東アジアにおける「均衡者」を自任してきた文在寅ムン・ジェイン)政権の「バランス外交」が、とうとう限界に直面した。

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 外交政策における優先順位の筆頭に「南北関係改善」を置き、そのために米国と中国などの大国を相手取って「均衡外交」を披露し、各国から協力を取りつけるというのが、文在寅政権の「バランス外交」の核心だ。しかし、米中間の貿易戦争がより激しくなったことで、文政権もいよいよ「米国か、中国か」の選択を強いられる羽目になってしまったのだ。

トランプ大統領との差しの首脳会談はたった「2分」

 今年2月28日ハノイでの2度目の米朝首脳会談の「物別れ」という結果に、最も慌てた人は文在寅韓国大統領に違いない。2017年の就任以来、唯一の目に見える成果と思われていた「南北関係改善」に及ぼす悪影響はもちろん、米朝が再び「対決」局面に入るのではないかという懸念で頭の中が一杯だったとも思われる。

 それでも当時、韓国メディアは、ハノイでの米朝首脳会談の決裂がむしろ文在寅大統領の「仲裁者」としての存在価値を高める絶好のチャンスだと主張していた。そのため、文政権が対北朝鮮特使を派遣するという話も出てきたが、結局、文大統領は先にワシントンへ飛び、トランプ米大統領の「説得」を試みることになった。

 しかし、4月11日ワシントンで開かれた第7次米韓首脳会談は、第2次米朝首脳会談ほどに「収穫のない会談」に終わってしまった。1泊3日の訪米日程のうち、文大統領トランプ大統領と面会したのは、テタテ会談、少人数会談、拡大会談を含めておよそ116分間。このうち、両首脳だけのテタテ会談は、わずか「2分」に過ぎなかった。29分間行われたテタテ会談で、トランプ大統領が記者団との質問応答に割り当てた時間が27分にも達したためだ。内容面でも、2人の発言は、ことごとく食い違った。

 結局、7度目の米韓首脳会談は、韓国の保守系メディアと野党側から「2分はカップラーメンも出来ない時間」「ワシントン・ノーディール会談」「兵器ショッピング会談」などと非難囂々の結果となった。政権寄りのメディアでさえも、米韓同盟の確認と対北朝鮮の対話維持という原則論的なこと以外は、特に成果を得ることができなかった、という厳しい評価を下さざるを得なかった。

 それから1カ月余りが過ぎた5月16日、午前5時という早朝に、韓国大統領府はメディア各社に次のような書面ブリーフィングを行った。

文在寅大統領の招請で、トランプ米大統領は6月下旬に開催されるG20首脳会議への出席きっかけに訪韓する予定。具体的な日程は後日外交チャンネルを通じて協議していくことにしました。(中略)

 今回の首脳会談で両首脳は、韓米間の緊密な共助の元、韓半島(朝鮮半島)の完全な非核化による恒久的平和体制の構築と韓米同盟の強化策について協議する予定です」

G20大阪サミットをテコに大国首脳を招請する計画も・・・

 さらに、2日後の5月18日には、もう一つのビッグニュースが流れた。「中国政府との間で習近平主席の訪韓について協議中であり、G20首脳会議前の訪韓を目指している」という大統領府関係者の発言が報道されたのだ。すなわち、文在寅政権が大阪G20首脳会議を契機に、米国と中国の首脳をそれぞれ韓国に招請して、連続首脳会談を開催する計画を推進していることを明らかにしたのだ。加えて、両大国の首脳会談をきっかけに、6月中に4度目の南北首脳会談を試みるというのが文政権の狙いだ、とする報道もあった。

 実現すれば、米中貿易戦争の荒波の中、隣国の日本の国際行事を巧みに利用して、米国と中国の首脳を「時間差」で自国に招き寄せ、これをテコに北朝鮮まで動こうという絶妙な計画と言える。停滞していた文政権の外交戦略が一気に動き出したかに見えた。

 しかし、文在寅政権の野心に満ちたこの計画は、ファーウェイボイコット問題で一気に激化した米中貿易戦争のとばっちりを受ける形で、轟沈してしまった。24日、韓国メディアは、「習近平主席の訪韓を向けて文在寅政府が準備していたソウル市内のホテルの予約がキャンセルされた」と報じ、習近平主席の訪韓は事実上霧散したと分析した。その代わりということなのか、5月の最後の週に中国政府の高官3人が韓国を連続訪韓すると報じられている。これについて、多くの韓国メディアは、「トランプ米大統領の訪韓の前に、米韓間の密着をけん制するための訪韓」という見解を伝えている。

「頼みの綱」のトランプ大統領との米韓首脳会談も、文在寅政権の意図とは全く違う方向へ流れる可能性がある。

 韓国メディアによると、今回の米韓首脳会談では、ファーウェイボイコット問題が議題に上がる可能性が高い。そうなれば、これまで「民間企業間の問題は政府が関与できない」という主張で避け回ってきた文在寅政権は、かなり困難な立場に置かれるという。さらに長期化する中国との貿易紛争で北朝鮮問題に対するトランプ大統領の関心が徐々に減っているため、文在寅政権が待ちわびている「米朝対話の早期再開」は一層難しくなるだろうという悲観的な見通しも相次いでいる。

「見回しても関係改善されている国は見当たらない」

 韓国No.1の経済専門紙『毎日経済新聞』は社説で、「令和時代初の国賓として訪日しているトランプ米大統領安倍晋三首相との『蜜月外交』が注目を浴びている」と、両首脳の親密な日程を詳しく報じた。それに比べ、文在寅政権は、北朝鮮の核問題をめぐって米国との間では意見の食い違いがたびたび露呈し、日本とも対立するなど、「周辺のどこを見回しても関係が改善されている国は見当たらない」と批判した。

『東亜日報』は、「北朝鮮の核問題と南北関係改善に『オールイン』(すべてをかける)してきた文在寅政権の外交が、北朝鮮の非核化が足踏み状態になったことで東アジアで孤立している」と指摘した。加えて、「日韓関係は過去最悪であり、米国との不協和音は後を絶たない」「一方、日米は、第2次世界大戦後、最高とも言われる『新蜜月』時代を謳歌している」などと評価した。

 さらに、文政権外交部では、トランプ大統領文在寅大統領との間で行われた電話会議の内容が野党議員によって暴露されるという大事件も起こった。暴露された内容は、文大統領トランプ大統領に対して「5月に日本を訪れる際に、韓国にも少しでもいいので立ち寄ってほしい」と懇願するようなやり取りだった。この事態を受けて大統領府は、電話会談の内容を野党議員に漏らした犯人を捜し出すため、外交部職員たちの携帯電話を没収して検査を行い、与党は件の野党議員を「3級機密漏洩」の疑いで検察告発した。それに対して野党側では「与党の元議員も昨年、放送に出演して通話内容を流出した」と反撃するなど、騒ぎはますます拡大している。大統領府、外交部と国会まで総動員された「修羅場」が続く中、肝心なトランプ大統領の訪韓日程と議題に対する議論はまったく進められていない。

 北朝鮮問題に前のめりになったあげく、国際情勢を読み間違っている大統領府や、アマチュア的な失敗を繰り返す外交部によって、韓国外交の「ガラパゴス化」はこれからも続く見通しだ。

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2019年4月11日、ホワイトハウスで、トランプ大統領と文在寅大統領による米韓首脳会談が開かれた(写真:AP/アフロ)