市など発展の土壌があり、優秀な人材にも恵まれ、一緒に繁栄を築いていける国家である。

●台湾は、自由と民主主義を基調とする理念を共有する「共同体」であり、共産主義独裁の監視・抑圧社会の中国とは、全く異なる意識を持つ「国家」である。

 特に抑圧ではなく「Freedom Nation」を目指していることこそが、台湾が同胞である本質である。この同胞を日本が見捨てるのなら、日本は長く「人類の恥」として記憶されるであろう。

●日本、台湾、フィリピンは、中国が東・南シナ海から太平洋に進出するための大きな障害である。

 中国は、列島線バリアーと称しているが、これを安全に突破できなければ、海洋強国にはなれず、米国の覇権に立ち向かうことはできないと考えている。

 台湾はその3連のつり橋の要となる中心柱である。台湾が中国に占領されれば、中国は、台湾に対艦ミサイル、防空ミサイル、空軍、潜水艦を配置し、自由に東・南シナ海から海洋戦力を太平洋に流し込むことができるようになろう。

 こうなれば米軍は、グアムあるいはハワイ以東に下がらざるを得なくなる。そして、日本は中国の軍事的影響下に置かれ、白旗を上げることになろう。

求められる日本の決意

 日本は、米国の同盟国であり、米中対決は、他人事ではなく日本の問題そのものである。米中対決の間に漁夫の利を得ようなどと思わないことだ。

 米国は、40年ぶりに「現在の危機に関する委員会:中国」を立ち上げ、最終的には中国の共産主義体制が諸悪の根源というところまで追求する決意だ。

 米海軍6月4日にテロの戦いの時に掲げた「ガラガラヘビ」のネイビージャックから元の「ユニオンジャック」、すなわち、大国間競争に入ったと言う旗に変わる。

 6月4日はミッドウエー海戦の初日であり、米海軍太平洋の覇権を日本から奪い取った日でもある。

 日本よ!目を閉じても、この嵐は簡単には過ぎ去らない。

 この期に及んでも中国へ向かう自殺行為は直ちにやめ、唯一の友好国である台湾を本気で助けるべきではないだろうか。

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