海外に住む日本人が最高裁裁判官の国民審査に投票できないのは違憲だとして、アメリカなどに住む原告5人が国を相手取り訴えていた裁判で、東京地裁(森英明裁判長)は5月28日、「国民審査で投票できなかったことは違法」だとして、国に1人あたり5000円の賠償を命じる判決を下した。

判決後に東京・霞が関の司法記者クラブで開かれた原告側の会見には、原告の1人でアメリカ在住の映画監督、想田和弘さんがインターネットのビデオ通話で参加。「海外在住の日本人は130万人ぐらい。私たち原告は5人ですが、130万人と一緒であるという気持ちで訴訟を進めてきた。国は控訴せず、法改正をして、私たちの主権者としての権利が侵害されている状態を一刻も早く正してほしい」と語った。

●「民主主義にとって画期的な判決」

訴えていたのは、アメリカやブラジルに住む日本人5人。訴状などによると、原告らが2017年の衆院選と同時に行われた最高裁裁判官の国民審査で投票できなかったのは憲法が定める法の下の平等に反するなどとして、1人あたり1万円の損害賠償を求めていた。

判決で、森裁判長は、国会が正当な理由なく長期にわたり、立法措置を怠っているとして、立法不作為を認め、「在外審査を認めないことは憲法に反する」と結論づけた。なお、訴えのうち、現在も海外に住む原告4人が次回の国民審査で投票することができる地位にあることの確認を求めていたが、「訴えが不適法」として却下した。

判決後の会見で、弁護団で原告の1人である谷口太規(もとき)弁護士は次のように語った。

「2017年10月に行われた衆院選の時点で米国ミシガン州に住んでいました。選挙に行ったが、衆院選は投票できたのに国民審査についてはできなかった。調べたら、投票できないことを知り、おかしいと思っていました。今回、立法不作為であるという判決が出たことは、民主主義にとって画期的なことだと思います」

また、同じく原告の想田さんも「日本では、あまり国民審査権が重要視されていない気がしますが、とても重要だと思います。アメリカだと判事の人選によってあらゆる法解釈が変わってくるので、影響はすごい大きい。この視点はすごく大事だと思います。私たちが争ったのは、在外邦人の国民審査権ですが、日本に住んでいる主権者にとっても、大事な権利であることを喚起するような判決になればいいと思います」と話した。

●2011年、別の東京地裁判決でも「憲法適合性に疑義」と指摘

国政選挙をめぐっては、1998年に公選法が改正され、在外選挙制度が導入された。しかし、当初は比例代表制に限られていたため、最高裁は2005年、比例代表制、小選挙区制どちらにおいても、在外国民が投票することができる地位であることを認める判決を出している。これを受け、2006年には公選法の改正が行われ、以後すべての国政選挙で在外投票が行われるようになった。

一方、最高裁判所裁判官国民審査の在外制度は整備されていなかった。2011年に別の同種訴訟で、東京地裁は原告の主張を退けたものの、「憲法適合性については、重大な疑義があったといわざるを得ない」と指摘していた。しかし、国会ではこの問題が手付かずの状態が続いていたため、原告らはあらためて提訴したという。

(弁護士ドットコムニュース)

最高裁裁判官の国民審査「在外邦人が投票できないのは違憲」、東京地裁で判決