オリヴェイラ監督が重視したセットプレー、接戦の勝利を呼び込んだ面も

 浦和レッズは28日夜、オズワルド・オリヴェイラ監督との契約を解除したことを発表した。同時に、昨季に暫定監督を務めた経験のある大槻毅氏が後任として発表されたが、浦和がシーズン中に監督を交代するのはこれで3年連続の事態となった。

 浦和は2017年の夏、5年半にわたって指揮を執ってきたミハイロ・ペトロヴィッチ監督との契約を解除し、堀孝史コーチが監督に昇格し、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)を制した。その翌年となった昨季は堀監督の下でスタートしたが4月上旬に契約解除。ユースチームの監督も務めていた育成ダイレクターの大槻氏が暫定監督に就任し、同月の下旬にオリヴェイラ氏が正式監督に就任。そして、シーズンのラストタイトルとなった天皇杯を獲得して今季のACLへの出場権を得た。

 2年連続で監督交代の起こったシーズンにタイトルを獲得すること自体がサッカー界ではレアケースだが、鹿島アントラーズリーグ3連覇を果たした実績を持つオリヴェイラ氏の就任はチームに違った風を吹き込んだのも事実だった。特に、ペトロヴィッチ監督の時代にあまりトレーニングを行ってこなかったセットプレーを重要視し、毎試合を前に必ず確認の時間を設け、接戦の勝利を呼び込んだ面もある。

 また、オリヴェイラ監督が強さを見せたのは、「特別な試合」とターゲットを絞ったタイミングだった。例えば昨季はリーグ戦での3位以内が苦しくなると、天皇杯ターゲットを絞った。それに向けリーグ最終節では大幅に選手を変更し、準決勝の鹿島戦と決勝のベガルタ仙台戦の前には、サポーターに前日練習への来場を呼び掛けて優勝への機運を高めた。

開幕に向けたアプローチ段階で選手たちの口から不安、FW負傷で攻撃のアイデアも不足

 今季で言えば、21日のACLグループステージ最終節となった北京国安(中国)戦の前になったリーグ戦の湘南ベルマーレ戦で大幅なターンオーバーを敢行し、北京国安戦では今季最高とも言えるハイパフォーマンスを発揮して3-0の勝利を収めている。

 一方で、リーグ戦での成績が安定していたかという点では疑問符が付いた。昨季も最終的にリーグでの成績は勝ち点51の5位だった。特に、下位6チームからの獲得勝ち点が非常に少なく、引き分けを悪くないと考えて臨んでくる相手に勝ち切れない点は最終成績に大きな影響を与えた。オリヴェイラ監督は折に触れて、昨夏の加入後にゴールを量産した後に負傷離脱したFWファブリシオの不在を嘆いたが、それを補う攻撃のアイデアを提供し切れなかったのは否定できないところだろう。

 そして、今季の開幕前に行ったトレーニングキャンプではフィジカルを鍛えた反面、2次キャンプの最終日に1回しかトレーニングマッチを行わなかったことも特徴的だった。オリヴェイラ監督は「今季は70試合をする可能性がある」と、練習に時間を使いたかったという旨を話したが、大半の選手たちにとっては経験のないシーズンへのアプローチで不安を口にすることもあった。結果的に、シーズンのスタートから公式戦3戦未勝利という立ち上がりになったことで、悪いサイクルに足を踏み込んでしまった感はある。

 また、全体的に主力メンバーを固定する傾向があり、敗戦後に連戦やコンディションについて言及することが多かったのも、少し印象が悪かったのかもしれない。今季のスタート前、新加入選手会見の後に中村修三GMが30人のチームというリクエストがあった旨を明かしていたが(実際には31人でスタート)、そこに含まれるセレッソ大阪から獲得の元日本代表FW杉本健勇のように出場機会をほとんど与えられていない選手もいた。

指揮官が様々な要望も…クラブが声明「それらを生かし切れているとは言えない現状」

 そうしたことが、クラブが発表した声明の「オリヴェイラ監督の要望を受け、コンディション回復機器の導入や、食事の提供などのサポートを実施してきました。しかしながら、それらを生かし切れているとは言えない現状があり」という部分にもつながるのだろう。

 いずれにしても、今季の浦和はホームでのリーグ戦が1勝1分5敗という成績で、これも今回の決断に至った理由の一端だろう。後任となる大槻監督は、昨季の暫定監督就任時にホームの埼玉スタジアムで戦う心構えを選手たちに説いたことでも知られるだけに、リーグきっての大サポーターの心を動かすようなプレーを見せることがチームを好転させる力になるはずだ。

 昨年4月にやって来たオリヴェイラ監督は、天皇杯のタイトルとACL決勝トーナメント進出を置き土産に浦和を去ることになった。昨季の暫定監督就任時に多くの選手にチャンスを与えた大槻監督の下、浦和はチームのダイナミズムを取り戻すことができるだろうか。(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)

浦和がオリヴェイラ監督との契約を解除【写真:木鋪虎雄】