右手に金属製の工具、左手には刃渡り30センチはある刃物を持った屈強な男が、路上にうずくまりながら必死で逃れようとする男性の頭部に、工具を振り下ろす。男性は何とか上半身を起こすが、男は振りかぶって再び工具を打ち付け、続けざまに刃物で肩付近を刺した。倒れ込んだ男性はこの時点で相当、負傷しており、足を力なく上げるものの、防ぐことができない状態だった。

 周囲の女性らは「死んじゃう、やめて、お願い!」「やめてー!」と悲鳴を上げて恐怖におののく。その間も男は凶行をやめなかった。身体を折り曲げ、まるで許しを請うような姿勢で耐える男性の後頭部目掛けて、渾身の力で工具を振り下ろしたのだ。

 喧噪に包まれながらも、振りかぶっては「おい! おい! おい!」と男が発する野太い声と、金属の凶器が頭部を破壊する異様な音が聞こえる。後頭部に三度目の打撃を受けた直後、男性は反動で身体をのけ反らせて倒れ、抵抗することをやめた。しかし、男はなおも襲い掛かり、怒声を上げてなぶり続ける。

 悲鳴が飛び交う中、1人の女性が男に駆け寄り、対峙して説得しようと試みるが、男は「なんじゃ、コラー!」と凄む。さらに別の女性も近づくが、男と横たわる被害者のそばに駆け寄った直後、悲鳴を上げて逃げていく。「もう殺されとるで!」という周囲の女性の声が聞こえ、凶行を捉えた映像は唐突に終わる。

 これは犯行途中から録られ始めたと思われ、撮影時間はわずか1分30秒にしかすぎない。しかし、その間に男は、少なくとも30回ほど工具や刃物で男性の身体を痛め付けている。

 「鬼畜の所業といえる犯行は、5月25日の深夜、愛知県名古屋市中区栄の繁華街で衆人環視の中、行われました。午後11時13分に110番通報が入り、17分には『男性同士が殴り合い、人が倒れている』との119番通報も入っています」(全国紙社会部記者)

 警察官が現場に到着した際、男の姿はなく、被害男性の腹部には刃物が突き立てられていた。110番通報から20分後、警察官が現場近くにいた男の身柄を確保し、殺人未遂容疑で現行犯逮捕したのである。

 「被害男性は病院に搬送されたのち、死亡が確認されました。現場には男がはめていた黒い手袋と凶器が残されており、路面にも相当量の血が流れていたので、凶行の途中、すでに事切れていた可能性があります。男の容疑も殺人に切り替わるでしょう」(同)

 犯行映像はSNSアップされ、腹部に刃物が突き刺さった被害男性の写真と共に、瞬く間に拡散された。仰向けに倒れた男性のTシャツは広範囲にわたって赤く染まり、迷彩柄の半ズボンもどす黒い血を吸って模様が分からないほどだった。その写真を見る限りでは、男性の身体は弛緩し切っており、手の施しようがないことが分かる。

 この映像などを目にしたのは、何も一般人だけではなかった。むしろ、ヤクザ業界内では凄まじいスピードで広まった。なぜならば、山口組が分裂して対立が深まる中、六代目山口組の中核組織である弘道会の本拠地、名古屋で起きた事件だった上、加害者と被害者共に渡世歴があったからだ。

 「加害者の山城清幸は、弘道会傘下組織に所属したことがあり、被害者は今は敵対関係にある山健組傘下の組員だった。すでに2人とも組織を抜けているが、所属した先を聞いたときは抗争事件の可能性もあると思ったくらいだ」(地元関係者)

 しかし、拡散された“殺人動画”を目にした多くの組織関係者らは、山城容疑者の凶行について「異様すぎる」と口を揃えた。

 「ヤクザの殺し方じゃないだろ。俺らは親分、兄貴、組織のために身体を懸ける場合、道具(拳銃)で心臓を1発撃ち抜くとか、キレイに結果を出すことにこだわる。あんなに時間を掛けて、なぶり殺す必要なんかないからね。あの殺り方は俺らから見てもひどすぎる。感情で殺しに掛かっているのが分かるし、動機は組織のためなんかじゃないはずだ」(別の地元関係者)

 実際、逮捕された山城容疑者は「相当の恨みがあった。殺そうと思った」と供述しているという。

 「2人とも面識があったようだ。同じように覚醒剤の前科持ちで、ムショを出たり入ったりしていたんだ。山城は5月に出所したばかりで、服役中に女絡みなどで被害者への恨みを募らせていたようだ。ムショで一緒だったやつに聞いたら、中では大人しくて存在感もなかったらしいけど、その反面、ヤバイやつだって話もあったみたいだな。

 犯行当日、被害者が店で飲んでいるという情報を聞きつけ、凶器を持って待ち構えていて、男女複数人で出てきたところを襲ったようだ。手袋をしていたのは、凶器をしっかりと握れるよう滑り止めのためだったんじゃないか。計画的な犯行で、あの執拗な殺し方も恨みからくるものだったのだろう」(事情を知る関係者)

 SNSで拡散された動画について、一部では「撮影などせず、すぐに被害者を助けるべきだ」「野次馬は無責任すぎる」といった批判の声も上がった。しかし、あの惨劇を目の当たりにし、丸腰の素人が止めに入るのは無謀である。

 「血まみれで息絶えていく被害者を、為す術もなく見ているしかなかった周囲の人たちもまた、被害者なのではないでしょうか」(前出・全国紙社会部記者)