「就活ルール廃止」「終身雇用を続けるのは難しい」発言が 大きな波紋を呼んだ経団連・中西宏明会長。 初の著書となる『社長の条件』では、これから激変するであろう キャリア・採用・大学教育について、すべてを語り尽くしている。
 結局、就活はどうなるのか? ビジネスパーソンは今後いかにキャリア形成をすべきか? 対談相手は、東大京大の就職人気ランキング10位(就活サイト・ワンキャリアによる2018年調査結果)のコンサル会社・経営共創基盤(IGPI)のCEOにして、企業再建の第一人者である冨山和彦氏。

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なぜ、いま新卒一括採用について疑問を出したのか

冨山 採用といえば、中西さん、新卒一括採用について疑問を出されて、大騒ぎになりましたね(笑)

中西 だから、リクルーター制度なんかも含めて一括採用というのはどうなのかな、と素朴に思ったわけですよ。

冨山 そもそも、問われるべきは本来あるべき姿、ですよね。

中西 もうおっしゃる通りです。

冨山 グローバル企業の日立なら当然だと思いますが、グローバル採用型になっている。

中西 そうならざるを得ないんです。

冨山 ですよね。

中西 ただ、メディアから聞かれるときは、採用が個社の話として聞かれるんですよ。何人採用しますか、といった具合に。例えば新聞などは、それを記事に絶対にしないといけない義務感を持っていますからね。そういう記者が多いでしょう。

 だから、案を作って発表します。でも、もともと採用は、海外でもやっていますから。グローバルに事業をやっていけば、海外の人材をどう活用していくか、ということは当たり前に考えないといけない。

 ただ、彼らはいつ大学を卒業するか、いつ職を求めるのか、というと、日本とはまったく違うわけですよ。

冨山 だいたい、3月卒業じゃないですからね。

中西 そうなんです。だから、日本の卒業時期という前提に立つと、一斉に一括採用ということ自体、違和感があると言わざるを得ないわけです。それが悪いなんてことは、まったく言っていないですよ。悪いとは言わないけれど、違和感がある、とは言わざるを得ないということです。

 グローバルに採用するとすれば、一括採用自体が難しいわけですから。卒業時期が違うんですから。

冨山 新卒一括採用で、これだけでちゃんとやれ、と言われると困っちゃうわけですね。

中西 はい。それが前提で、いつから何をする、という時期が固定されているというのは、やっぱり世界から見るとおかしいと思うわけです。それが、素朴な私の発言の原点だったんです。

冨山 グローバルに将来活躍しようと思っている学生も、同じですよね。海外に留学していたら、卒業時期はずれますからね。

中西 ちょっと振り返ってみると、今から4年ほど前でしょうか。東大が9月卒業を検討している、なんて話が出て来たら大変な騒動になってしまった。結局できなかったですけど、あんな騒動もおかしい、と思うんですよ。

新卒一括採用は、日本のすべての若者を幸せにしたか?

冨山 でも、採用では、なし崩し的に、いろんなやり方が出て来ているようですけどね。

中西 だから、こういうことって、グローバルスタンダードのようなものがあるわけでも何でもないんです。労働市場というのがマーケットとしてあって、そこに自分たちが入っていく。学生にはそう思ってほしいし、採用側も、そのマーケットでいい人をきっちり採るための仕掛けを考えてください、ということだけですよね。

 お互いの市場性がしっかり確立する、というのが、前提条件なのに。

冨山 学生にも選ぶ権利はありますからね。

中西 あります。

冨山 むしろ最近は、学生のほうが強いですから。

中西 売り手市場ですから。ときどき氷河期というのがガーンと来ることもありますけど、これも市場ですから。市場として成り立っているんだとすると、景気が回復すればそのとき、いい就職先がなかった人も、次のチャンスをどんどん得られるという、そういう方向が極めて自然だと思うんです。

冨山 いわゆる氷河期世代は気の毒だったわけですが、私は前から日本型の新卒一括採用が産み出した悲劇の世代だと思っているんです。結局、あの新卒の就職のタイミングしかチャンスがないので、あそこを逸してしまうと本来のコースに戻れなくなってしまうんです。あの氷河期世代は、象徴的でした。

中西 どうして、そんなふうになっちゃうんでしょうね。

冨山 そうなんですよ。だから、「新卒一括採用のおかげで、日本の若者たちは幸せになってきた」と声高に主張している学者とか評論家とかがいるんですけど、「じゃあ、氷河期世代はどうなんだ」と私は言いたいわけです。そういうことを言う学者や評論家は、まったくわかっていない。

中西 同感ですね。

大学生が勉強しなくてよい時代は、とうの昔に終わった

冨山 新卒一括採用は、高度成長期の加工貿易立国時代に有効だったんです。すべて日本でやっていた。日本のメーカーは日本で完結していましたよね。原材料を輸入して、製品にして輸出する、というモデルでしたから、日本国内の事情でやっていけた。それで世界で勝てた時代がけっこう長かったんです。

 また、その時代は基本的に人手不足でした。人手不足の中で大量一括採用が行われていた。それが終身年功制とつながって工場での共同作業とも相性がよかった。均質な生産活動を量的にこなしていくことが求められていましたから、とにかく号砲で一斉に就職活動が始まって、同じ日程でことを進めるというのは、効率が良かったんでしょうね。

