「新入社員が外国人で初めて日本に来たんですが、引越しの手伝いで土日返上までしました。業務時間にはあたりますか?」。こんな相談が弁護士ドットコムニュースのLINEに寄せられました。

相談を寄せたのは、ITベンチャー企業でエンジニアをしている20代の女性です。例年は新入社員のお世話をすることはありませんが、今回の新入社員は就職で日本に初めてくる外国人。社長からメールで指示があり、対応せざるを得なくなりました。

結局、女性は賃貸物件探し、内見、契約準備から始まり、ライフライン携帯電話の契約、銀行口座開設、印鑑作成、役所の転入届や家電の運搬に至るまで、行いました。

女性は「成果が賞与に直結しますが、この件の対応をしていたため1カ月以上本来やるべき開発業務が進められませんでした」と話します。社員の引越しの手伝いは、労働時間に当たるのでしょうか。古屋文和弁護士に聞きました。

●労働時間にあたる場合には賃金請求が可能

「引っ越し等の手伝いを行った時間が労働基準法上の労働時間にあたる場合は、女性は勤務先に対して、賃金の支払を求めることができます。

引っ越し等の手伝いを行った時間が時間外労働または休日労働にあたる場合には、1.25倍または1.35倍の割増率が適用されることになります。」

●指示があれば労働時間にあたる可能性

どのような場合であれば、労働時間にあたるのでしょうか。

「労働時間とは、労働者使用者の指揮監督のもとにある時間と考えられています。休日 の業務についても、勤務先からの明示または黙示の指示に基づいてなされた場合や、行った業務の内容によって、労働時間にあたると判断される場合があります。

相談者のケースでは、社長からの明確なメールでの指示がありますし、女性の行った引っ 越し等の対応は新入社員が勤務を開始するために必要なものといえますので、労働時間に あたる可能性が極めて高いです」

外国人労働者に対する一定の支援は避けることができない

2019年4月から新たに『特定技能』という在留資格制度が創設されたこともあり、今後、外国人労働者の人数が増加することが予想されます。

「全ての外国人労働者を対象にするものではありませんが、2019年3月に法務省が公表した『1号特定技能外国人支援に関する運用要領』では、外国人労働者を雇用する機関に対して、外国人労働者の住居確保や生活に必要な契約(携帯電話、口座開設、ライフライン)の支援を行うことを求めています。

この運用要領の対象以外の外国人労働者についても、実際、外国人労働者が仕事を開始するまでに住居の確保等が必要となります。よって、外国人労働者を雇用する会社などでは、従業員が本来の業務以外に、外国人労働者のフォローを行わなければならない場面が増えるでしょう。

勤務先の会社としては、外国人労働者に対する一定の支援を避けることができないことを前提に、支援対応をした従業員に対して、労働基準法に従い、適切な賃金を支払う必要があります」

(弁護士ドットコムニュース)

【取材協力弁護士】
古屋 文和(ふるや・ふみかず)弁護士
会社側の労働分野及び企業法務分野の案件を主に取り扱っている。経営者向けセミナー(『経営者であれば抑えておきたい会社経営の法的リスク』、『現場担当者のためのクレーマー対策』)にも力を入れている。山梨県弁護士会所属。
事務所名:ひまわり法律事務所
事務所URL:https://bengoshifuruya-law.com/

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