5月23日から投票が始まった欧州議会選。メイ首相の保守党を尻目に、EUから離脱できないことに憤る有権者の支持を集めたのが、英国の新党「ブレグジット党」だ。その原動力が、ナイジェルファラージ党首(55)である。

 大衆酒場で昼間からパイント(568ml)グラスの生ぬるいエールを飲み、煙草を燻らす“パブの男”。赤ら顔で歯を見せガハハと笑って本音をぶつけるのがファラージ氏の選挙スタイルだ。

 ファンロンパイ前EU大統領を「ボロ雑巾カリスマ」「コワッパ銀行員」と罵ったかと思えば、「HIV保有者の移民を規制しよう。治療に英国の国営医療サービスを使っている」と移民への恐怖心を焚き付けた。だが、ファラージ人気は彼の言葉が高齢者や労働者階級、失業者、数は少ないものの、トレーダーや起業家の本音だからだろう。

 典型的な英国のアッパーミドルの家庭に生まれたファラージ氏。5歳の時、アルコール中毒だった株式仲買人の父が家を出て行く。それでも私立男子校クリケットラグビー、さらには政治討論に夢中になり、18歳で金融街シティーの商品市場に飛び込む。天性の雄弁と人心掌握術でアッという間にトレーダー仲間と顧客の人気者になった。

人生観を変えた3度の“命の危機”

 当時のサッチャー首相に傾倒し、保守党に入党するも、92年、メージャー首相がEU創設を定めたマーストリヒト条約に署名したことに憤慨して「反連邦主義者連盟(後のUKIP)」に参加した欧州懐疑主義者。06年にUKIPの党首になると、選挙のたびにEU離脱を訴えてきた。

 ファラージ氏の人生観を変えたのが、3度にわたる“命の危機”だ。交通事故で足を切断するかもしれない重傷を負ったり、精巣腫瘍を患ったり。10年には総選挙キャンペーンの横断幕が小型機の尾翼に絡まって墜落したが、一命を取り留めた。「以来、前より目的に向かって決意を固めるようになった」という。

 EUと貿易戦争を繰り広げるトランプ大統領とは「反EU」で利害が一致。「反エリート」「白人の復権」という政治信条も重なり、トランプ氏と一番気が合う英国の政治家でもある。“英国のトランプ”の躍進で、EU離脱を巡る論争はますます混迷に陥っている。

(木村 正人/週刊文春 2019年5月30日号)

4月にブレグジット党を結成したファラージ氏 ©共同通信社