中西 要するに、生産設備を作っていくのと、まったく同じプロセスなんですよ。地方から金の卵を採用したり。それが産業の構造とピタッと合っていた。

冨山 合ったんでしょうね。たまたまそれが30年くらいわりとうまく機能しちゃった。日本型経営とか日本型雇用慣行というのは、ある時期、ある社会状況、ある産業構造の中で、たまたますごくフィットしたんだと私は思っているんです。

 それを、我々の先輩方がうまく作ってきたのは間違いない。でも、産業構造が変わり、社会構造が変われば、当然それを変えていかないといけないんです。でも、あまりにうまくいってしまったものだから。

中西 成功体験が大きすぎた。

冨山 ものすごくイナーシャ(慣性モーメント)になってしまって、それをなかなか変えられなかった。その結果としての、バブル以降の30年近くじゃないでしょうか。

中西 それは採用の問題だけじゃなくて、雇用そのものとか、会社のオペレーションそのもの、企業の教育プログラムもそうですよね。

冨山 全部つながってきますね。学校教育も。

中西 だから、大学なんて勉強しなくていいよ、となった。元気があって、スポーツ系がいい、なんてことが言われたり。

冨山 明るくて丈夫で、みたいな。

中西 それを入社後に、いかにトレーニングしていくか、と。そういう徒弟制度的なシステムがずっとあって、別にそれでうまくいくんだったらそれでいいんですよ。でも、そういうモデルは、とうの昔に壊れてしまっている。

一括採用型、通年採用型、インターン採用型。就活は多様化の時代へ

冨山 通年で自由に採用するという形は、グローバル企業では一般的なんですよね。

中西 そう思いますね。だから、まず自分たちはどんな人材を欲しいかということを、ウェブでも何でも公開していて、そこで応募してくれれば、ちゃんとあるプロセスでもって受け付けて採用していく、という仕組みです。

 日立はだいたいそういうことはもう用意してあります。それとは別に一括採用もやっていますけど、今は。

冨山 多くの企業が、そうした複数の流れになってしまっているんじゃないでしょうか。でも、やっぱり優秀な学生、グローバルに戦ってもらいたいなと思えるような学生たちの採用が重要ですよね。

 当社などは、ほぼそういう採用しかしないじゃないですか。インターンもそういう子が対象ですが、基本的にものすごく勉強している印象がありますね。それぞれの分野で。最近は理数系が多いですが、生命工学なら生命工学をすごく勉強している。その上で、ほぼ1週間のインターンにやってくる。

 ときどき、インターンと学業の二律背反は問題だなどと言う人がいます。でも、申し訳ないですが、私自身も出ていって、1週間の間にそれこそ大学の単位1個ぶんくらいのことは授けようと思っています。かなり気合いを入れてやっています。東大京大就職人気ランキングで弊社が10位と高いのは、インターンの影響が大きいです。すぐに噂で流れますから。

 そして、インターンは採用に直結する、とも言っています。

中西 インターンって、もともとはそういうもんじゃない?

冨山 そういうもんですね。

中西 日立がやっている制度がいいとは思っていないけど、うちは8、9割が理系採用なので、夏休みに夏季実習という格好でインターンをしてもらうんです。工場や研究所で、本当の仕事の中に入れちゃう。

冨山 それは最高ですね。インターン後は、リアルワールドも見て、ちょっと勉強する感じが変わるんじゃないですか。

中西 だと思いますね。それは大学側が、そういうことを義務づけているケースと、推奨しているケースと、まったくやっていないケースと、いろいろあるんですけど、けっこう先輩がたくさんいる学科についていうと、必ず来ますよね。
 実際には、けっこう辛いな、と言って帰るみたいですけど(笑)

冨山 でも、彼らは嫌々やっているわけじゃない。

中西 それは違いますね。だって、サボったって怒られるわけじゃないですし。

冨山 必死に学ぼうと思っているわけですから。

とはいえ、一括採用が消滅するわけではない

冨山 今後は、インターン採用や通年採用と、一括採用とで、複線化していくんでしょうね。

中西 一括採用はなくならないでしょう、たぶん。

冨山 一括の流れに乗ったほうがいいタイプの企業とか、そういうタイプの学生はいますから。

 私たちの「みちのりホールディングス」という子会社は、東北地方を中心に地方の公共交通機関の再建と経営を行っていて、連結ベースで約5000人の従業員がいますが、ああいう仕事のオペレーションを担ってもらうような基盤人材の新卒採用は、一斉採用の方が合っているように思います。

 同じく私が社外取締役をやっている東京電力において、その中核業務である発電所の運転や送配電網の維持管理を担ってくれる皆さんなんかも同様かも知れません。

中西 だから、複線化は極めて自然ですよね。

冨山 それこそ、途中で1年なりの短期留学で学ぶ学生も増えています。そうすると、卒業式が半年ずれる。留学している間は就職活動できない。しかも、そういうところに、優秀な学生はいますから。ところが9月卒業です。だから、一斉には乗らない。

 当然、複線化しますよね。そしてグローバルに戦っていって、そこで自己実現をしたいという能力と意識を持っている学生は、世界に行こうという傾向が強いんですから。

中西 だから、やっぱり複線化せざるを得ないでしょ。グローバルに採用しようとすると。

冨山 企業側も、世界中で採用するわけですからね。

#2へ続く

なぜ経団連会長は「大学は、理系と文系の区別をやめてほしい」と大胆提言するのか へ続く

(「文春オンライン」編集部)

©平松市聖/文藝春秋